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公開日:2024年1月24日
更新日:2024年5月2日

事業譲渡とは?M&Aや株式譲渡との違い、メリットや注意点を徹底解説

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事業譲渡やM&Aを検討している経営者や経営陣に向けて、事業譲渡とM&Aの違いやメリット、注意点などを事例も踏まえながら解説していきます。

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目次

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、企業が営んでいる事業全体または一部を譲渡するM&A手法のことを指します。

事業は、特定の目的のために組織され、有機的一体として機能する財産です。債務に加えて、知的財産、ブランド、顧客リスト、契約などの無形資産も含まれ、個々の財産の単純な譲渡では事業譲渡とは見なされません。

ただし、事業譲渡に関連する権利と義務は、関係者間で個別に契約して引き継がれなければなりません。従業員との雇用契約についても譲渡を受ける企業との同意が必要であり、従業員の同意も得る必要があります。

事業譲渡と株式譲渡との違い

事業譲渡と株式譲渡の違いについては、その名称のとおり、事業を譲渡するか株式を譲渡するかの違いがあります。

株式を譲渡する場合、権利・義務や資産・負債がそのまま譲受人へ引き継がれますが、事業譲渡の場合は個別に承継する形になります。

A社が自社の製造部門をB社に事業譲渡するケースを考えてみましょう。この場合、A社(法人)が製造部門の資産、従業員、契約などをB社に移転します。譲渡されるのは、A社の一部の事業や資産であり、A社自体の存在は継続します。

一方、株式譲渡においては、C社の大株主であるD氏が自分の持株をE氏に売却する場合、D氏(個人)が自身の持つ株式をE氏に譲渡します。この取引により、C社の所有権が変わりますが、C社の法人格自体に変更はありません。

また、事業譲渡と株式譲渡では、以下の点でも違いがあります。

・譲渡主体

・税金

譲渡主体の違い

事業譲渡は、譲渡企業から譲受企業へ譲渡する企業間の取引であり、譲渡を行う主体は「企業」です。

一方、株式譲渡は個人(譲渡企業の経営者あるいは株主)から譲受企業もしくは個人へ譲渡することを指し、譲渡を行う主体は「個人」となります。

※一般的に株式譲渡は個人が主体となることが多いですが、法人として株式を保有している場合はその限りではありません。

この譲渡主体の違いによって、株式譲渡は創業者などの株主が引退を決意し、会社ごと売却するといった時にも使われるスキームで、事業譲渡は企業を存続させる前提で、非中核部門の資産、従業員、契約などを別の企業に移転する場合に使われやすいです。

税金の違い

事業譲渡株式譲渡
譲渡企業(売り手)・消費税
・法人税
・所得税

・住民税

・復興特別所得税

譲受企業(買い手)・不動産取得税(移転資産に不動産が含まれる場合)
・登録免許税(移転資産に不動産が含まれる場合)

事業譲渡については、消費税・不動産取得税・登録免許税・法人税が発生しますが、株式譲渡では、所得税・住民税・復興特別所得税・法人税が発生します。

事業譲渡は、株式譲渡よりも税率が高く、税負担が多くかかる点が主な違いの1つです。

事業譲渡の税金

■消費税(納付義務は売り手にあり、実質負担は買い手にある)

譲渡対象に含まれる課税資産(土地を除く有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権など)に対して課されます。売り手が納税義務者となりますが、実際の負担は取得対価と共に買い手が支払うことで、買い手が実質的な負担者となります。

■法人税等(売り手負担)

事業譲渡の譲渡益は法人税等(法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税)の対象となります。譲渡金額から譲渡対象資産の簿価を差し引いた金額に対して適用され、税率は多くの場合は約34%がかかります。

■不動産取得税(買い手負担)

譲渡される事業に不動産が含まれる場合に適用されます。この税金は、取得した不動産の課税標準額に基づいて計算され、多くの場合は4%程度の税率が適用されます。

■登録免許税(買い手負担)

不動産の所有権変更に伴う登記手数料として発生します。この税金は、土地や建物の評価額に対して、多くの場合1.5%〜2%程度の税率が課されます。

株式譲渡の税金

株式譲渡は消費税などの対象にはなりませんが、譲渡益に対しては20.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%)が個人に課税されます。

このうちの復興特別所得税とは、2037年(令和19年)まで、株式の取引に対して課せられることとなっています。

仮に保有している株式を以下の売却した場合にかかる税金を計算してみましょう。

・株式の売却価格:3,000万円

・株式の取得費用:700万円

・各種手数料など:300万円

以下のように計算し、税金は「4,063,000円」となります。

・譲渡益:3,000万円 – 700万円 – 300万円 = 2,000万円

・税金:2,000万円 × 20.315% = 4,063,000円

※会社の状況によって異なることがあるので詳細は税理士などの専門家への確認が必要となります。

事業譲渡と会社分割の違い

事業譲渡と会社分割はM&Aの一種であり、企業が営んでいる事業全体または一部を譲渡するという点ではいずれも同じです。一方、事業譲渡は譲渡会社と譲受会社との間の「取引行為」で、会社分割は株式の移転や変動を伴う「組織再編行為」である点に大きな違いがあります。

事業譲渡会社分割
会社法における定義取引行為会社法上の組織再編行為
資産や負債の引き継ぎ個別継承包括継承
簿外債務の引き継ぎリスクリスクは低いリスクは高い
債権者保護手続き必要なし必要あり
契約の引き継ぎ個別に同意を得る必要がある個別での同意は不要で、自動的に承継される
税金(消費税)ありなし
税金(登録免許税)軽減措置なし条件満たせば軽減措置あり
税金(不動産取得税)軽減措置なし条件満たせば軽減措置あり
許認可再取得が必須基本的に再取得は不要
株主総会特別決議の必要可否場合によっては必要必要
競業避止義務の必要可否課される可能性あり課されないこともある

表のように、事業譲渡と会社分割の違いは複数ありますが、その中でも主な違いである対価、資産や負債や契約の引き継ぎ、税金について解説します。

対価の違い

■事業譲渡
譲渡の対価は現金のみです。

■会社分割
対価は基本的に買い手側の株式です(吸収分割の場合は株式以外で支払うことも可能)。

資産・負債や契約の引き継ぎの違い

■事業譲渡
取引行為を個別に行うため、資産や負債、契約の引き継ぎも「個別」に実施します。

買い手からすると、従業員との契約なども個別に同意を得なければならず、手間は多くかかりますが、簿外債務のような不要資産の引き継ぎを行ってしまうリスクを低減させることが可能です。

■会社分割

会社分割の場合は「包括」承継となります。これは、分割される事業部門が持つ資産や負債、契約を全て引き継ぐことを意味し、買い手は予期しない簿外債務や未払いの給与、売掛金などの責任も負う可能性があります。

また会社分割によって、金融機関などの債権者に影響が出る場合は、事前に知らせ、債権者からの異議申し立てを受け付ける期間を確保しなければならないといった債権者保護が必要になります。

税金の違い

■事業譲渡

・消費税:事業譲渡では、個別資産の売買行為と見なされるため、譲渡資産のうち消費税の課税対象となるものに消費税が課せられます。消費税の課税対象となるのは、有形固定資産(土地を除く)、無形固定資産、棚卸資産、のれんなどです。

・登録免許税:事業譲渡の場合、軽減措置は適用されません。資本金の増加額が大きくなると登録免許税の負担が大きくなるため、大規模な取引を行う場合は注意が必要です。

・不動産取得税:事業譲渡では軽減措置はありません。建物や土地などの不動産評価額が高ければ高いほど、不動産取得税の負担も増大するため、同様に注意が必要です。

■会社分割

・登録免許税:会社分割の際には、一定の要件を満たすことで適用されます。

・不動産取得税:会社分割では、一定の要件を満たせば非課税になるなど軽減措置が受けられます。

事業譲渡とM&Aの関係

M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称です。複数の会社が一つに合併したり、会社や事業を買収したりすることを全般的にM&Aと表現します。

事業譲渡とは前述の通り、企業が営んでいる事業全体または一部を譲渡することを指しますが、M&Aは事業譲渡も含む合併や買収のことを総称した言葉です。

M&Aは事業譲渡以外にも、以下のような手法も含んでいます。

・株式譲渡
・第三者割当増資
・株式交換
・株式移転
・合併(吸収合併・新設合併)
・会社分割(吸収分割・新設分割)

M&Aを通じた事業譲渡の特徴

事業譲渡の最大の利点は、譲渡対象を自由に選択できることです。特に事業の選択と集中、企業再生の手段として活用されやすい手法となっています。譲渡・譲受企業それぞれ、以下のような恩恵が受けられます。

■譲渡企業のメリット

・不採算事業を切り離して、リソースを残存事業に集中させることができる
・売りたい事業のみを譲渡して、経営権や資産、従業員は維持したままにできる
・採算の良い事業を売却できれば、得た利益を使って新たな事業投資ができる
・負債を引き継がないことができるため、譲渡先が見つかりやすい

■譲受企業のメリット

・自社にとってシナジーや事業拡大が見込める事業のみを買収できる
・引き継ぐ資産や負債の範囲を選択できるため、簿外債務を引き継ぐリスクを下げられる

一方、事業譲渡にもデメリットは存在します。契約は個別で再締結が必要になるため、取引先の引き継ぎや、従業員の承諾を得るために、譲渡・譲受企業ともに時間がかかることが想定されます。

それ以外の観点について以下でまとめます。

■譲渡企業のデメリット

・事業をそれぞれ個別に取引する必要があるので、手続きが煩雑になる
・競業避止義務によって、一定期間は同一の事業が行えなくなる
・譲渡益に対して法人税等がかかる

■譲受企業のデメリット

・消費税の実質的な負担が発生する
・税制適格組織再編制度による税務上の優遇措置を受けられずに、大きな税負担がかかる
・取引の終了や、メンバーの退職などによって、引き継ぎが全て行えない可能性がある
・許認可を再度取得しなければならない

M&Aの各種類と事業譲渡の関連性(合併、買収、等)

M&Aの手法は大きく分けると、買収、合併、会社分割の3つに分類できます。

すでに述べた株式譲渡はこのうちの買収に含まれ、事業譲渡も同じく買収の中の一つです。その他のM&Aの手法と事業譲渡との関連性や違いなどについて解説します。

株式交換・株式移転と事業譲渡

株式交換や株式移転は、企業間の統合や再編を目的としたM&A手法です。

子会社となる会社の全発行済株式が親会社に譲渡され、完全な親子関係が構築されます。この際、親会社となるのが既存の会社であれば株式交換、新設会社であれば株式移転と呼ばれます。

株式交換は、人材関連サービスを展開するパソナグループが、パソナメディカルを完全子会社にする際など、グループ内子会社の再編時などに使用される手法です。株式移転は、ニコニコ動画などを展開するドワンゴが、書店を運営するADOKAWAと経営統合する際に、持株会社であるKADOKAWA・DOWANGOを新設した際などに使用されています。

株式交換・移転は企業全体の統合に関わるのに対し、事業譲渡は一部の事業や資産の移転といった点に大きな違いがあります。

第三者割当増資と事業譲渡

第三者割当増資は、新株の割当権利を特定の第三者に付与し、資金を調達する手法です。

この方法は、既存の株主であるか否かに関わらず、多くの投資家から資金調達を行えるので、未上場企業の資金調達手法としても活用されています。

M&Aという文脈においては、特定の個人に対して経営権が移るほどの大規模な割当を行うこともあります。しかし、新株発行といった性質上、経営権の完全な移転は行えないというデメリットがあり、あまりM&Aの目的で第三者割当増資を行うことはありません。

M&Aとしての第三者割当増資は、経営権を一部付与することができるというものであり、あくまでも株式のやり取りになる一方、事業譲渡は株式ではなく事業の譲渡という点に大きな違いがあります。

合併と事業譲渡

合併は、複数の企業を一つに統合する手法です。既存の企業が他の企業を吸収することを吸収合併と呼び、全ての企業が新設された企業に統合されることを新設合併と呼びます。

合併は包括承継が原則であり、消滅する企業の権利や義務なども全て引き継ぎます。具体的には、従業員との雇用契約や、取引先との契約なども自動的に承継されます。

一方、事業譲渡は、特定の事業部門や資産を他社に移転する手法で、契約などは個別に引き継ぎ、再締結を行わなければなりません。

事業譲渡の背景と動機

事業譲渡の背景と動機について、飲食チェーン店展開をする仮想の企業「MAフード」を例にだして解説します。

経営資源の集中・最適化

特定のサービスやブランドに経営資源を集中させたい場合、他のサービスやブランドの事業譲渡を検討することが有効です。

例えば、仮定の飲食チェーン運営企業MAフードが、高収益の焼肉ブランドに注力するために、低収益のファストフードブランドを別の企業に譲渡することで、資本と人的資源を最適化し、経営効率を高めることができます。

仮にファストフードブランドが赤字であった場合は、シナジーがあるような事業を保有している譲受企業を見つけることが大切です。

事業の拡大・縮小

市場の需要に応じて事業を拡大または縮小する場合も、事業譲渡は有効な手法となります。

例えば、健康志向の食品市場が拡大している場合、MAフードは健康志向のレストランチェーンを新たに買収するために、他の非中核ブランドを譲渡することで資金を確保し、買収及び事業の拡大を図ることができます。

逆に市場や事業の縮小が見込まれる場合は、影響を受けるブランドを譲渡し、リスクを最小限に抑えることも可能です。

経営危機の回避

経営危機に直面した場合、事業譲渡を通じて迅速に資金を調達し、危機を回避することができます。

例えば、MAフードの財務状況が悪化した場合、非中核となるファストフードブランドを売却し、その資金で借入金の返済や新たな投資に充てることが可能です。

また、社員などの労働者のリストラをしなければならないほど、毎年赤字を出し続けているカフェ事業があった場合、それを回避するために事業譲渡をする場合があります。自力再生が難しくても、非採算事業を譲渡することで事業としては業績を回復できる可能性があり、来店してくれている顧客などへの影響も最小限に留められます。

業界再編や市場環境の変化

業界の再編や市場環境の変化に対応するため、事業譲渡を活用することもあります。

例えば、飲食業界におけるデリバリーサービスの台頭により、店舗運営に重点を置いたブランドが不利になった場合、MAフードはこれらのブランドを他社に譲渡し、デリバリーに特化した新しいブランドに投資することで、市場の変化に適応することができます。

事業譲渡の注意点

事業譲渡する際には、以下の点に注意しましょう。

引継ぎ対象資産の特定

事業譲渡の契約を締結する際には、譲渡する資産の範囲が明確に定義されているかどうかを確認することが重要です。資産や負債が不透明なままだと、トラブルの原因となる可能性があります。

通常、事業譲渡契約書では譲渡先企業に引き継がれる資産、債権、および債務の詳細なリストを作成することで、譲渡対象を明確にします。

加えて、譲渡益を少しでも大きくするためといった理由で、事業譲渡の相手に対して虚偽の情報を提供することは避けましょう。利益や債務に関して虚偽の情報を伝えると、将来的に法的なトラブルや詐欺罪の問題、さらには多額の損害賠償請求に発展するリスクがあります。

契約の変更について

事業譲渡では、社員との契約や取引先との契約が自動的に引き継がれるわけではない、という点に注意が必要です。

社員との契約

事業譲渡においては、譲受企業と従業員との間で労働契約を個別に締結することが必要です。

事業が譲渡先で継続され、従業員の業務内容が変わらない場合、通常は転籍前と同様の雇用契約が締結されます。譲受企業の就業規則や給与規則に従うことにより、賃金や就労条件が改善される場合もあります。

基本的には、従業員は譲受企業に引き継がれますが、事業そのものが赤字体質であったりすれば、解雇をすることも考えられます。しかし、その際は、労働法を踏まえながら慎重に行うようにしましょう。

例えば、事業譲渡後に予期せず多くの従業員を解雇した企業が、不当解雇で訴えられるといったことも起きる可能性があります。従業員の権利を尊重し、法的な枠組み内で適切に対応することが重要です。

取引先との契約

取引先との契約関係も自動的に切り替わるわけではないため、取引先の承諾を個別に得る必要があります。譲受側は新たに取引先と契約を結ぶか、譲渡側と取引先との契約における地位を1社ずつ変更しなければなりません。

しかし、契約の締結が完了した後でも、譲渡後のサービスや商品の品質が変わることによって問題が起こり得ます。例えば、ある企業が事業を譲渡した後、新体制でのサポート体制が杜撰であれば、長年の取引先との関係が悪化してしまうといったことは十分考えられます。

取引先との信頼関係を維持するためには、契約の変更を透明かつ丁寧に行うことはもちろん、その後の対応も真摯に行うことが当然求められます。

事業譲渡のプロセス

事業譲渡には、会社の規模や対象事業の内容にもよりますが、早ければ3ヶ月程度、長くかかる場合は12ヶ月前後かかることもあります。

具体的にどのような流れで事業譲渡を行っていくのかを、主に譲渡企業(売り手)目線で解説します。

事業価値の評価

譲渡しようとしている事業価値を評価するために、PLやBSなどの財務状況や将来の収益見込みはもちろん、市場の位置づけ、競合状況などの定性情報も洗い出すことが大切です。

このようなフローを通して、適正価格を明確に把握しておけば、金額が提示されたときにそれが妥当かどうか判断できます。

事業価値評価には、専門的な算定方法が多数確立されており、その中から適正な方法を選び、かつ複数の方法を組み合わせて評価を行うのが一般的です。専門的なM&Aアドバイザーやコンサルタントの意見を取り入れることで、より正確な価値判断が可能になります。

譲渡先の選定

譲渡先の選定には、買い手の財務能力、事業のシナジー、戦略的な目的の一致などといった点が重要な要素となります。また、企業のミッションや経営者との経営哲学が一致しているかといった点も、譲渡後に事業が長期的に継続し拡大していくためには大切です。

譲渡先を探すにあたって、企業名を伏せた状態で事業の概要や売上規模、従業員数、主要な取引先などをまとめた資料(ノンネームシート)を作成します。

譲渡先を譲渡企業自身で探して選定することもできますが、金融機関やM&A仲介会社に依頼して行うのが一般的です。

交渉と契約

譲渡先候補が決まったら、まずは情報漏洩の対策のために秘密保持契約書を締結します。

その後、経営者同士の面談やM&A仲介会社を通して、条件を交渉します。互いの希望する条件が完全に一致することはまずないため、優先度が高い条件を確認しながら、要望をすり合わせていきます。

大筋の条件がまとまったら基本合意書を締結し、譲受企業が譲渡企業や対象事業を買収するに向けた監査(デューデリジェンス)をします。具体的には、保有財産や財務諸表はもちろん、取引先、従業員、技術やノウハウなどについて、調査を行います。

その後、デューデリジェンスの結果を用いながら、必要に応じて条件に調整を加えてから、取締役会などを経て事業譲渡契約を締結します。

事業移転の実施

契約締結後、いよいよ事業移転の実施をしますが、それには多くの準備と労力が必要です。

具体的には、公正取引委員会など各所への届け出や株主への公告、株主総会での特別決議、財産の名義変更、許認可手続きなどをする必要があります。

また、事業譲渡は個別承継のため、譲受企業は従業員や取引先との契約も行わなければなりません。

M&Aアドバイザーや専門家の活用

M&Aアドバイザーは、M&Aに関する専門的な知識を有する専門家で、M&Aを考えている経営者に対して助言する役割を果たします。

M&Aを進めるには、自社および対象企業の財務状況、法的状態、および経営の外部要因などを詳細に分析しなければなりません。また、M&Aの実行が問題なく、M&A後も経営が円滑に進むためにも、M&A戦略の立案からスケジュールの策定、その後のフローの伴走まで行います。

経営者には時間的余裕がないケースが多いことはもちろん、事業譲渡を進めるための分析や契約などのプロセスを前に進めるためには専門知識が必要なため、失敗をしないためにもM&Aアドバイザーを活用するのがおすすめです。

事業譲渡の成功事例と失敗事例

最後に、事業譲渡の成功事例と失敗事例をいくつか見ていきましょう。

成功事例

フォーシーズホールディングスが日本リビングからアロマグッズ販売の事業を獲得

2024年現在、東証スタンダード市場の上場企業で、元々東証2部であった「フォーシーズホールディングス」は、化粧品・健康食品のEC事業を展開している会社です。

2021年、「日本リビング」から首都圏を中心に40店舗前後を展開しているアロマグッズを販売するライフスタイルショップを、8,900万円で買い取りました。

この事業譲渡においては、フォーシーズホールディングスが新たに「合同会社アロマ」を設立し、この合同会社がアロマ事業を取得するという形をとりました。

フォーシーズホールディングスは、コロナ禍で生じた巣ごもり需要が拡大すると見込み、化粧品や健康食品と相乗効果のあるアロマグッズを商品ラインアップに組み入れることに成功しました。

オンキヨーホームエンターテイメントが業績立て直しのために事業譲渡を実施

1946年に設立されたオンキヨーホームエンターテイメントは主要な音響メーカーです。業績の低下及び、2020年3月期末において債務超過となりその後も回復しなかったため、2021年8月に上場廃止となりました。

経営の立て直しのため、オンキヨーホームエンターテイメントは、主力事業のホームAV事業を約33億円で「シャープ」と「VOXX」に譲渡しました。

売却益を元に経営危機を乗り越えようとしていたものの、2022年5月には破産手続きを行うこととなりました。

結果的に会社は破産となってしまったものの、ブランドは維持され、シャープが製造、VOXXが販売を担当することとなっています。同社の知見、ノウハウ、技術、取引先、ビジネス、従業員は引き継ぎ先で活かされていることでしょう。

桐のかほり 咲楽が小野写真館に事業を譲渡

静岡県の伊豆で人気旅館として有名となっている「桐のかほり 咲楽」が、結婚式場の運営で業績を拡大してきた「小野写真館」に事業を売却した事例をご紹介します。

桐のかほり 咲楽は、後継者不足を理由に、外部企業に旅館事業の譲渡を行う決断をしました。一方、小野写真館はコロナ禍でブライダル事業の売上が約40%減少してしまい、業態の転換を進めるために事業を買い取ることにしました。

この事例では、譲受側が譲渡側の経営理念に共感したことで、3ヶ月という短い期間で成約に至ったとのことです。

小野写真館は、旅館にウエディングフォトスタジオを併設したり旅館全館の貸し切りの結婚式を開催したりして、新たな活路を見出しています。

ECサイトのミチが丸井織物に事業を売却

異業種ではあるものの、ネイルチップのECサイト「ミチネイル」を運営する「ミチ」は、石川県に本社を置く織物メーカーである「丸井織物」に事業譲渡を行いました。

譲渡企業であるミチは、ミチネイルという事業をもっと大きくするため、また、譲受企業の丸井織物は自社の織物事業の一貫生産とシナジーを生み出せると感じ、両者は合意にいたりました。

丸井織物はデジタルマーケティングを強みとする「オリジナルラボ」という子会社を持っており、ECサイトのノウハウやマーケティング力を得て、会社としてノウハウを増強できることも狙い、事業を買い取りました。

その後事業を運営していく中で、コスト構造の見直しを行い、実際に利益率が15%から40%に上昇し、事業自体も順調に拡大しています。

失敗事例

古河電気工業のM&A事例

2001年、古河電気工業はアメリカのルーセント・テクノロジーから、譲受企業が持つ特許の獲得を狙い、光ファイバ・ケーブル部門である「オプティカル・ファイバ・ソリューションズ」を買収しました。この買収により、古河電気工業は光関連製品市場での世界シェアで第2位に浮上しました。

しかし、その後ITバブル崩壊の影響を受け、売上がピーク時の20%程度まで下落し、2004年3月期には特別損失が1,600億円を超える計上となってしまいました。

日立製作所がIBM社からHDD事業を買収した結果赤字が発生

2002年12月、日立製作所はアメリカのIBM社からハードディスク事業を20億ドルで取得しました。製品供給契約、知的財産権関連契約などすべての条件で合意が完了し、買収にいたりました。

ところが取得後、ハードディスクの価格破壊が進行し、毎年100億円規模の損失が発生し、2007年12月期まで5期連続で赤字経営が続いていました。その後、リストラなどを行い黒字転換はできたものの、ハードディスクの需要拡大が不透明だと判断し売却を決断しました。

2011年には、同じ事業を手がけるアメリカのウェスタン・デジタルに約48億ドルで事業を売却しましたが、赤字の累計額や設備投資などを加味すると損失の方が多くなっている可能性もあり、苦しい事業譲渡だったと言えます。

マイクロソフト社がノキア社から携帯電話事業を買収して損失を被った

2013年に、世界的な大企業でもあるマイクロソフト社は、ノキア社の携帯電話事業を72億ドルで取得しました。

AppleやGoogleがハードウェアを生産しており、マイクロソフトとしては当時モバイル事業が低調な状態にあったため、売上拡大を狙ってのノキアの買収でした。

ところが、モバイル事業は赤字が続き、スマートフォン市場でのシェアも3%まで低下し、2015年には76億ドルの評価損を計上し、7,800人規模のリストラも行っています。

まとめ

今回の記事では、事業譲渡について詳しく解説しました。

事業譲渡にはメリットもある一方で、注意点もありますし、数多くのプロセスを踏む必要があります。

今回の記事にまとめられた要点をしっかりと押さえた上で、税制など法律面でも複雑になってきますので、各分野の専門家やM&A仲介会社に相談しながら、自社に合うM&A方法を選んでみてください。

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