経営者として、事業を育て、お客様に価値を届け、従業員やその家族の生活を守り、会社を存続・成長させていく──その真剣な歩みの中で、ある時ふと考えるのではないでしょうか。「このまま自分が経営し続けることが、本当にこの会社にとってベストなのだろうか」と。
M&Aによる譲渡は、会社を「売り飛ばす」ことではありません。自社の事業や従業員、そして関わるすべての人にとって、より良い未来を選ぶための、経営上の意思決定のひとつです。私自身、2017年に、私が創業し、代表取締役を務めていた株式会社エモーシブをクルーズ株式会社に株式譲渡しましたが、金銭的な目的からではなく、事業の成長を考えたうえでの決断でした。
その「決断の結果として生じるキャピタルゲインへの課税」が、2027年以降、大きく変わろうとしています。
2026年度税制改正大綱により、ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)が大幅に見直されます。具体的には、基準所得金額から控除する金額が3.3億円から1.65億円へと引き下げられ、適用税率も22.5%から30%へと引き上げられます。この改正は2027年分(令和9年)以後の所得税から適用される予定です。
「うちはそこまで大きな売却にはならないから関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし現行制度では株式譲渡所得がおおむね10.3億円以下であればミニマムタックスによる追加納税は生じませんでしたが、今回の改正後は株式譲渡所得が約3.4億円を超えると追加納税が発生する可能性があります。 会社を7〜8億円で譲渡し、オーナーの持分が50%程度であれば、既に対象となり得ます。中堅・中小企業のオーナーにとっても、決して遠い話ではありません。
具体的な数字で見てみましょう。株式譲渡所得が5億円の場合、現行では通常の申告分離課税(約20.315%)のみが適用され、追加納税は生じません。しかし改正後は、(500百万円 − 165百万円 )× 30% − 500百万円 × 15.315% = 約2,390万円の追加納税が発生します。 つまり、2026年中に譲渡を完了できるかどうかだけで、手取りが約2,390万円変わることになります。
「株式譲渡の時期が2026年までか2027年以降かで税負担が億円単位で変わる可能性がある」 という現実は、事業を通じて社会に価値を生み出してきたオーナー経営者にとって、腑に落ちにくい改正ではないでしょうか。
もし今、譲渡という選択肢を真剣に検討されているのであれば、このタイミングの問題は無視できません。M&Aのプロセスには、買い手候補の選定、条件交渉、デューデリジェンス、最終契約と、通常7〜9ヶ月以上の時間がかかります。なお、所得税の特例により株式譲渡契約の締結が2026年中であれば、2026年の所得として申告することが可能です。 税制改正の適用前に間に合わせるためには、逆算すると今から動き出す必要があります。
ただ、もちろん税率だけを理由に意思決定すべきではありません。譲渡という決断は、会社の現状と将来性、買い手との相性、従業員や取引先への影響、そして何よりオーナー自身がその選択に心から納得できるかどうかで判断されるべきものです。税制はあくまで、その意思決定における「知っておくべき条件のひとつ」に過ぎません。
税務の具体的な試算や対策については税理士にご相談いただくべきことですが、M&Aの戦略や進め方、そして「本当にこの選択が自社にとって正しいのか」というところから一緒に考えたい方は、ぜひM&A Leadにお気軽にご相談ください。