運送業オーナーがM&Aを検討した理由とは?本業集中への第一歩
ー案件の概要について教えていただけますでしょうか。
売り手様の業界は運送業でした。2つの事業を運営されておられましたが、運送業だけの規模は売上が約1億円でした。一方、買い手様も運送業を営まれている方で、売上が約10億円の企業様でした。
ーM&Aに対する不安や課題をオーナー様は抱えていたと思いますが、オーナー様が抱えていた不安、課題はどのようなものだったのでしょうか?
売り手様は、本業に集中したい、事業の選択と集中を進めることで経営の効率を高めたいというご意向をお持ちでした。しかし、M&Aを検討される際には、これまで経験がないため、どのように進めればよいのか、誰に相談すればよいのかという点に大きな不安をお持ちでした。また、ご自身の会社が本当に売却可能なのか、適切な買い手様が見つかるのかといった点についても心配されておられました。 事業の選択と集中を進めたいという明確なご意向がある一方で、M&Aという手段が、果たして適切なのかという点を不安に思われていました。
2つの選択肢を提示!M&Aアドバイザーが導いた最適解
ーM&Aに対する不安や課題をオーナー様は抱えていたと思いますが、それに対してどのようなアプローチをされたのか教えていただけますか?
まず、売り手様がご不安に感じられている点についてお話を伺いました。その際、最初からM&Aを進めるのではなく、売り手様が実際に運営されていた2つの事業をさらに成長させる方法がないかを一緒に検討することから始めました。自社だけで2つの事業の売上や利益をさらに向上させるためにはどうすればよいのか、打ち合わせや提案を通じて話し合いました。その中で例えば、運送業の事業を売却する場合には、どのような買い手様が興味を持たれるのかといったシミュレーションも実施しました。このように、M&Aを活用した場合と自社のみで成長を目指した場合の2つのシナリオを比較しながら、お話を少しずつ進めていきました。
エリアの強みを最大化!ピンポイントの買い手を探す難しさと出会いの奇跡
ー最終的にどのような要因で売主様はM&Aを検討されたのでしょうか。
事業者様は、軽貨物の運送事業者様だったのですが、特定の地域、例えば渋谷区なら渋谷区を完全に抑える形で運送業を展開されており、ラストワンマイルと呼ばれる配送領域で強い存在感を持っておられました。ただし、その強みが及ぶ範囲は限られており、例えば、新宿区や豊島区など広域にわたるエリアには進出できていないという課題がありました。そこで、売り手様が事業されておられる当該の限定されたエリア、強みを活かせる買い手様が現れた場合には、M&Aを通じて大きなメリットが得られると考えられました。買い手様が持つリソースと売り手様の地域的な強みが相互に補完し合うことで、売り手様としても売却する意義を見出すことができ、買い手様にとっても新たな価値を創出できると考えました。
ー印象に残っているエピソードや困難だったポイントについて教えていただけますか?
限定されたエリアに対し強みを持っているという特性上、そのエリアの魅力を感じている事業者様を見つけることが困難でした。しかし、偶然にも広域に事業を展開している運送業者様で、当該の限定されたエリアをもっと強化したいというニーズがある企業様とお会いすることができました。
売り手・買い手双方が満足!M&Aを成功させた要因とは?
ーこの案件が成功した要因は、どのような点になるのでしょうか。
売り手様と買い手様の双方が、この案件を通じて大きなご満足を得られたことが最も重要な成功要因だったと考えております。買い手様にとっては、当該の限定されたエリアでの事業強化という目的を達成することができました。また、売り手様も長年ご自身で手塩にかけて育ててこられた事業を、価値を認めていただける買い手様に託すことができたという安心を感じていただけたことが1番大きな要因だったと思います。
ー売り手のオーナー様が最も満足されたのはどのような点だったのでしょうか。
会社全体ではなく、事業単位でのM&Aでしたが、自分が育ててきた事業が新たな環境でさらに大きく成長できるという見極めをしていただいたことだと思います。
譲渡後の新たな未来!M&Aがもたらした運送業者の成長
ーオーナー様とのアフターストーリーがございましたら、教えてください。
売り手の事業者様は、2つの事業を運営されておりました。元々、集中したい事業があり、M&Aを行うことにより、経営資源や意識を集中させることができました。また、残した事業の拡大を図られる買い手様にもメリットがありました。買い手様は、当該の限定されたエリアについて、全く事業を行っていたわけではありませんでしたが、買われた事業に取り組むことでその地域の事業を強化することができました。結果、利益面でも大きな成果が得られたと伺っております。
ーM&Aをご検討されている方々へメッセージをお願いします。特に運送業に特化したものがあれば、お願いいたします。
私自身、運送業の事業者様と関わる中で、地域やトラック、運送形態など、それぞれの事業者様が強みを持っておられるのではないかと感じております。一方で、「自社には、果たして強みがあるのだろうか?」「どういったものを買ったらいいのか?」と疑問を抱かれる事業者様も多いのではないでしょうか。しかしながら、今回紹介させていただいた事業者様を含め、これまで実際にお会いしてきた事業者様は、それぞれの特色を生かしながら、独自の強みをお持ちの事業者様ばかりでした。「自社には、果たして強みがあるのだろうか」とお感じになっておられる事業者様、ぜひ、相談にのらせていただければ幸いです。
今回の案件では、売り手企業の「本業集中」と買い手企業の「エリア拡大」という双方の目的が、M&Aを通じて高いシナジーを生み出した点が印象的です。特に、売り手企業が特定のエリアで築いた強みと、買い手様が広域展開を進める中でそのエリアを補完したいというニーズが、ピンポイントで一致したことが成功の鍵となりました。
また、売り手企業がM&Aに対する不安を抱えられていた中で、アドバイザーとして最初から「M&Aありき」ではなく、事業成長の選択肢を比較しながら進めました。このプロセスによって、売り手企業が納得感を持って意思決定できたことが、スムーズなM&Aの実現につながったと考えます。
加えて、買い手候補の探索において、エリア特性と買い手のニーズを的確に見極めた点も本案件の成功要因の一つです。運送業界では、単に売上規模の大きな企業が良い買い手とは限らず、エリア戦略や事業の方向性が合致することが重要です。今回のように「偶然」の出会いが生まれた背景には、適切な買い手候補のターゲティングと、戦略的なマッチングの努力があったからこそ実現できたのではないでしょうか。
譲渡後も、売り手企業が残した事業に集中でき、買い手様も新たな市場で事業を強化できた点は、まさにM&Aの理想的な形です。運送業に限らず、事業の選択と集中を考えられている経営者にとって、本件より参考になる点があれば幸いです。