IoTスタートアップと老舗商社の資本提携、その背景とは
ー案件の概要について教えていただけますでしょうか。
売り手様は、関西でITシステムの事業営まれている40代のオーナー様が経営されている企業様でした。事業の発展のため、第三者割当増資において出資を受けられました。スタートアップのベンチャー企業様でIoT技術に強みを持っており、センシングやシステム開発を得意とされている企業様です。一方、出資者様は関西で業歴70年以上のネジの卸商社様でした。
ー第三者割当増資についてもご説明をお願いできますでしょうか。
第三者割当増資とは、株式を完全に譲渡するのではなく、一部の株式を外部の投資家に出資してもらう形です。大株主は引き続きオーナー様が保有し、完全な株式譲渡や事業譲渡ではなく、お互いに関与しながら経営を行うというスタイルです。この方法の目的は、キャッシュを得てさらなる投資を行うことや事業の成長を加速させるために他の企業様との業務提携や資本提携を進められることです。
資金繰りと成長のジレンマ 売り手の抱えた課題とは
ーオーナー様が抱えていた不安、課題、M&Aを検討された背景はどのようなものだったのでしょうか?
売り手様はスタートアップベンチャーということもあり、資金繰りが不安定で、ベンチャーキャピタルやファンドからの出資を受けていたものの、今後の成長のためには新しい事業の展開と売上の確保が必要だったため、出資者様を探すことが求められていたという背景があります。
新たな事業が生まれる瞬間:新事業発掘の可能性
ーM&Aに対する不安や課題を売り手様は抱えていたと思いますが、それに対してどのようなアプローチをされたのか教えていただけますか?
まずは、会社様の強みを丁寧にヒアリングさせていただきました。売り手である会社様の強みは、センシング技術にありました。具体的には、長さや温度、音などを3Dで測定できる技術を持っており、これをデータ化して分析できる点が非常に強みです。買い手様を探す中で、偶然、私のお客様にネジの商社をされている方がいらっしゃいました。元々、新しい事業のアイデアを探しているというお話を伺っており、「ネジの緩みを自動でセンシングして、メンテナンスを管理できるシステムを構築できないか?」という話をされておりました。これを聞いて、センシング技術を持っているスタートアップと組むと面白いかもしれないと思い、お繋ぎさせていただいたのがきっかけです。また、この取り組みのおかげで新しい事業が立ち上がったことが、1番印象に残っております。
ー新しく立ち上がった事業は、どのような事業だったのでしょうか?
例えば、大型のネジを使用する風力発電のプロペラがあります。ここで、ネジが緩むと大変なことになってしまうので、定期的にメンテナンスを人力で行っている状況です。しかし、そのネジの商社様にとっては、コストもリスクも高く、危険度も伴う仕事でした。その中で、「もしネジの緩みを自動で検知できるセンサーがあれば、事前に対処できるのでは?」というアイディアがありました。この会社様が持っているセンシング技術を活用してセンサー付きのネジを開発し、データも収集できるシステムを作ることができ、新しい事業として立ち上がりました。
ーM&Aの成約前にそのようなアイデアが出てきたのでしょうか、それともM&A後に具体化したのでしょうか?
トップ面談の段階から、そういったアイデアについて話し合っておりました。最初は業務提携という形から始めようというお話だったのですが、その後、買い手様側が資金繰りや今後の成長について出資を求められておりました。具体的なお話が進む中で、「出資してみませんか?」というご提案をさせていただき、実現に至りました。
ートップ面談からはどのような流れでこの案件は成約にいたったのでしょうか。
トップ面談を行って、お互いの事業について話し合い、どのように組み合わせられるかを考えました。その後しばらく時間が空いていたのですが、出資者様側から「本格的にこの事業を立ち上げたい」との意向がありました。さらに、その技術を持っている会社様は日本にはあまりないので、「あの会社と組めば面白いかもしれない」と考えていただき、一度発注をしたいというお話になりました。そこで見積もりのご提案を受けたわけですが、それと同時に出資を受ける側からも「出資をしてほしい」とご相談を受けました。そこで、「今回の発注だけでなく、出資をして資本提携したほうが、もっと大きなシナジー効果があるのでは?」というご提案をさせていただきました。最終的には、そのご提案が決断のきっかけとなり、出資いただくことになったという流れです。
両者が得た満足感―提携の成功要因を振り返る
ー売り手・買い手、双方のオーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。
売り手様にとっては、思ってもみなかった提携先ができたという点が非常に大きかったです。これまでとは異なる属性の顧客様が新たに広がり、自社の強みを活かせる新しい展開を見つけられたという点が、売り手様にとっては大きな成果となったと感じております。一方で、買い手様側に関しては、新規事業を立ち上げるという観点で、出資を通じて優先的に開発協力してもらえるというイニシアティブを得られるというメリットがありました。これが非常に大きなポイントだったと思います。
ーM&A成約後のアフターストーリーがございましたら、教えてください。
サービスができて、これから売っていくタイミングです。
M&Aは多様な選択肢!新しい成長の形をご提案
ーM&Aをご検討されている方々へメッセージをお願いします。
M&Aにはいろんな選択肢があると思っております。全て株を渡すという方法だけではなく、一部資本を入れることで自社を伸ばしていくというアプローチも十分に考えられます。もし、自社をより成長させたい、もしくは自社だけでは限界を感じている場合、そういった相手と組んで一緒に事業を拡大していくことも一つの選択肢だと思います。ぜひ、そのような視点を持たれている方がいれば、ご相談いただけると嬉しいです。
弊社が得意とするのは、譲渡対価1億円以下の小規模M&Aです。多くの仲介会社様が積極的に取り組まれない領域をサポートしております。もし、自分自身の会社が売れるのか不安であったり、早く売りたいけれど、どこが対応してくれるのか分からないという方がいれば、ぜひ弊社にご相談いただければと思います。
この案件では、IoTスタートアップと老舗商社という異業種同士の資本提携が実現しました。特に印象的な点は、双方の強みを活かした新しい事業の創出に至った点です。
一部資本提携を活用しながら、双方が成長を目指す「共創」の形を実現することが成功の鍵であり、その結果、スタートアップ企業の技術力と商社の業界ネットワークが見事に融合し、具体的な価値創造につながった事例だと感じました。
アドバイザーとして、こうした案件における「柔軟な選択肢」を提案することこそが、企業の未来を切り開くために重要な役割であると改めて実感しました。