九州の田舎の人里離れた場所にある温泉旅館の案件です。70代過ぎの女将様が、ずっと手塩にかけて育ててきた旅館でしたが現在は人手も足りず、訪れる人も少なく、お子様もいらっしゃらないという状況でした。そのような中、この旅館を譲ってもらいたいという話があり、偶然にも東京にあるウェブ系の広告事業を行っている会社様に譲渡した案件です。
80年近くその女将様が限界集落でお一人で続けてきた想いが途絶えてしまうというご不安がありました。また、周囲の人々は、この旅館をなくしてしまいたくないという想いが強く、「女将さんがいるからこそ、この村が生き生きとしている」と感じられておりました。そうした想いをどのようにして繋げていくかが大きな課題でした。
オーナー様にとって、その旅館は単なる自分自身の財産ではなく、地域全体の財産だという認識がありました。もしその灯火が消えると、村全体の価値が失われてしまうのではないかという懸念もあり、値段の問題ではなく、何が何でも旅館を繋げるという強い想いをお持ちでした。
田舎で80年も続けてきた人にとっては、風景を含め、当たり前のものが多くありました。しかし、東京のIT社長様にとっては、それが一つの財産に見え、まるで隠れ家的な秘密の場所があるように感じられたのだと思います。穏やかな場所でSUPもできるし、キャンプやグランピングもできるため、若い方たちはこうした場所にいろいろな可能性を見出して、夢を膨らませているように感じました。
一方で、地元の方たちは、「誰がこんな田舎に来るんだろう?」とお話をされておりました。それが面白いギャップだと感じ、このギャップこそがストーリーになると直感的に感じました。実際、いくつかの買い様がいらっしゃいましたが、その中でもこの方に絞り説得を続けました。買い手様自体は、「本当に人が集まるのか?」ということに疑問を抱き、かなり悩まれていたようでした。
元々旅行関係ではなく、広告業を中心に車の広告やCMの制作、集客関連の仕事をされていたようです。ただ、正確には私も詳しくは存じておりません。しかし、それは重要ではありませんでした。最も重要なことは、地元の女将様が渋谷のIT社長様を自分自身の息子のように思ってくれるかどうかという点でした。そのため、女将様が買い手様をファーストネームで呼んでくれるようになれば、大丈夫だと思い、私自身も積極的にファーストネームで呼ぶように心がけておりました。そのうち、自然に名前が出てくるようになり、女将様も買い手様を息子様と思い始めてくれました。
それに加えて、買い手様が素晴らしかったのは、弟様が沖縄でツアーガイドをしていたことです。弟様を旅館に呼び寄せ、沖縄には既に弟様と同様の仕事をしている方が多いので、ぜひここで新しいコンテンツを作ってほしいというお話をされておりました。弟様もブルーオーシャンを感じたのかこの村で今までの経験を活かして新しいことを作るという話になりました。その様子を拝見し、上手くいく予感がしておりました。
沖縄に移住していた弟様を呼び寄せて、弟様がずっと旅館に住み込んで働いております。勝ち筋も見えてきている印象も強く、私自身もよかったと感じております。
実は隣の旅館を某大学の駅伝部が購入され、ランニングの聖地として活用されております。元々その地域は高地なこともあり、ランニングに適したポテンシャルがありました。地域全体の公共財産ではありますが、地元の方たちだけしか利用しないのは非常にもったいない状況でした。
バランスシートには表れない部分ですが、旅館に限らず、その村全体、地域全体をひとつの財産として捉えられるかどうかが非常に重要だったと感じております。実際、某大学の駅伝部が購入された後は、マラソン界のレジェンド皆様が高地トレーニングを行う聖地として注目されております。このこと自体は偶然の出来事でしたが、非常に大きな価値を生み出しております。
私は、業歴が長い会社様は非常に価値があると考えております。その地域に深く根付いているということ自体が大きな財産であり、意味があることだと思っております。これは数字や決算書には現れない部分ではありますが、そのような価値をどれだけ魅力的に伝え、将来成長するというビジョンを共有できるかが重要です。そうしたストーリーを一緒に作り上げていくことは、非常に夢があり、楽しいことだと感じております。
ヘリテージパートナーズ株式会社
株式会社アルファコンサルティング
株式会社TabijiPartners
株式会社TabijiPartners
本件は、地域資産を未来に繋ぐ素晴らしい事例です。女将様の想いが新たな形で引き継がれ、地域全体が再生されました。