不動産業界は、土地や建物の売買や管理、賃貸など、多様な分野を含む重要な業界にあたります。
本記事では、不動産業界の概要から現状、さらにはM&Aの動向やメリット、具体的な事例を詳しく解説します。特に、不動産業界におけるM&Aを検討している経営者や、今後の業界動向に関心のある方にとっては必ず押さえておくべきポイントを解説していきますので、詳しく確認していきましょう。
不動産業界は、土地や建物といった不動産を取り扱う幅広い業種を含む業界です。不動産業界においては、不動産の売買、仲介、開発、管理、賃貸などの分野があり、それぞれが異なるビジネスモデルと役割を担っています。不動産業界は、主に以下の3つのセクターに分類されます。
不動産開発:不動産開発は、新たな建物や土地を開発する業務を指します。商業施設やマンション、オフィスビル、再開発プロジェクトなどを手掛けるデベロッパーが中心となり、都市開発やリゾート開発、再開発事業に取り組んでいます。
不動産流通:不動産流通とは、物件の売買や賃貸の仲介を行う業務です。不動産仲介業者が主にこの分野を担当しており、物件を探す顧客と不動産の売り手や貸主をつなぐ役割を担っています。この分野では、取引件数や手数料が業績に大きく影響します。
不動産管理:不動産管理は、所有物件のメンテナンスや管理を行う業務です。主に賃貸物件の管理業務を担い、建物の維持管理や入居者対応、修繕作業などを担当します。特に不動産管理はストック型ビジネスであり、安定した収益を上げるビジネスモデルです。
公益財団法人不動産流通推進センターの「2022不動産業統計集」によると、2020年時点で不動産業を営む法人は35万社以上に達し、20年近く増加傾向にあります。特に、資本金1,000万円未満の企業が全体の約69%を占めており、資本金5,000万円未満の企業が全体の約97%を占めるため、不動産業界の大部分は中小企業で構成されているのが特徴です。
不動産業界は他の業界と比べても市場規模が非常に大きいのが特徴です。国土交通省による「不動産ビジョン2030」によると、2017年の不動産業界の市場規模は売上高43.4兆円であり、不動産ストックの総額は約2,606兆円に達しています。これは、国民資産の23.9%を占めるほどの大きさであり、不動産が経済における主要な資産であることを示しています。
また、不動産業界は景気や社会情勢の影響を強く受ける業界でもあります。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大により、不動産取引が一時的に減少し、オフィスや商業施設の空室率が上昇しました。特に大都市圏のオフィスビルでは、2022年6月時点で東京ビジネス地区の空室率が6.39%、大阪ビジネス地区では5.01%に達するなど、深刻な影響が見られました。
不動産業界の大きな課題の一つは、少子高齢化や人口減少の影響です。これにより、住宅需要は特に地方で減少し、都市部でもファミリー向けの住宅需要が低下しています。さらに、オフィス需要もリモートワークの普及によって減少傾向にあり、今後も変動する可能性があります。
また、業界全体においてIT化が進んでおらず、業務の効率化やデジタルツールの導入が遅れている点も課題です。不動産業界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が進むことで、業務効率の向上や新しいビジネスモデルの導入が期待されています。
不動産業界は日本の経済において重要な役割を果たしていますが、現在いくつかの深刻な課題に直面しています。以下では、不動産業界が抱える代表的な3つの課題について詳しく解説します。
少子高齢化が進む日本では、若年層の減少に伴い、住宅需要が大きく変化しています。特に、ファミリー向け物件の需要が減少し、単身者や高齢者向けのコンパクトな住宅のニーズが高まっています。これにより、不動産供給が需要を上回ることで、物件の価値が低下し、取引数の減少による業界全体の売上にも影響が出る可能性があります。
このような需要変動に対して、IoT技術を活用したスマートハウスの導入や、Wi-Fi環境を整備するなど、物件の魅力を高める取り組みが進んでいます。さらに、ファミリー向け物件をリノベーションして、単身者向け住宅として再販するなど、柔軟な対応が求められています。
空き家問題は、都市部だけでなく地方でも深刻化しています。空き家を取り壊すには高額な費用がかかるため、多くの物件が放置され、適切な管理が行われていない状態が続いています。また、建物を取り壊して更地にすると、固定資産税の軽減措置の対象外になることも、取り壊しが進まない理由の1つです。
2023年には、所有者不明の不動産に対する管理・処分の規定が改正され、空き家をより積極的に活用する動きが加速しています。また、2024年には相続した土地の申告義務化が施行される予定で、今後は市場に出回る空き家物件の供給量が増加すると予想されます。こうした背景から、不動産会社は仲介業務に加え、リフォームや再販売の取り組みを強化しており、空き家問題に対する解決策を提供しています。
少子高齢化により、どの業界でも人手不足が深刻化していますが、不動産業界は特に深刻です。不動産業は従来、営業職のイメージが強く、またIT化が遅れているため、若年層からの人気が低く、採用が難しいという問題に直面しています。リスクモンスター株式会社の調査では、不動産業界は「就職したい業種」の中で順位が下位に位置しています。
こうした状況を改善するため、業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められており、ITを活用した業務効率化が図られています。例えば、オンライン内見や電子契約の導入により、顧客対応や業務の効率が向上し、若者にも魅力的な職場環境を提供する取り組みが進行中です。この「不動産テック」と呼ばれる動きが、不動産業界に新たな変革をもたらす可能性があります。
不動産業界において、M&Aはますます注目されています。その背景には、買い手側と売り手側の双方にとってメリットがあるからです。ここでは、それぞれの視点に立ち、M&Aがもたらす具体的な利点を説明します。
まずは、売り手側のメリットを3点解説していきます。
既に解説した通り、不動産業界では後継者不足が大きな課題となっています。そのため、親族に跡を継ぐ人がいない場合や、内部に適任者がいない場合、M&Aは後継者問題を解決する有力な手段です。特に、経営ノウハウを持つ買い手企業が、優秀な経営陣を派遣することによって、スムーズに事業を引き継ぐことが可能になります。
大手企業とM&Aを実行することで、売り手側はブランド力を強化することができます。特に、地方の中小規模の不動産会社にとって、大手企業の知名度を利用することで、集客力が飛躍的に向上します。また、資金力のある大手企業の傘下に入ることで、安定した経営基盤を構築しやすくなります。競争の激しい市場においては、このような連携が売り手側にとって重要な戦略となります。
多くの不動産会社がM&Aを通じて管理戸数を増やすことを目的としています。特に、賃貸管理業務を行っている企業にとって、管理戸数が増えることで修繕費や入退去時の工事収益が見込まれ、安定した収益基盤を築くことができます。また、譲渡側としては、事業承継が重要な動機となるケースも多く、大手企業と手を組むことで、スムーズな承継が可能となります。リログループのように、福利厚生事業と賃貸管理を掛け合わせて事業を拡大している企業も存在し、このような成功例に学ぶことで、自社の将来を見据えた戦略を立てやすくなります。
続いて、買い手側のメリットも4点解説していきます。
買い手側の大きなメリットの一つは、M&Aによって管理戸数を一気に増やせる点です。管理戸数が増えることで、物件の管理や修繕工事、入退去に伴う収益を得る機会が広がり、長期的な収益基盤を強化できます。営業活動のみで管理戸数を拡大するのは困難ですが、M&Aを活用することで短期間での成長が期待できます。
M&Aを通じて新たな商圏や事業領域への進出が可能になります。特に地域に根ざした不動産会社を買収することで、その地域特有のネットワークや地元住民との信頼関係を引き継ぐことができます。不動産業界においては、地域ごとの特性や地主との関係性が重要であるため、M&Aによってこれらの要素を取り込むことができる点は大きなメリットです。
M&Aによって、買い手側は譲渡企業が持つ資産や顧客基盤を獲得できます。例えば、賃貸不動産経営管理士やマンション管理士といった不動産管理業務に必要な資格を持つ従業員を引き継ぐことで、即戦力となる人材を確保することができます。これにより、新規採用や研修にかかるコストを削減し、即座に事業を強化することが可能です。
同業他社を買収することで、営業・販売チャネルの統合や、業務効率の向上が期待できます。また、企業規模が大きくなることで、コスト削減やスケールメリットが得られ、収益性が向上する可能性があります。
続いて、売り手と買い手の両者におけるメリットも2点解説します。
デジタル化が進む現代において、ITの活用は不動産業界でも重要です。ITの導入が遅れている企業は、IT技術を持つ企業とのM&Aによって生産性を向上させることが可能です。これにより、オンライン内見や電子契約といった最新技術を導入し、顧客サービスの向上や業務効率化が図れます。
M&Aを通じて、既存の取引先との信頼関係や販路を引き継ぐことができます。特に新しい市場や業界への参入を目指している場合、既存の取引ネットワークを活用することで、事業拡大を迅速に進めることができるでしょう。
不動産業界でM&Aを検討する際には、特有の注意点がいくつか存在します。不動産仲介事業者や宅地建物取引業者を買収する際には、以下のポイントを確認しておくことが重要です。
不動産仲介業を運営するためには、宅地建物取引士(宅建士)が必要です。宅建業者には、従業員5人に1人以上の宅建士を配置する義務があり、この人数が不足している場合には、営業を行うことができません。
特に小規模事業者の場合、宅建士が経営者1人のみというケースも多く見られます。買収後に宅建士がいないことで事業が停滞しないよう、従業員の中に宅建士がいるか、継続雇用が可能かどうか事前に確認することが必須です。
宅建業の免許は5年ごとに更新され、その更新回数は業者の信頼度や事業の継続性を示す指標となります。買収対象の会社の免許更新回数が多いほど、長年にわたる安定した経営が評価されやすくなります。
ただし、個人事業者から法人化した場合や、都道府県知事免許から国土交通大臣免許に切り替えた場合には、更新回数がリセットされることもあるため、実際の事業年数とのギャップが生じる可能性があります。この点も慎重に確認しておく必要があります。
不動産管理業を行っている会社を買収する際、管理物件の数と内容は大きな評価ポイントとなります。管理物件が多い会社は、修繕費や入退去工事といった継続的な収益を期待できるため、買収後の成長が見込まれます。
また、独自のルートで取得した管理物件や特定地域で強固な基盤を持つ物件があれば、競争優位性を高め、M&A後の事業拡大につながる可能性があります。管理物件の詳細を事前に精査し、その収益性も見極めることが重要です。
M&Aを通じて引き継ぐ従業員の年齢構成も、買収を検討する上で重要なポイントです。特に、従業員の多くが高齢であれば、事業承継後の引退リスクが高まるため、買収後の人材確保に課題が生じる可能性があります。
従業員の年齢が若く、現役で長く働ける人材が多い場合は、買収先企業にとって大きな魅力となり、M&A後の円滑な事業運営をサポートする要素となります。
M&Aにおける成功は、適切なタイミングに大きく左右されます。不動産市場が活況である時期にM&Aを実施することで、より高い価値で売却することが可能です。逆に、市場が低迷している時期にM&Aを行うと、希望する条件での取引が難しくなる可能性があります。
事業の現状や市場動向を見極め、M&Aのタイミングを適切に判断することが、成功の鍵となります。
不動産業界におけるM&Aは、さまざまな目的で行われていますが、実際に行われたM&Aの具体的な事例を3つご紹介します。
譲受企業: 株式会社日本エスコン
譲渡企業: 株式会社ピカソ
日本エスコンは、不動産デベロッパーとしてマンション分譲を主力とする企業です。2021年から2023年度の中期経営計画において、収益構造の多角化を目指していました。その中で、関西圏で賃貸不動産事業を展開する株式会社ピカソを買収。このM&Aによって、日本エスコンは分譲事業に依存しない経営モデルを構築し、賃貸事業の比重を増やすことに成功しました。
譲受企業: 株式会社LAホールディングス
譲渡企業: 株式会社ファンスタイルHD
LAホールディングスは、新築不動産販売や再生不動産事業、高齢者住宅、ホテル、不動産賃貸など多角的な不動産ビジネスを展開している企業です。2022年11月、沖縄に拠点を持つ不動産デベロッパー、ファンスタイルHDを買収することで、沖縄市場への進出を果たしました。このM&Aにより、LAホールディングスは沖縄の特有の土地柄や気候に対応したノウハウを得ることができ、事業エリアを大幅に拡大しました。
一方、ファンスタイルHDも、再生不動産事業に強みを持つLAホールディングスと連携することで、再生不動産ビジネスに参入しました。新築物件とリノベーション物件を扱うことで、顧客層を広げ、双方にとってメリットのあるM&Aとなりました。
譲受企業: アグレ都市デザイン株式会社
譲渡企業: ハウスバード株式会社
アグレ都市デザインは戸建販売を得意とする不動産企業で、ハウスバードは空き家を活用して旅館業を営む企業です。ハウスバードは、物件の選定から許認可取得、改装、運営まで一貫して行っていますが、収益性の高い物件を見つけることが課題でした。アグレ都市デザインが持つ不動産ネットワークと技術力を活用することで、より効率的な物件運営が可能となり、業績を向上させることができました。
本記事では、不動産業界の概要から、現状の課題、そしてM&Aにおける動向や成功事例について幅広く解説してきました。
不動産業界は、少子高齢化やDXの遅れなど、さまざまな課題に直面していますが、M&Aはこれらの課題を解決する手段の一つとして注目されています。特に、不動産業界でM&Aを検討している企業は、管理物件や人材構成、そして適切なタイミングなど、詳細なポイントを確認することが成功への鍵となります。この記事の内容を参考に、自社のM&A戦略をしっかりと立て、成長のチャンスを最大限に活用して行くようにしましょう。
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