売り手様は学生起業家が大学卒業後に立ち上げた、業務委託を含めて10名未満のスタートアップ企業です。創業者は建築の学部出身で、建築の学生に特化したメディアを運営されていました。買い手様は、何代も続いている地方の有名な建築・建設会社です。会社のカルチャーも規模感も全く異なる会社同士のディールでした。
売り手様は建築学生に特化したメディアを運営しており、広告収入などで一定の収益をあげていました。そこから、メディアの活用とともにHR事業に進出しようと動いていたのですが、学生起業家故になかなかtoBの接点を作ることが難しく、HR事業の立ち上げに苦労されていました。エクイティが入っている会社だったため、株主の意向もあってピボットを余儀なくされ、泣く泣くこの事業を手放すことになりました。売却後は、その資金を元手に新たな事業展開をしていくことを考えられています。
オーナー様としては、まだまだこれから事業を伸ばしていきたいという想いをお持ちでした。だからこそ、事業に対して深く理解してくれる相手を望んでいました。
オーナー様の意向を踏まえると建築・建設会社への譲渡を目指すのが最適ですが、そうなるとHR事業の展開は難しくなってしまいます。
非常に難しい局面でしたが、さまざまな企業にアプローチを行う中で、建築・建設業を手掛け、新たにHR事業を立ち上げたいと考えている会社を見つけることができました。この会社を見つけ出すのは、本当に大変でした。
買い手様はこれまで何度かM&Aを経験されていましたが、同業の買収経験しかなく、今回のような新規事業×M&Aというような形は初めての経験でした。また、買い手側はリソースが少なく、 経営企画部も人数が少なく、今回のディールも早急に進めなければいけないという時間と人材のリソース問題がありました。そこで、買い手様に渡すビジネスDDのレポートは、当社で作成することにしました。建築×HRの市場規模や、2024年問題など業界が抱える問題について情報をまとめ、対象企業の事業を買収することで得られるシナジーや、どれだけの数字が出せそうなのか、どのような組織体制を構築すれば良いか等をレポートにまとめていったことが、非常に印象に残っています。売り手様は「すぐにこの企業に譲渡したい」という意向をお持ちでしたが、買い手様の納得する形にする必要がありました。買い手様の「Go」の判断を得るために、 本来は売り手側で行うレポート作成を、当社でサポートしたことが大変ではありましたが、成功につながった要因だと感じています。
M&Aではスピード感が非常に重要だと考えています。じっくり考えることも重要なのですが、双方のスピードが合わないと、カルチャーが合わないと思われるリスクがあります。買い手様は非常に大きなレガシー企業だったため、当初はスピード感がなかなか満足いくものではありませんでした。しかし、売り手様に歩み寄り、思いやる気持ちをお持ちだったので、軌道修正にそれほど時間はかかりませんでした。歩み寄りの姿勢も、成功の大きな要因だったと思います。
建築・建設は少し尖っている領域で、そこに対して理解があり、かつスタートアップにも理解がある会社はなかなかありません。また、HR事業を作りたいというビジョンもマッチしており、業種や自分たちが実現したかったことに対する理解がある会社に譲渡できたことが、大きな満足につながっていると思います。
譲渡にあたってのフォローとして、スタートアップのような形で双方で合宿を行いPMIを進めていたのですが、フォローが終わってからも”人”としての付き合いが続いています。新しくこういうことを行うという報告であったり、東京に来る機会があれば一緒に食事をしたりと、非常に良好な関係を維持しています。定量的な部分では早期に事業が立ち上がり、1期目から収益がプラスになっています。定量・定性の両面で良い結果が得られたのではないかと感じています。
M&Aはよく「お見合いに近い」と言われますが、まさにその通りだと思います。本ディールでは、「このような希望を満たす買い手は出てくるのかな」と思っていたのですが、ピンポイントで理想的なお相手が見つかりました。オーナー様としては「ここに譲渡したい」という明確な希望がある場合は、その希望をぶらさずお相手を探してくれるパートナー、アドバイザーを見つけることが大事だと思います。私にご相談いただければ、全力で理想のお相手を見つけるお手伝いをさせていただきます。ぜひお気軽にご相談ください。
今回のM&Aは、スタートアップと老舗企業という一見すると異なるカルチャーを持つ企業同士が、共通のビジョンのもとで手を取り合う形となりました。オーナー様の熱意や譲渡先への深い理解が大きな成功要因だったと感じています。M&Aは単なる企業間の取引ではなく、想いの受け渡しでもあります。理想のパートナーとの出会いが、新たな可能性を切り拓くきっかけとなるでしょう。