M&A Lead > コラム > M&A > 飲食店のM&A動向を徹底解説!相場・事例・流れ・個人でできるかも合わせて解説
公開日:2025年6月3日
更新日:2025年6月3日

飲食店のM&A動向を徹底解説!相場・事例・流れ・個人でできるかも合わせて解説

飲食店のM&A動向を徹底解説!相場・事例・流れ・個人でできるかも合わせて解説の見出し画像

飲食業界では、近年M&A(企業の合併・買収)のニーズが急速に高まっています。後継者不在による廃業の回避、コロナ禍からの再建、新規参入手段としての注目など、M&Aは今や撤退と成長の両面に活用される選択肢となりました。

特に飲食店のM&Aは、小規模事業者や個人投資家でも活用しやすく、既存の設備やブランドを引き継いで即営業できることが魅力です。

一方で、属人的な運営スタイルや従業員の引き継ぎなど、注意すべきポイントも多く存在します。

本記事では、飲食店のM&Aに関する最新の動向から、売却・買収それぞれのメリット・デメリット、価格相場、進め方、注意点、成功事例までを幅広く解説します。

初めてM&Aを検討する方でも理解できるよう、実務的な視点とともに丁寧に解説していきます。

目次

飲食業界におけるM&Aの注目度が高まる背景

飲食業界では、新型コロナの影響による経営環境の変化や、深刻な人手不足、後継者不在といった構造的課題を背景に、M&Aが事業継続や成長の選択肢として注目されています。特にポストコロナでは、インバウンド需要の回復や消費の正常化が進む一方で、体力のない小規模店舗には厳しい状況が続いており、M&Aによる事業再編や事業承継のニーズが高まっています。撤退コストの抑制や譲渡益の確保といった経済的メリットに加え、店舗や従業員の将来を守る手段としても、M&Aの有効性が認識されつつあります。

飲食業界におけるM&Aの注目度が高まる背景をまとめた図解になります。具体的には、市場規模の推移とポストコロナの変化、人手不足と後継者不在による構造課題、倒産と廃業を回避する選択肢としてのM&Aとなります。

市場規模の推移とポストコロナの変化

近年、飲食業界は新型コロナウイルスの影響を受け、大きな変革期を迎えました。2023年には外食産業の売上が前年比114.1%と回復傾向を示し、2019年比でも107.7%となりました。この回復は、行動制限の解除やインバウンド需要の増加によるものです。しかし、客数は依然として2019年の水準には戻っておらず、業態によって回復の度合いに差が見られます。例えば、パブや居酒屋は前年比134.9%と大きく伸びていますが、店舗数は減少傾向にあります。このような状況下で、M&Aは事業の再構築や成長戦略の一環として注目されています。

人手不足と後継者不在による構造課題

飲食業界では、少子高齢化の影響により労働人口が減少し、人手不足が深刻化しています。帝国データバンクの調査によると、2024年における飲食店の人手不足割合は、正社員が56.5%、非正社員が74.8%と高水準を維持しています。経営者の高齢化や後継者不在も大きな課題となっており、事業承継の手段としてM&Aが選ばれるケースが増えています。M&Aを活用することで、事業の継続性を確保し、従業員の雇用を守ることが可能となります。

倒産と廃業を回避する選択肢としてのM&A

飲食店の廃業には、原状回復費用や解約予告家賃など、多額のコストが伴います。M&Aを活用することで、これらの撤退費用を削減し、譲渡益を得ることが可能です。個人保証の解除や精神的負担の軽減といったメリットもあります。事業の継続が困難な場合でも、M&Aを通じて新たな経営者にバトンタッチすることで、店舗の存続や従業員の雇用維持が図れます。

飲食業界におけるM&Aトレンド

近年の飲食業界では、事業の選択と集中を目的としたM&Aが増加傾向にあります。大手外食チェーンは複数ブランドを統合し、組織や資本体制を強化する動きが見られるほか、同業他社との統合により原価や人件費を抑えながらスケールメリットを追求するケースも増えています。IT企業や不動産業など他業種からの参入も活発化しており、すでに顧客基盤やブランドを持つ飲食店を買収することで、短期間で新事業に参入する戦略も一般化しています。

組織・資本強化のためのM&A

飲食業界では、組織の再編や資本強化を目的としたM&Aが増加しています。企業規模の拡大により、従業員の待遇改善や労働環境の整備が進み、人材確保にもつながっています。資本力のある企業が中小規模の飲食店を買収することで、経営基盤の強化や新たな市場への参入が可能となります。

同業種でのM&A

同業種間でのM&Aは、業務の効率化やスケールメリットの獲得を目的として行われます。例えば、ホットランドが酒場運営事業を展開するショウエイを買収した事例では、既存のノウハウや顧客基盤を活用し、事業の拡大を図っています。同業種間でのM&Aは、短期間での事業拡大や新メニューの開発など、さまざまなシナジー効果が期待できます。

他業種からの参入目的のM&Aも増加

近年、他業種から飲食業界への参入を目的としたM&Aも増加しています。「食」は常に需要がある分野であり、安定した収益が見込めるため、異業種の企業が飲食店を買収するケースが増えています。例えば、建設業を営む企業が地域密着型の居酒屋を買収し、事業の多角化を図る事例もあります。このようなM&Aは、既存の経営資源を活用し、新たな市場への参入をスムーズに進める手段として有効です。

なぜ「開業」より「M&A」が選ばれているのか

新規開業には物件探し、設備投資、従業員の採用や教育、営業許可の取得など、膨大な時間とコストがかかります。一方でM&Aを活用すれば、既存の店舗をそのまま引き継ぐことで、営業ノウハウや顧客基盤も維持しながら早期に事業を始めることができます。飲食店のM&Aは比較的小規模な金額でも実現可能な案件が多く、個人や小規模事業者でも参入しやすい点も魅力です。立地やブランドといった無形資産を活かせる点でも、新規開業より優位な選択肢となりつつあります。

初期投資・時間・リスクの削減

新たに飲食店を開業する場合、店舗の取得や設備投資、人材の採用・育成など、多くの時間とコストが必要です。一方、M&Aを活用すれば、既存の店舗や設備、スタッフを引き継ぐことができ、初期投資や開業までの時間を大幅に削減できます。また、既に営業実績のある店舗を引き継ぐことで、事業の成功確率も高まります。

立地やブランド力をそのまま引き継げる優位性

飲食店の成功には、立地やブランド力が大きな影響を与えます。M&Aを通じて、既に確立された立地やブランド力を引き継ぐことで、集客力や顧客の信頼を維持しやすくなります。特に、地域に根ざした老舗店や高評価の店舗を引き継ぐことで、開業初期から安定した売上が期待できます。

飲食M&Aは個人にも手が届きやすい価格帯

飲食店のM&Aは、他業種と比べて比較的低価格で取引される傾向があります。例えば、M&Aプラットフォーム「TRANBI」では、100万円前後で譲渡される飲食店の案件も多数掲載されています。個人でも手が届きやすい価格帯であることから、独立開業を目指す個人にとってもM&Aは魅力的な選択肢となっています。

飲食店のM&Aにはどんな案件があるのか

飲食店のM&A案件には、売上が低迷している赤字店舗の売却案件から、後継者不在により譲渡先を探している黒字店舗まで、多様なケースが存在します。特に焼肉店やカフェ、テイクアウト特化型など、一定の需要があるジャンルには買い手の関心が集まりやすい傾向にあります。また、地方の地域密着型店舗から都心部の商業施設内店舗まで、立地や店舗規模もさまざまであり、目的や戦略に応じた案件選びが重要となります。

売上不振・後継者不在による売却例

飲食店のM&A案件には、売上の低下や後継者不在を理由に売却を希望するケースが多く見られます。これらの店舗は、経営改善の余地がある場合が多く、買収後に適切な施策を講じることで、収益性の向上が期待できます。後継者問題を抱える店舗では、既存の顧客基盤やノウハウを引き継ぐことで、スムーズな事業承継が可能です。

人気ジャンル(焼肉・カフェ・テイクアウト特化型など)

M&A市場では、焼肉店やカフェ、テイクアウトに特化した店舗など、特定のジャンルに人気が集まっています。これらの業態は、安定した需要が見込めるため、買収後の収益性が高いと評価されています。特に、テイクアウト対応の店舗は、コロナ禍以降の消費者ニーズに合致しており、注目度が高まっています。

地方から都心部まで幅広いニーズと供給

地方では地域密着型の飲食店、都心では業績好調な多店舗展開型の案件など、多様な選択肢が存在します。物件の立地や従業員の質、営業年数といった要素によって、M&A後の事業展開戦略も大きく異なる点が特徴です。

飲食店を売却するメリット・デメリット

飲食店をM&Aで売却することには、撤退費用の削減、譲渡益の獲得、後継者不在の解消、個人保証の解除など、多くの経済的・心理的メリットがあります。特に、閉店にかかる原状回復費や違約金の負担を回避できる点は、経営者にとって大きな魅力です。一方で、希望条件で売却できない可能性や、従業員や顧客への影響といったデメリットも存在します。これらの点を事前に整理し、柔軟な条件設定と適切な相手選定が成功の鍵となります。

メリット

飲食店をM&Aによって売却することは、単なる「撤退」ではなく、経営者にとって多くの利益をもたらす戦略的な選択肢となります。

撤退コストの削減

まず、撤退コストの削減が大きな魅力です。飲食店を閉店する場合、原状回復工事費や解約予告による家賃負担、従業員の整理などに多額のコストがかかります。しかしM&Aであれば、営業状態のまま譲渡できるため、こうした費用を最小限に抑えることが可能です。

譲渡益の獲得

譲渡益の獲得も見逃せません。設備や店舗ブランド、顧客基盤といった無形資産も含めて価値評価がされれば、譲渡時に金銭的な利益を得ることもできます。特に営業実績がある店舗は、一定の評価額が付きやすくなります。

個人保証の解除と精神的負担の軽減

多くの飲食店経営者は、店舗の借入に際して個人保証を提供しています。M&Aによる債務引継ぎや清算によって、精神的・経済的な負担から解放される可能性があります。

デメリット

飲食店の売却には一定のリスクや注意点も存在します。

希望条件で売却できない可能性

特に赤字店舗や経営状態が芳しくない場合、希望価格での譲渡が難しくなることがあります。買い手側との価格交渉や条件調整には柔軟な姿勢が求められます。

従業員や顧客への影響リスク

経営者が交代することにより、働き方や待遇が変わる可能性を不安視して、従業員が離職してしまうケースもあります。顧客側でも、店主との関係性や雰囲気が変化することで、来店頻度が減ることも想定されます。

飲食店を買収するメリット・デメリット

買収側にとっての大きなメリットは、営業許可、設備、スタッフを引き継ぎ、短期間で事業を開始できる点にあります。地域で親しまれてきたブランドや常連客との関係もそのまま活用できるため、ゼロからの開業よりも安定した収益が見込めます。一方で、経営が属人的だった店舗では、店主交代によって雰囲気やサービスが変わり、常連客が離れてしまうリスクもあります。人材流出や文化的なミスマッチを防ぐには、現場との信頼構築と丁寧な引き継ぎが重要です。

メリット

飲食店を買収することは、新規開業よりも効率的かつ低リスクな事業参入方法として、多くの個人投資家や企業から注目されています。

営業許可・設備・スタッフを引き継いで即営業可能

まず第一のメリットは、営業許可・設備・スタッフを引き継いで即営業可能な点です。飲食業の開業には、保健所の許可取得や厨房設備の整備、人材の確保など、多くの手続きと準備が必要です。M&Aを活用すれば、すでに営業許可が取得され、運営体制が整っている店舗をそのまま引き継ぐことができ、時間もコストも大幅に圧縮されます。

成熟したブランドやファンベースの獲得

次に、成熟したブランドやファンベースの獲得が可能になる点も大きな魅力です。すでに地域住民に愛されている店舗を引き継ぐことで、ゼロから集客する必要がなく、安定した売上が期待できます。とくに飲食業界では、顧客との信頼関係やリピーターの存在が経営の成否を左右します。

他業種からの参入も容易

このように、飲食店のM&Aは、スピード感のある事業展開を目指す個人・法人の双方にとって、合理的な手段といえるでしょう。

デメリット

飲食店の買収には一定のリスクや注意点も存在します。

属人的な経営スタイルが障壁となる場合がある

飲食店は、店主の個性や接客スタイルが顧客満足に直結しているケースが多く、オーナー交代によって雰囲気が変わり、常連客が離れてしまうリスクがあります。買収時には、店舗運営が「人」に依存していないかを慎重に見極める必要があります。

人材の流出や文化的ミスマッチの懸念がある

人材の流出や文化的ミスマッチの懸念も無視できません。従業員が新しいオーナーの方針や経営スタイルに馴染めず、退職してしまうケースは少なくありません。特に、従業員との信頼関係が築かれていた店舗ほど、この影響は大きく出る傾向があります。

さらに、設備の老朽化や未公開の債務など、買収前には見えづらいリスクも潜在しています。買収前には十分なデューデリジェンスを実施し、リスク要因を洗い出すことが不可欠です。

飲食店のM&Aの進め方と注意点

飲食店のM&Aは、短期間で事業を引き継ぎ・拡大できる一方で、手続きや判断を誤ると大きな損失にもつながりかねません。ここでは、M&Aを成功させるための基本的な流れと注意点を解説します。

飲食店のM&Aの進め方と注意点をまとめた図解になります。具体的には、意思決定とM&Aの目的明確化、仲介会社・専門家への相談、買い手・売り手のマッチング、トップ面談・基本合意・デューデリジェンス、最終契約・クロージング、引き継ぎ後の統合戦略(PMI)にも注意となります。

意思決定とM&Aの目的明確化

最初に必要なのは、「なぜM&Aを行うのか」を明確にすることです。売却側であれば、撤退のためなのか、譲渡益を得たいのか、従業員の雇用を守りたいのかといった目的を整理しましょう。買収側であれば、新規出店、既存業態とのシナジー、収益強化など、戦略に基づいた意思決定が必要です。この段階での曖昧な判断は、後の条件交渉や統合に大きな影響を与えるため、最も重要なフェーズといえます。

仲介会社・専門家への相談

飲食業界に詳しいM&A仲介会社や、税理士・弁護士などの専門家のサポートを得ることで、交渉や契約、リスク管理が格段にスムーズになります。特に小規模飲食店の場合、M&Aの専門知識がなくても進められるよう、スモールM&Aに対応した支援サービスを活用すると安心です。相場感やスキーム提案、相手先の紹介も含めて支援が受けられます。

買い手・売り手のマッチング

M&Aでは、互いの条件や目的に合致する相手との出会いが成否を左右します。M&Aマッチングサイトや信用金庫、業界団体を通じてマッチングを行い、候補を選定します。候補先とは、秘密保持契約を結んだうえで、基本的な経営情報の交換や事業説明を進めていきます。

トップ面談・基本合意・デューデリジェンス

候補先と接触した後は、経営者同士の面談を通じて信頼関係を構築します。理念や店舗運営に対する考え方が合致するかどうかが、引き継ぎ後の成功に直結します。その後、基本合意書を交わし、買収側は「デューデリジェンス(DD)」と呼ばれる詳細調査を実施します。財務状況や契約関係、営業実態、人材構成などを客観的に確認する重要な工程です。

最終契約・クロージング

DDの結果を受けて、最終契約の内容を詰めていきます。譲渡金額、支払い方法、引き継ぎ条件などを明文化し、両者の合意のもとで最終契約を締結します。契約が完了すれば、店舗や営業権、スタッフなどの譲渡が実行され、「クロージング」と呼ばれるM&A成立の瞬間を迎えます。

引き継ぎ後の統合戦略(PMI)にも注意

M&Aの成否は、契約締結後の「統合(PMI:Post Merger Integration)」に大きく左右されます。従業員との関係再構築、顧客への告知、メニューや内装の維持方針など、引き継ぎ後の対応を丁寧に行わなければ、せっかくの買収が逆効果になることもあります。特に小規模店では、「空気感」や「常連客との関係」も資産の一部であることを忘れず、慎重な統合計画が求められます。

飲食店のM&A価格相場と評価方法

飲食店をM&Aで売却・買収する際、もっとも関心を集めるのが「いくらで取引されるのか」という点です。しかし、飲食業のM&A価格は一律ではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合って決定されます。ここでは、その相場感と評価方法の基本を解説します。

相場の目安(年商・営業利益ベースの評価)

飲食店M&Aにおける価格の基本的な算定方法は、「年商」や「営業利益(EBITDA)」を基準にするケースが一般的です。

・年商ベース:年商の0.2〜1.0倍程度
・営業利益ベース:利益の2〜4倍が目安

例えば、年商3,000万円の小規模飲食店であれば、600万円〜1,000万円前後で取引される可能性があります。ただし、赤字店舗や営業実績が浅い店舗はこの限りではなく、無償譲渡や逆に引き取り手に費用が必要なケースも存在します。

「利益倍率」は業種、地域、設備状況、従業員の有無などによって大きく変動するため、あくまで参考値としてとらえる必要があります。

無形資産(立地・ブランド・顧客基盤など)の加味

飲食店の価値を測る際、数値化しにくい無形資産も重要な判断材料です。例えば以下のような要素は、相場以上のプレミアム価格が付くことがあります。

・駅近・繁華街・観光地といった好立地
・SNSやメディアに取り上げられたブランド力
・地域密着型でリピーターが多い
・独自の看板メニュー・技術
・高評価レビューやフォロワー数

これらの「目に見えない価値」は、単なる数字の収益以上に店舗の将来性を左右する要因となるため、買い手は定性的な情報にも注意を払うべきです。

営業権や賃貸借契約の影響

飲食店M&Aでは、事業そのものだけでなく、「営業権」や「賃貸契約の引継ぎ」も価格に大きく影響します。

例えば、店舗の立地が一等地であっても、物件が居抜きで貸主の承諾を得られない場合、譲渡が成立しない可能性もあります。逆に、原状回復義務のない契約条件や、好条件で長期契約可能な場合は、資産価値として評価されることもあります。

また、業態変更の可否や看板・内装・厨房機器の使用可否など、オペレーション上の制約も事前に確認しておくべきポイントです。

飲食M&Aの成功に向けたポイント

飲食店のM&Aは、単に契約を締結すれば終わりというわけではありません。売り手・買い手の双方が納得し、事業が円滑に継続することではじめて「成功」と言えます。そのためには、いくつかの重要な視点から戦略的に取り組む必要があります。

飲食M&Aの成功に向けたポイントをまとめた図解になります。具体的には、スピーディな判断と交渉力、デューデリジェンスを怠らない、事業価値の正確な見極めと条件交渉となります。

スピーディな判断と交渉力

飲食店のM&A市場は、案件数が限られる一方で需要が高いため、良質な案件はすぐに他の買い手に取られてしまう可能性があります。とくに人気エリアや高評価店舗は競争率が高く、意思決定が遅れるとチャンスを逃しかねません。

一方で、拙速な判断も禁物です。スピードと慎重さのバランスを保ちつつ、迅速に現地確認・資料請求・初回面談まで進める行動力が問われます。交渉においても、価格や条件にこだわりすぎると話がまとまらないケースがあるため、譲歩のラインをあらかじめ整理しておくことが重要です。

デューデリジェンスを怠らない

M&Aの成否を大きく左右するのが、買収前の調査「デューデリジェンス(DD)」です。飲食店では特に以下の観点をチェックしておく必要があります。

・財務:帳簿と実際の売上の整合性、現金商売特有のリスク
・設備:老朽化や修繕コストの発生可能性
・法務:賃貸借契約の継続条件や違約金の有無
・人材:スタッフの契約状況や離職リスク
・顧客:常連客の比率や口コミ評価の実態

特に飲食店は属人的な要素が強く、表面上の数字では読み切れない部分も多いため、現場確認と第三者の客観的視点を組み合わせて総合的に判断することが不可欠です。

事業価値の正確な見極めと条件交渉

価格交渉は単なる「安く買いたい・高く売りたい」ではなく、店舗の本質的な価値を見極めたうえでの納得感のある条件設定が鍵を握ります。たとえば、営業利益は少なくともブランドや人材、立地に価値があるケースでは、相場を上回る価格であっても十分に回収可能です。

また、設備・在庫・従業員の処遇といった譲渡条件を明確にし、買収後のトラブルを避けるためにも、契約書や合意事項の精度は高めておきましょう。感情論ではなく、数値や情報に基づく冷静な交渉が成功への近道です。

飲食店M&Aの代表的な事例

飲食業界では、大手チェーンから地方の老舗店まで、さまざまなM&Aが実施されてきました。ここでは、実際に行われた代表的なM&A事例をもとに、飲食M&Aの動向や成功要因を整理します。M&Aを検討している方にとって、実例から得られる学びは非常に大きなヒントとなるはずです。

業界再編の動向として代表的な事例

吉野家HDの株式譲渡

吉野家HDは、グループ再編の一環として、子会社の株式を譲渡するM&Aを複数実施しています。たとえば2023年には「宝産業」の株式を外部企業に譲渡し、経営資源の集中を図る動きがありました。既存ブランドを残しつつも、効率的な経営体制を構築するための戦略的M&Aの一例です。

すかいらーく

ファミリーレストラン最大手のすかいらーくグループも、近年M&Aや子会社整理を通じて事業ポートフォリオを再編しています。国内外のブランド統合や不採算店舗の整理によって、利益体質への転換を目指す動きが進んでいます。

コロワイド

「牛角」や「温野菜」で知られるコロワイドは、過去に大戸屋HDやアトムなどを買収し、多ブランド戦略を強化しています。M&Aによって外食産業内の再編を推進し、購買力や人材基盤を拡大。統合後のシナジー創出にも成功しています。

ジャイロ

居酒屋業態を中心に展開するジャイログループも、店舗ブランドの買収や統合によって拡大を続けています。小規模店舗の買収を繰り返しながら地域密着の強みを活かすスタイルは、中堅企業によるM&Aモデルとして注目されています。

サンマルクHDによる子会社統合

2023年、サンマルクホールディングスは、グループ傘下の3社(カフェ、ベーカリー、レストラン)を吸収合併しました。目的は業態ごとのシナジー最大化と経営効率の向上。これにより、ブランドの統一や仕入れ体制の一本化が進み、コスト構造の改善にも成功しています。

地方店舗の承継による地域密着型経営

地方の個人経営飲食店においても、後継者不在の問題をM&Aで解決する事例が増えています。例えば、地元で20年以上続いたうどん店を、異業種の個人が買収し、従業員をそのまま雇用したままリブランディングに成功したケースがあります。地元住民の信頼と店舗の歴史を守る承継型M&Aの好例です。

投資ファンドの資本参画で成長を実現した事例

投資ファンドによる資本参加は、飲食店が成長フェーズにおいて外部資源を取り込み、経営基盤を強化する手段として活用されています。その代表的な例が、すかいらーくグループと資さんうどんの2社です。

すかいらーくは、2014年にベインキャピタルの支援を受けて非上場化し、その後再上場を果たした企業です。ファンド参画により経営体制の見直しや人件費の最適化、メニューの刷新を進め、財務体質の改善と業績の回復を実現しました。特に、多ブランド戦略の強化や、IT活用による業務効率化が加速し、企業価値を高める再構築が行われました。

一方、北九州発のうどんチェーン「資さんうどん」は、2018年にアント・キャピタル・パートナーズの出資を受け、九州圏から西日本エリアへと積極的に店舗展開を進めています。創業者が築いた味とブランドイメージを尊重しつつ、出店戦略や組織体制の強化、商品開発にファンドの知見を活かすことで、急成長を遂げています。

このように、投資ファンドの参画は、単なる資金提供にとどまらず、事業拡大や経営改革を後押しするパートナーとして機能する点が特徴です。飲食業においても、成長戦略を加速させる手段として今後ますます重要な位置づけとなっていくでしょう。

飲食M&Aの情報を得る方法

飲食店のM&Aを成功させるには、信頼できる情報源から適切な案件やアドバイスを得ることが不可欠です。とくに中小規模の飲食店では、情報の非対称性が大きく、売り手・買い手ともに「良い出会い」を逃さないためのチャネル活用がカギを握ります。ここでは、飲食M&Aの案件や支援を受けられる主な方法を紹介します。

M&Aマッチングサイト

現在、飲食業界に特化したM&Aマッチングサイトが数多く登場しており、個人や中小企業でも気軽に案件を探せる環境が整っています。代表的なものに「TRANBI(トランビ)」や「BATONZ(バトンズ)」などがあります。

これらのサイトでは、価格帯・エリア・業態・売上規模などで絞り込みができ、匿名で相手とやりとりする機能もあるため、初めてのM&Aでも安心して利用可能です。売却希望者の多くが「後継者探し」や「撤退コスト回避」を目的としており、良質な案件が集まりやすいのも特徴です。

地域の金融機関や信用金庫

地方でのM&Aを考える場合、地域密着の金融機関や信用金庫は非常に有力な情報源となります。顧客同士を引き合わせる独自のネットワークを持ち、第三者承継を前提とした相談にも柔軟に対応しています。

特に、すでに取引のある金融機関であれば、店舗の経営実態や財務状況を把握しており、安心して交渉を進められるというメリットがあります。金融庁の方針により、地域経済の維持・発展を支援する活動が強化されており、事業承継支援に前向きな機関も増えています。

M&A仲介会社や公的支援機関

より専門的なサポートを受けたい場合は、M&A仲介会社や公的支援機関の活用が効果的です。特に以下のような特徴があります

・M&A仲介会社:専門スタッフによる評価、相手探し、契約交渉、クロージング支援まで一貫して対応。報酬体系や得意分野に違いがあるため、実績や対応業種をよく確認することが大切です。

・公的支援機関(事業引継ぎ支援センターなど):全国各地に設置されており、相談は無料。中小企業庁の管轄で、後継者不在に悩む中小飲食店をサポートしています。

このように、自分に合った情報チャネルを見極めて、信頼できる専門家の力を借りることが、スムーズで安全なM&Aにつながります。

飲食店のM&Aは個人でもできる

「M&Aは大企業同士が行うもの」というイメージを持たれがちですが、実際には個人が小規模飲食店を買収するスモールM&Aが全国で活発化しています。資金面や業界経験が乏しくても、工夫次第で着実にスタートできるのが飲食業M&Aの魅力です。

スモールM&Aとしての飲食買収

飲食店は比較的少額で譲渡される案件が多く、物件の居抜きや従業員・設備をそのまま引き継げる点で、初期費用を抑えて開業できる手段として人気です。たとえば、地方の個人店や商店街の老舗などでは、100万円〜500万円程度で譲渡されるケースもあります。

既に営業許可を取得しており、固定客もいる店舗であれば、開業初期から一定の売上を見込める点も個人にとっては大きな安心材料です。また、店主との信頼関係のもと、引き継ぎ期間を設定してノウハウを学べるケースもあり、未経験からの挑戦にも向いています。

必要資金と資金調達の基本

個人が飲食M&Aを行う際、必要な資金は「譲渡代金」「運転資金」「保証金・礼金・手数料」などを含めて考える必要があります。現金での用意が難しい場合には、以下のような調達手段が活用されています。

・日本政策金融公庫:創業融資制度あり。M&A目的でも相談可能。
・信用金庫・地銀:地域密着型の案件に適した融資支援あり。
・M&Aマッチングサイト経由の制度融資:提携金融機関による後押しも。

自己資金をある程度確保したうえで、金融機関への事業計画書提出や面談準備を丁寧に行うことが資金調達の鍵となります。

成功に向けた事前準備と学習

個人でM&Aに挑む場合、事前の情報収集と準備がとにかく重要です。成功しているケースでは、以下のようなポイントが共通しています。

・業態や店舗運営の基礎知識を学んでいる(書籍・セミナー等)
・現地見学や試食を通じて「肌感覚」で合うか確認している
・店主や従業員と信頼関係を築く努力をしている
・契約・法務面では専門家の助言を仰いでいる

また、買収後すぐに業績を伸ばそうとせず、「顧客の維持」「スタッフの安心」「変化の段階的導入」を意識した運営が成功率を高めるポイントです。

まとめ

飲食店のM&Aは、事業を手放したい経営者と、新たに参入したい個人や企業の双方にとって、有効な選択肢です。撤退時のコスト削減や後継者不在の解消が期待できる一方で、買い手は初期費用やリスクを抑えて事業を始められるという利点があります。

売上や設備といった数値情報に加えて、立地やブランド、顧客との関係といった無形の価値にも注目することが、M&A成功の鍵となります。また、交渉や契約、引き継ぎ後の対応までを丁寧に行うことで、店舗の価値を維持・発展させることが可能です。

飲食店は地域と人に根ざした存在です。M&Aはその価値を未来につなぐ手段であり、事業の終わりではなく、次のステージへの一歩となります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

M&A・事業継承のご相談ならM&A Lead

M&A・事業承継のご相談はお任せください。 経験豊富なM&Aアドバイザーが、無料でお話をお伺いし、M&Aに捉われず、ご相談いただきました会社・事業オーナー様に最適なご提案させていただきます。 まずはお気軽にお問い合わせください。

WebからM&Aアドバイザーに無料で相談する

    気になられていることや、ご相談されたいたいこと等を自由にご記載ください

    個人情報保護方針にご同意いただいた上、「送信内容の確認画面へ」ボタンをクリックしてください。

    POPULAR

    読まれている記事

    スマホ用CTA