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公開日:2025年6月3日
更新日:2025年6月3日

SES業界のM&Aとは?M&Aの動向・相場・事例・成功のポイントを徹底解説!

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ITエンジニアをリソースとして活用するSESモデルは、柔軟な人材確保手段として企業の関心を集めています。

一方で、慢性的な人材不足や多重下請け構造といった課題も抱えています。

M&Aを検討する経営者や投資家、またSES業界での事業成長を目指す方にとって、今後の戦略設計に重要なポイントについて解説していきます。

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目次

SES事業の概要とは

SES(System Engineering Service)事業とは、ITエンジニアを企業の現場に常駐させ、システム開発やインフラの構築、運用保守などの技術支援を行うサービスモデルを指します。自社に開発リソースを持たない企業や、プロジェクトごとに柔軟な人材が必要な企業にとって、SESは効果的な手段となります。人材派遣のような形式でありながら、法的には準委任契約に基づいており、指揮命令権はあくまでも派遣元であるSES事業会社にあります。

SES事業では、エンジニアのスキルに応じた業務遂行が求められるため、技術力の高さや対応力がサービス品質に直結します。顧客企業は成果物の完成ではなく、期間中における労働サービスの提供を受ける契約である点も特徴です。この点が、請負契約や派遣契約との違いとして重要なポイントになります。

契約形態ごとの違い

SES契約では、準委任契約に基づき、エンジニアはクライアント企業のプロジェクト現場に常駐しながらも、自社の指揮命令に従って業務を行います。業務内容はソフトウェアの開発や保守、インフラ環境の構築など多岐にわたり、報酬は業務遂行に対して支払われます。

一方、請負契約は成果物の完成を目的とした契約であり、作業の完了が報酬支払いの条件です。そのため、たとえ業務を遂行していても成果物が納品されなければ報酬は発生しません。一方で、SES契約では作業期間中の稼働に対して報酬が発生するため、柔軟な対応が求められる現場での活用に適しています。

さらに、派遣契約との違いとして、指揮命令権の所在が挙げられます。派遣契約では派遣先であるクライアント企業が指示を出す立場になりますが、SES契約ではエンジニアの所属企業が指示権を保持する点が大きな相違点です。こうした契約形態の違いを理解することが、SES事業の構造を正確に捉えるうえで不可欠です。

SES企業のビジネスモデル

SES事業会社の運営スタイルは大きく二つに分けられます。第一に、自社の正社員エンジニアをクライアント先に常駐させるモデルがあります。この方式では、社員に対して給与や交通費を支払う必要があるため、一定の固定費が発生しますが、エンジニアの育成や評価体制が整っている場合、安定したサービス提供が可能となります。

もう一つは、外部のパートナー企業やフリーランスのエンジニアと提携し、プロジェクト単位でリソースを確保するモデルです。この場合、業務委託費用として外注費を計上する形となるため、固定費を抑えやすいというメリットがあります。プロジェクトの変動に応じた柔軟な人材調整が可能な反面、エンジニアの質の管理や稼働調整においては一定のマネジメント力が求められます。

SES事業の特性と重要性

SES事業は、IT人材不足が叫ばれる中で、企業の技術支援ニーズを満たす手段として今後も需要が拡大する分野です。特に自社内でフルタイムのエンジニアを抱えることが難しい中小企業にとって、必要なスキルを持つ人材を期間限定で確保できるSESモデルは、極めて実用的な選択肢となります。SES事業の構造や契約形態、ビジネスモデルを理解することで、今後のM&A戦略や投資判断にも有益な視点が得られるはずです。

SES事業の現況及び課題とは

近年、SES業界は、国内外のIT市場の拡大に伴い、注目を集める分野のひとつとなっています。一方で、慢性的な人材不足や多重下請け構造といった課題も抱えており、M&Aの観点からも業界全体の動向や内部の構造を正しく理解することが求められます。ここでは、SES業界の現況と課題について、詳細に解説していきます。

SES事業の現況及び課題として、ソフトウェア市場の成長がSES需要を押し上げていること、IT人材不足が深刻化する構造的な課題であること、多重下請け構造がもたらす非効率と責任の不明確化が挙げられます。

ソフトウェア市場の成長がSES需要を押し上げている

まず注目すべきは、ソフトウェア市場の成長がSES業界にもたらしている影響です。2023年、IDC Japanが発表したデータによると、世界のソフトウェア市場は前年比12.5%増の9,506億ドルに、日本国内でも同年9.5%増の約4兆6,800億円まで拡大しました。この成長には、生成AIの普及、AI活用への関心の高まり、既存アプリケーションの最新化、サイバーセキュリティ対策強化などが貢献しています。

こうしたIT需要の高まりにより、開発リソースを即座に確保できるSESのニーズも上昇しています。企業が自社でエンジニアを雇用せずとも専門スキルを持った人材を確保できるSESは、特にプロジェクト単位の対応を求められる企業にとって有効な手段となっています。結果として、SES事業を手がける企業のM&A対象としての魅力も高まっているのです。

IT人材不足が深刻化する構造的な課題

市場の成長が続く一方で、SES業界においてはIT人材の不足という深刻な構造問題が続いています。経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が実施した調査によると、多くの企業が「システムエンジニア」や「プログラマ」の不足を感じており、帝国データバンクの2024年の調査では、情報サービス業の71.9%が正社員不足を訴えています。

さらに、経済産業省の試算によれば、2030年までにIT人材は最大で約80万人不足する可能性があるとされています。少子化による若年労働力の減少、IT業界の労働集約型体質、さらには生産性の低さが、こうした需給ギャップをさらに深刻化させているのです。SES事業は人材リソースを軸とするため、この問題が長期的に事業基盤を脅かす要因となり得ます。

多重下請け構造がもたらす非効率と責任の不明確化

もう一つの重大な課題が、多重下請け構造による業務の非効率化と責任の曖昧さです。公正取引委員会の調査によると、ソフトウェア開発においては業務が元請企業からさらに2次、3次、4次といった複数の階層を経て再委託される構造が常態化しています。その背景には、エンドユーザーのニーズの複雑化や特定分野の技術専門性の高さ、自社だけで人員を賄いきれない事情があります。

しかしこの構造は、プロジェクトの全体像を把握しづらくするだけでなく、納期遅延や品質問題が発生した際の責任所在を不明確にし、最終的に末端の下請企業に負担が集中する傾向を強めています。SES企業をM&Aの対象とする場合には、このような多層的な取引関係の実態を把握し、どこまでが自社管理かを明確にしておくことが極めて重要です。

SES業界のM&A動向について

近年、SES業界では、さまざまな目的からM&Aの動きが活発化しています。背景には、深刻化するIT人材不足や急速なデジタル化の進行、業界全体の競争激化などがあり、迅速かつ戦略的に対応する手段として、企業の買収・売却が注目されているのです。ここでは、SES業界におけるM&Aの代表的な動向とその背景について、詳しく見ていきます。

人材確保を目的としたM&Aの加速

SES業界のM&Aで最も顕著な目的のひとつが、人材の確保です。IT業界ではエンジニア不足が深刻化しており、経済産業省や帝国データバンクの調査からもその傾向が明らかになっています。このような状況下、即戦力となる優秀なエンジニアを多数抱えるSES企業を買収することで、人材確保の課題を一気に解消しようとする動きが加速しています。

M&Aによって優秀な人材を短期間で確保できる点は、企業にとって非常に大きな魅力です。特に創業間もないSES企業にとっては、安定した経営基盤を築く手段としてM&Aを活用するケースも増えており、人的資本を強みにした事業売却の成功例が多く見られるようになっています。資金力のある大手IT企業が、戦略的にSES企業を買収する流れは、今後さらに強まると考えられます。

コスト削減を見据えたM&Aの展開

M&Aによるもうひとつの目的は、開発・運用にかかるコストの削減です。特に大規模なシステム開発を抱える企業では、外注コストが経営を圧迫することも少なくありません。そこで、SES企業を自社に取り込むことで、内部リソースとして開発体制を整備し、外注費を抑える動きが進んでいます。

このような動きは、特に海外を含む大手企業で顕著であり、内製化による品質管理の向上やスピードの確保、さらにはコスト最適化まで一体で実現できるM&Aの魅力が再評価されています。将来的に自社のIT基盤を強化し、柔軟な開発体制を築くためにも、SES企業のM&Aは効果的な戦略といえます。

同業者同士による競争力強化のためのM&A

SES業界は競争が激しく、価格競争や人材争奪が常態化しています。こうした状況において、自社の技術力や人材力を高めるため、同業者同士によるM&Aが活発になっています。ノウハウや顧客基盤、エンジニアのスキルセットなどが近しい企業同士であれば、統合後のシナジーを発揮しやすく、迅速に事業の拡大や強化を図ることが可能です。

また、サービス提供体制の拡充や管理機能の統合によって、より安定した品質提供や効率的な人材配置が実現されるため、同業間のM&Aは事業規模を問わず注目されています。競争力の確保・強化を目指す企業にとって、他のSES企業との連携や吸収は、成長戦略の柱として今後も利用されていくことでしょう。

SES事業のSES業界のM&Aの手法

SES業界におけるM&Aでは、売却や買収の目的に応じて、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの手法が採用されます。それぞれの方法には特徴やメリット・デメリットがあり、適切なスキームを選定することがM&A成功のカギを握ります。この章では、SES事業における代表的なM&A手法について詳しく解説します。

株式譲渡:会社ごと売却できるシンプルな手法

SES企業のM&Aでよく用いられる手法が「株式譲渡」です。株式譲渡は、売却側企業の発行済株式を買収側が取得することで、その企業の経営権を引き継ぐ方法です。最大の利点は、比較的手続きが簡素であり、会社に属する資産や契約、顧客、従業員などを包括的に引き継ぐことができる点にあります。つまり、事業の一体性を保ったまま売却できるというメリットがあります。

SES事業を会社単位で売却したい場合、株式譲渡は非常に有効です。ただし、この手法には注意点も存在します。それは、株式譲渡では会社の負債も買い手側がそのまま引き継ぐ点です。したがって、財務状態が芳しくない企業や、簿外債務が多い企業は、買い手の選定に苦慮する可能性があります。事前の財務整理や情報開示の徹底が、スムーズな譲渡のためには欠かせません。

事業譲渡:必要な事業のみを切り出せる柔軟な手法

もう一つの代表的なM&A手法が「事業譲渡」です。事業譲渡は、会社の中にある一部または全部の事業単位で資産や契約を売却する方法です。例えば、SES事業のみを売却する、もしくは不採算事業を切り離してSESに注力するといった選択が可能で、戦略的な再編を図る企業にとっては非常に柔軟なスキームです。

事業譲渡では、引き継ぐ資産や契約関係を選べることから、買い手側もリスクを限定しながら有望な事業だけを取得できるという利点があります。しかし、その一方で、手続き上のハードルは株式譲渡より高くなります。契約や取引関係を個別に移転するため、顧客や取引先、従業員などから都度同意を得なければならず、法務や労務に関する調整が煩雑になります。譲渡までに時間がかかるケースも多く、十分な計画と準備が必要です。

SES事業の売却相場

SES事業を売却する際、最も気になるのが「いくらで売れるのか」という点です。売却価格は単純に一律ではなく、企業の財務状況や人材構成、将来性などにより大きく異なります。ここでは、一般的な売却相場の算出方法から、評価の根拠となる企業価値・株主価値の求め方までを詳しく解説します。

売却相場の基本的な算出方法

SES事業のM&Aにおける売却価格の目安は、主に「時価純資産」に「営業利益の数年分(営業権)」を加算する方法が用いられます。この営業権は、いわゆるのれん代に該当し、事業の将来性や収益性を数値として表す指標です。一般的には3〜5年分の営業利益が相場とされています。

例えば、時価純資産が5,000万円、営業利益が年間2,000万円であれば、売却価格は以下のように算出されます。

売却価格 = 5,000万円 +(2,000万円 × 3~5年) = 1.1億~1.5億円

また、株式譲渡と事業譲渡では、相場の算定方法が若干異なります。株式譲渡の場合は、時価純資産に加えて役員報酬を営業利益に含めた金額を加算し、事業譲渡では売却対象資産と事業利益を基に算出します。

「エンジニアの人数×単価」で算定されるケースもある

SES事業における最大の資産は、システムエンジニアの人的リソースです。そのため、買収価格の交渉時に「エンジニアの人数」と「エンジニア単価」を基準に提示されることも珍しくありません。

例えば、10人のエンジニアが在籍し、1人あたりの市場価値が1,000万円と評価された場合、その人材面だけで1億円の価値があるとみなされることもあります。特にスキルや経験が豊富な技術者を多数擁している企業は、通常の相場より高値で取引される傾向があります。

売却価格の基礎となる企業価値・株主価値の算出方法

最終的な売却価格の決定は、「企業価値」と「株主価値」の評価をベースに行われます。企業価値とは、会社全体の経済的価値を指し、以下のように定義されます。

企業価値 = 株主価値 + 債権者価値

株主価値は株主に帰属する将来キャッシュフローの現在価値の合計であり、債権者価値は借入金や債務に関連する現在価値を表します。事業価値は、企業価値から事業外資産(余剰資金など)を差し引いたものであり、より実質的な経営資源の価値と捉えられます。

企業価値を評価する3つのアプローチ

企業価値の評価には、以下の3つの手法が使われます。それぞれの特徴を理解することで、売却戦略の立案にも役立ちます。

①インカムアプローチ
将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り戻して企業価値を算出する方法です。収益還元法やDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)などが含まれます。成長性を反映しやすい反面、事業計画に基づくため主観が入りやすいというデメリットもあります。

②コストアプローチ
会社が保有する資産の実質的な価値に着目して評価する方法です。簿価純資産法や時価純資産法が代表的です。客観性に優れ、算出がしやすい反面、将来性を反映できないという制限があります。

③マーケットアプローチ
上場している類似企業の株価や、類似M&A事例を参考にして企業価値を推定する方法です。市場株価法や類似会社比較法などがあり、市場性を反映した客観的な評価が可能です。ただし、完全に一致する比較対象が少ないという課題もあります。

SES事業におけるM&Aのメリット

SES業界では、M&Aによる事業承継や成長戦略が注目を集めています。特に経営者の高齢化や人材不足といった課題を背景に、M&Aは事業の継続性や企業価値の最大化を実現する有効な手段となります。ここでは、SES事業におけるM&Aの主なメリットについて、具体的に解説します。

SES事業におけるM&Aのメリットとして、事業承継の手段として有効であること、まとまった譲渡利益を獲得できること、規模の大きな企業傘下で経営が安定すること、従業員の待遇やキャリア環境が向上することが挙げられます。

事業承継の手段として有効である

後継者不在により廃業を余儀なくされる中小企業が増える中、M&Aは事業承継の有力な手段として機能しています。実際に東京商工リサーチの調査では、休廃業直前期に黒字であった企業が半数を超えており、業績が好調でも承継先が見つからずに廃業するケースが少なくありません。特にSES事業はエンジニアや取引先との関係性が重要であるため、事業が継続されないことは経済的にも人的にも大きな損失となります。

M&Aを通じて、同業他社や意欲ある経営者に事業を引き継いでもらえれば、これまで築いてきた技術力や顧客基盤を次世代に受け渡すことが可能です。さらに、従業員の雇用を維持し、顧客へのサービス提供も継続できるため、会社としての社会的責任も果たすことができます。

まとまった譲渡利益を獲得できる

M&AによりSES事業を売却すれば、業績や資産規模に応じて数年分に相当するまとまった譲渡益を得ることが可能です。多額の現金を一括で受け取れるため、それを原資として新規事業に挑戦したり、主力事業に再投資したり、あるいは老後資金として活用する選択肢も広がります。

廃業の場合は、資産の清算や従業員の退職手続きに費用がかかる一方、M&Aによる売却では、企業としての価値を評価された上で利益を得られるため、経営者にとっての経済的メリットは大きくなります。また、M&Aは出口戦略の一環として位置づけられることもあり、キャピタルゲインを確保する「イグジット」の手段として活用されています。

規模の大きな企業傘下で経営が安定する

SES事業を売却した後は、多くの場合、買い手企業のグループに属して事業を継続することになります。買収側が資金力やブランド力、販売網などの経営資源を有している場合、それらを活用することで、これまで以上に安定的かつ効率的な経営が実現できます。

特に、経営基盤が脆弱な中小SES企業にとっては、大手企業の支援を受けながら事業を展開できることは大きな安心材料となります。また、M&A後も元社長が一定期間経営に関与するケースが多く、従業員や取引先に対する影響を最小限に抑えられます。結果として、社内の混乱を防ぎながら、成長スピードを加速させることが可能です。

従業員の待遇やキャリア環境が向上する

M&AによってSES企業がより規模の大きな企業に統合された場合、従業員にとっても多くのメリットが生じます。例えば、報酬制度の見直しや福利厚生の充実、労働環境の改善など、待遇面の向上が期待できます。加えて、買収元のエンジニアやマネジメント層との交流を通じて、技術的・人的なスキルアップの機会も広がります。

企業の知名度が上がることで採用活動にも好影響が生まれ、優秀なエンジニアの採用がしやすくなるほか、既存社員の離職防止にもつながる可能性があります。従業員のモチベーション向上や成長意欲の強化といった面でも、M&Aは大きなプラス要因になるといえるでしょう。

SES事業におけるM&Aの注意事項

SES事業におけるM&Aは、事業承継や企業成長を実現する有効な手段である一方で、慎重な対応が求められる場面も多くあります。M&Aのプロセスを成功させるには、売却先の選定、準備期間の確保、情報の公開タイミング、デューデリジェンスへの対応など、さまざまな点で戦略的な配慮が必要です。以下では、SES事業におけるM&Aに際して留意すべき主なポイントを解説します。

売却先の選定は企業価値と信頼性を見極めて行う

M&Aにおいて、買い手企業がSES事業の経営権を取得すると、従業員の雇用条件や取引先との契約の取り扱いにも大きな影響を与える可能性があります。もし、従業員の待遇を軽視したり、顧客との関係性を軽んじたりする企業へ譲渡してしまうと、従業員の離職や顧客離れなどのトラブルに発展するおそれがあります。

こうしたリスクを避けるためにも、売却先企業が従業員や取引先に対して誠実な対応ができるかどうかを、事前にしっかり見極めることが不可欠です。候補企業の経営方針や社風、人材マネジメントの方針なども調査し、自社との相性を慎重に判断することが、円滑なM&Aの成功に直結します。

準備期間を十分に設け、余裕を持って進める

SES事業の売却には、企業価値を高めるための準備や買い手候補との交渉など、想像以上に長い時間がかかります。財務状況の健全化、エンジニアの離職率低下への取り組み、契約管理体制の整備など、売却前に対応しておくべき項目は多岐にわたります。

もし、経営不振や経営者の体調悪化などの予期せぬ事態が起きてから売却を検討し始めた場合、急ぎのM&Aは不利な条件を受け入れざるを得なくなったり、買い手が見つからずに廃業を選択せざるを得なくなることもあります。そのため、事業が好調なうちから中長期的な視点で準備を進め、計画的に売却に臨むことが重要です。

従業員への告知は売却確定後に慎重に行う

SES事業では、人材こそが最大の資産であり、M&Aによる従業員への影響も非常に大きなテーマです。売却が決定する前に従業員へ情報を漏らすと、不安から士気が低下したり、他社への転職を検討する社員が出てきたりする可能性があります。特に、リストラや待遇の悪化を懸念する声が強まり、社内の混乱を招くおそれがあります。

従業員との信頼関係を守るためにも、M&Aの詳細条件が固まってから売却の事実を伝えるのが望ましい対応です。その際には、買い手企業との間で、従業員の雇用や処遇に関する方針を明確に合意しておき、安心材料を提供することが重要です。従業員が今後のキャリアに希望を持てるよう、誠意ある説明が求められます。

デューデリジェンス対策は成功の前提条件

M&Aをスムーズに進めるうえで避けて通れないのが、買い手側によるデューデリジェンス(企業調査)です。財務状況や法務リスク、労務管理体制などが厳しくチェックされるため、問題点が明るみに出れば、売却価格の減額や最悪の場合は交渉そのものが打ち切られることもあり得ます。

特に、簿外債務や契約トラブル、訴訟リスクなどはM&Aを妨げる重大な懸念材料となるため、売り手側としては早い段階から潜在的リスクの洗い出しと解消に取り組む必要があります。また、買い手企業やアドバイザーから求められる財務諸表や契約書などの資料も、正確かつ迅速に提出できるよう、事前にM&A専門家と連携して準備を進めることが肝要です。

SES事業のM&A成功のポイント

SES事業のM&Aを成功させるためには、単に会社を譲渡するだけでなく、買い手から高い評価を受けられるような「価値ある企業」としての体制を整えることが重要です。ここでは、SES事業の売却において高値を実現し、スムーズな取引を成功させるための具体的なポイントについて解説します。

SES事業のM&A成功のポイントとして、経営を黒字化しておくことが基本条件であること、優秀な技術者を多数確保しておくこと、汎用性の高い技術領域に対応できる体制を整えること、海外企業との取引実績を増やしておくこと、自社の強みを言語化し、買い手に正確に伝えること、SES業界に精通したM&Aアドバイザーに相談することが挙げられます。

経営を黒字化しておくことが基本条件

SES事業を高値で売却するための最初のステップは、財務体質を健全化し、継続的な黒字を確保することです。たとえ優秀なエンジニアや特許を持っていたとしても、赤字企業に対しては買い手側の評価が低くなりがちです。営業利益が安定していないと、買収後の事業運営に対する不安が残り、売却価格が抑えられる可能性があります。

そのため、M&Aを意識するタイミングでまず取り組むべきは、コスト構造の見直しと収益の最大化です。少なくとも直近数期の決算で黒字化を達成しておくことが、買い手の安心感と信頼につながり、企業価値の向上に直結します。

優秀な技術者を多数確保しておく

IT業界では慢性的な人材不足が続いており、特に即戦力となるエンジニアの確保は大きな課題です。買収側にとっては、自社で採用や教育にコストをかけるよりも、SES事業を通じて一度に複数の技術者を確保する方が効率的であるため、人材の質と量は非常に重視されます。

とりわけ、汎用性の高い言語(JavaやPHPなど)に対応できるエンジニアが多数在籍している場合や、AI・IoTなどの先端分野に強みを持つ場合には、高額な買収対象として注目されやすくなります。技術レベルやスキルセットの体系的な管理も、評価を高めるポイントです。

汎用性の高い技術領域に対応できる体制を整える

SES事業のエンジニアが、需要が高いプログラミング言語やインフラに精通していることは、買収側にとって大きな魅力となります。特に、保守・運用や既存システムのメンテナンスを重視する企業にとっては、特定の最新技術よりも、実務経験が豊富で汎用性の高いスキルを持つ人材の方が価値が高いとされています。

さらに、旧来のシステムに対応可能な技術者を確保しておくことは、レガシーシステムを多く抱える企業からの引き合いにもつながります。技術ポートフォリオを整理し、社内にどの領域のスキルを保有しているか明示できるようにしておくと、M&A交渉を有利に進められます。

海外企業との取引実績を増やしておく

海外市場への展開を視野に入れている買い手企業にとって、海外クライアントとの取引実績を持つSES企業は非常に魅力的です。現地取引の経験や多言語対応の実績があれば、買収後にスムーズな国際展開を行えると判断され、高評価に繋がります。

海外企業とのプロジェクト履歴を整理し、契約実績、対応技術、運用体制などを資料として準備しておくことが推奨されます。海外との接点は、新たな買い手層の獲得やM&A価格の引き上げに寄与する要素となります。

自社の強みを言語化し、買い手に正確に伝える

最終的な売却価格は、買い手との交渉次第で大きく変動します。そのため、自社が持つ魅力を的確に整理し、買い手のニーズと結びつけてアピールできるかどうかが重要になります。特に、エンジニアの人数や技術スキル、契約継続率、取引先の業界バランスなどを数値で示すと、信頼性が高まります。

アピールにあたっては、買い手がどのような目的でM&Aを行おうとしているのかを把握した上で、それに合致する強みを提示することが効果的です。強みの言語化は、買い手の判断材料となるため、第三者目線で整理された売却資料を準備することも欠かせません。

SES業界に精通したM&Aアドバイザーに相談する

SES事業のM&Aは、一般的な事業売却と異なり、人材の単価設定、契約形態、技術力の評価など、専門的な知見が求められます。そのため、M&A仲介やアドバイザーには、SES業界に精通した専門家を選ぶことが重要です。

業界に詳しくない仲介業者では、適切な買い手の発掘や適正価格の提示が難しく、結果的に安値での売却につながる恐れがあります。SES業界に特化した仲介会社であれば、過去のM&A事例や業界ネットワークを活かしながら、最適な提案を行ってくれるため、成功の可能性が大きく高まります。

SES事業のM&A事例

近年、SES業界では、企業成長や新規領域への展開、人材確保を目的としたM&Aが活発に行われていますが、特にIT人材の慢性的な不足が続く中、即戦力エンジニアを抱えるSES企業は魅力的な買収対象となっており、事業拡大を図る企業の注目を集めています。M&Aの形式は主に株式譲渡による子会社化や事業譲渡が中心で、それぞれの目的に応じて最適な手法が選ばれています。

業界再編を促すM&A事例の紹介

実際に行われたM&Aの中でも注目されるのが、2024年4月に実施されたATLIKEとレバテックの取引です。コンサルティングを主軸とするATLIKEは、IT実行力を強化すべく、自社の株式をすべて譲渡し、レバテックの子会社となったことで、企画構想から保守運用までの一貫支援が可能となり、顧客満足度向上と提供価値の拡張が期待されています。

また、同月に行われたGlobal Career Partners Inc.のレバレジーズへの株式譲渡も象徴的です。アメリカで現地人材派遣を展開するGCPを取得したことで、レバレジーズは海外事業の足掛かりを得て、国際的な人材戦略を推進できる体制を整えました。

買収側の事業拡大やシナジー創出を目的とした事例

2020年に行われたエニシアスとクレスコのM&Aでは、需要の高まるクラウド領域を強化するために株式譲渡が行われ、エニシアスはグループの傘下に入ることで開発リソースや販路を拡大させました。さらに、買収価額が2億8,000万円とされた本取引は、一定の企業規模を持つSES事業会社の評価基準を示す好例といえます。

同様に、ケンファーストとFPGの事例では、フィンテックに強みを持つSES企業を取り込むことで、FPGはITソリューションの内製化を進め、グループ全体の業務効率化と付加価値の向上に繋げています。こちらの取得額は5億7,500万円と公表されており、先進的な技術力と人材を持つ企業への高評価が伺えます。

技術者リソースと教育ノウハウの獲得を目的とした事例

フーバーブレインが2024年にイチアールの過半数株式を取得したケースでは、営業や運営に強みを持つSES企業のノウハウを取り入れることで、同社のエンジニア集団構築戦略の実現を加速させました。特に、教育や人材育成体制に注力してきた企業との連携は、グループの人材確保戦略において大きな意味を持ちます。

同様の目的で、JUTJOYを連結子会社化したアピリッツも注目されます。未経験者向けの教育カリキュラムを保有するJUTJOYを傘下に迎えたことで、人的リソースの質と量を両立させ、IT派遣と受託開発の事業拡大を目指しています。

まとめ

SES事業のM&Aは、IT人材不足や競争激化といった業界特有の課題に対応する手段として、今後ますます重要性を増していきます。成功には、事業価値の向上や的確な相手選び、慎重な準備が欠かせません。
本記事を通じて、自社の強みや成長可能性を見直し、戦略的な判断を下す一助としていただければ幸いです。M&Aを視野に入れるすべての経営者にとって、早期の行動と的確な情報収集が未来を切り開く鍵となります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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