事業承継やM&Aを検討している経営者や経営陣に向けて、事業譲渡と会社分割の手続きの流れと重要なポイントについて解説します。
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目次
事業譲渡とは、会社の事業全体または一部を第三者に譲り渡す手法です。事業譲渡は、会社が持つ資産や負債、契約といった事業に関連する要素を、個別に選択しながら売買するという特徴があります。売り手企業にとっては、事業の再編や不要な事業の整理、新たな成長戦略の一環として活用されることが多いです。一方で、買い手企業にとっては、事業の拡大や新規事業の獲得、あるいは技術や人材の補強といった目的で活用されます。
事業譲渡は、特に中小規模の事業や特定の部門を譲渡する際に適しています。売買する事業の規模が大きくなるにつれて、手続きや調整が複雑化するため、適切な計画と慎重な準備が求められます。
会社分割とは、企業が持つ事業の一部または全部を切り離し、別の会社に引き継がせる手法です。会社分割は、企業再編や事業の効率化、特定の事業を別会社として独立させたい場合に利用されることが多いです。会社分割は、新設分割と吸収分割形式に分けられます。それぞれの手法に関する詳細については、後ほど詳しく解説します。
また、会社分割は、M&Aの一環としても利用されるほか、企業内の組織再編を目的とした手法としても用いられることが多いです。会社分割の際に承継される権利義務は包括的に移転されるため、手続きや税務面での管理が事業譲渡とは異なり、より一括した形で行われます。この点で、事業譲渡とは異なるメリットがあり、状況に応じて使い分けられることがあります。
会社分割には、大きく分けて「新設分割」「吸収分割」があります。
どちらの手法も、「特定の事業に関しての権利・義務の全部または一部を分割すること」は共通していますが、以下のような違いがあります。
新たに設立する法人に、特定の事業の権利・義務を分割し、承継させる組織再編の手法です。
新設分割は、特定の事業に焦点を絞る際に有効です。
既存の法人に、特定の事業の権利・義務を分割し、承継させる組織再編の手法です。
吸収分割は、効率化や事業の統合によるシナジー効果を目的として行われます。
分割により事業を渡す側の企業を「分割会社」といい、事業を渡される側の企業を「承継会社」と呼びます。
上記の新設分割・吸収分割に加え、さらに承継した事業の対価をどこに(誰に)支払うかという点で、「分割型分割」と「分社型分割」の2つに分類されます。
会社分割の対価を、分割会社(事業を渡す側の企業)の「株主」に支払う場合を「分割型分割」と言います。
会社分割の対価を、分割会社(事業を渡す側の企業)自体に支払う場合を「分社型分割」と言います。
「新設分割」「吸収分割」「分割型分割」「分社型分割」をマトリクスで整理すると、以下のようになります。
分社型分割×新設分割:切り離した事業を新しい会社に引き継ぎ、対価は分割会社に支払います。
分社型分割×吸収分割:切り離した事業を既存の会社に引き継ぎ、対価は分割会社の株主に支払います。
分社型分割×吸収分割:切り離した事業を既存の会社に引き継ぎ、対価は分割会社に支払います。
簡単に言えば、事業譲渡はより手間がかかる一方で、会社分割は手続きが比較的容易です。以下に詳細を示します。
項目 | 事業譲渡 | 会社分割 |
組織再編 | 組織再編ではない | 組織再編の一形態 |
契約・承継 | 個別具体の譲渡 | 一括承継 |
債権者保護 | 不要 | 必要 |
債権者の事前承諾 | 必要 | 不要 |
許認可 | 再申請が必要 | 原則自動的に引き継がれる |
簿外債務 | 原則は引き継がない | 一括移行なので引き継がれる |
従業員対応 | 承諾が必要 | 一括移行 |
税務 | 高い税負担 | 軽減されることが多い |
支払対価 | 現金 | 買い手の株式 |
取引先対応 | 再交渉・契約が必要 | 一括承継 |
競業避止 | 設定可能 | 一般的にはない |
会社法上の組織再編への該当
・事業譲渡:特定の事業部門の譲渡であり、会社法上の組織再編とは異なる。
・会社分割:会社法に基づく組織再編の一形態。
契約・承継対象
・事業譲渡:個別の資産、契約などを具体的に譲渡する。
・会社分割:事業全体が一括して承継される。
債権者保護
・事業譲渡:債権者から個別に同意を得るため、債権者保護手続きは必要なし。
・会社分割:事業資産を包括的に承継するため、債務も引き継ぐので、債権者保護の手続きが法律で定められている。
債権者の事前承諾
・事業譲渡:債権者から個別に事前承諾を得る必要がある。そのため、債権者が多ければ、承諾を得る手続きの負担が大きくなる。
・会社分割:包括的に事業を引き継ぐため、債権者から個別に事前承諾を得る必要はない。
許認可の引き継ぎ
・事業譲渡:許認可は自動的には引き継がれず、必要に応じて再申請が必要。
・会社分割:業種によっては、許認可が自動的に承継会社に引き継がれる。
簿外債務の引き継ぎ
・事業譲渡:簿外債務の承継は原則として債務を引き継がないが、契約によっては引き継ぐ場合もある。
・会社分割:包括承継になるため、簿外債務も引き継ぎ対象となり承継会社に移行する可能性がある。
従業員対応
・事業譲渡:従業員の承諾が必要で、個別の契約変更が生じることもある。
・会社分割:従業員の承諾なしに一括して移行可能。ただし、労働契約承継法に基づいて従業員保護手続きが必要。
税務(消費税、不動産取得税、登録免許税など)
・事業譲渡:法人税あり(譲渡益が発生するため)、消費税あり(納税義務は売り手に発生)、不動産取得税の軽減措置なし、登録免許税の軽減措置なし。大きな税負担が発生する可能性。
・会社分割:法人税なし(適格分割の場合)、消費税なし、一定の要件を満たす場合不動産取得税が非課税、登録免許税の軽減措置あり。税負担が軽減されるケースが多い。
支払対価
・事業譲渡:現金での支払い。
・会社分割:現金支払いは不要で、買い手側の株式付与が一般的。
取引先対応
・事業譲渡:取引先との契約は個別に再交渉が必要。取引先の数が多いほど、手続きに時間と手間がかかる。
・会社分割:既存の契約が承継会社に承継されることが多い。
競業避止義務
・事業譲渡:譲渡後も競業避止義務を設けることができる。
・会社分割:競業避止義務の設定は一般的ではない。
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事業譲渡のメリット・デメリットをご紹介します。
事業譲渡のメリットは、以下の5つです。
・メリット1:非注力事業を譲渡し、注力事業のみ残せる
・メリット2:譲渡対価として現金を得られる
・メリット3:従業員や資産を残せる
・メリット4:後継者問題の解決になる
・メリット5:簿外債務などの債務を承継しない
事業譲渡により、非効率な事業や非注力事業(売上・利益が低い事業)から、主力事業へ経営資源を再配分する良い機会になります。
非注力事業の譲渡によって、会社はリソース、時間、およびエネルギーをより生産的な注力事業に集中させることができます。
これにより、その企業は特定の市場での競争力を高めることが可能です。
経営資源が限られている中で、非注力事業を削減・譲渡することは、企業の中長期的な成長と安定性を確保するための重要な戦略です。
事業譲渡を行うことで、現金を譲渡対価として受け取ることができます。
現金が増えることで、企業は新規事業への投資、研究開発、市場拡大などに資金を再配分することが可能になります。
また、現金増加により企業の財務状況が改善され、企業の信用力向上、および金融機関からの融資額を増やすことにもつながるでしょう。
「Cash is King(キャッシュイズキング)」とも言われるように、会社にとって現金は何よりも大切な存在です。現金が増えることは、次なる選択肢の増加に繋がります。
事業譲渡を通じて、企業は特定の事業部門の従業員や資産を選択的に残すことができます。
また、従業員の職務の再配置や再教育を通じて、これまでのスキルと経験を別部門で有効活用することもできます。
事業譲渡は、特定の事業部門の譲渡を通じて、後継者問題を解決するための効果的な手段です。
主力事業が、親族や社内から後継者を見つけるのが難しい場合、思い切って事業譲渡するのも良いでしょう。
企業全体を譲渡(株式譲渡)する方法もありますが、これまで経営リソースを割いていた主力事業を譲渡し、経営負担の少ない一部の事業を企業に残すことで、法人として存続させることも可能です。
買手が包括的に事業を承継する場合には、想定していない簿外債務を承継することがありますが、事業譲渡では買手が想定外の債務を引き受けるリスクを抑えることができます。
事業譲渡のデメリットは、以下の5つです。
・デメリット1:包括的に承継ができず、手続きが複雑になる
・デメリット2:負債を引き継げない場合がある
・デメリット3:譲渡益に課税される
・デメリット4:取引先や従業員との契約は個別に結び直しの必要がある
・デメリット5:買収資金が必要
事業譲渡は、個別の資産や契約の譲渡を伴うため、手続きが複雑になりがちで、時間とコストの増加に繋がります。
事業譲渡に伴って負債を承継させる場合には債権者の同意を得る必要があるため、債権者が同意しないなどの理由で譲渡する事業部門に関連する負債を引き継ぐことができない場合があります。特に、特定の事業部門が持つ債務が大きい場合、譲渡後もこれらの負債が残り、企業の財務状態に影響を及ぼす可能性があります。
譲渡によって得られる売却益でこれまでの負債を返済すれば財務状況は改善しますが、その分次の事業投資に回す資金は減ってしまうので注意が必要です。
事業譲渡によって発生する利益には税金(法人税)が課されます。
この税負担は、特に譲渡益が大きい場合に重大な影響を及ぼす可能性があり、事業譲渡の総コストを増加させる要因となります。
また、事業譲渡の対象の中に消費税が課税される資産が含まれている場合、消費税がかかります。消費税は譲渡損であっても課税されてしまうため、注意が必要です。
税金の計算は複雑であり、譲渡の計画段階で専門家の助言を得ることをおすすめします。
事業譲渡を行う際には、譲渡される事業部門に関連する取引先や従業員との契約を個別に見直し、必要に応じて新たに契約を結び直す必要があります。
これには時間と労力がかかり、場合によっては一部の取引関係が失われるリスクも伴います。
また、従業員の移行には労働法の遵守が必要であり、特に従業員の同意が求められる場合があります。
デメリット5:買収資金が必要
事業譲渡については、会社分割と異なり、対価として現金が必要となります。そのため、状況によっては資金を借入れる必要があるケースもあるため、綿密な事前準備が欠かせません。
次に、会社分割のメリット・デメリットを紹介します。
会社分割のメリットは、以下の5つです。
・メリット1:手続きが簡単
・メリット2:個々の契約も承継できる
・メリット3:従業員の個別同意が不要
・メリット4:消費税が課税されないなど、税負担が軽い
・メリット5:買収資金が不要
会社分割は、包括承継のため事業譲渡に比べて手続きが簡略なことが多く、企業にとって時間とコストを短縮することができます。
法律に定められた明確なプロセスに従うことで、企業は迅速かつ効率的に事業移管を行うことが可能です。
これは、特に大規模な組織再編や複数の事業部門が関与する場合に、業務の停滞を最小限に抑える上で重要なメリットです。
会社分割においては、事業部門に関連する契約をそのまま承継会社に承継できるため、取引先との既存の関係をスムーズに維持することが可能です。
これにより、承継会社は取引先との間の信頼関係を保ちつつ、事業運営を継続できます。
また、契約の再交渉や更新の必要性が低減されるため、ビジネスの途切れを最小限に抑えることができます。
このように、会社分割では契約関係が承継されるのが原則ですが、契約によっては支配権が移転した場合には先方に解除権が発生する条項(チェンジオブコントロール(COC)条項)が入っていることもあるので、法務DDなどで事前に確認が必要です。COCが入っているにもかかわらず、事前承諾などを取らずに会社分割を行うと、主要な取引先などから解除の通知を受けることがあり、会社分割の目的を達成できないことがあります。
会社分割では、従業員を承継会社に移管する際に個別の同意を必要としないため、従業員の移動が事業譲渡と比較して容易になります。
ただし、会社分割では「労働契約承継法」に基づいた手続きを行う必要があります。
具体的には、
・労働組合や従業員への通知
・労働組合や従業員との協議
・従業員から契約内容への異議申出が出た際の対応
などが必要です。
事業譲渡の場合は譲渡益への課税(法人税)や、課税対象資産がある場合は消費税が発生しますが、会社分割は組織再編行為のため、これらは課税されません(適格分割の場合)。
また、一定の要件を満たせば不動産取得税が非課税になったり、登録免許税の軽減措置があるなど、税負担が軽減されるケースも多く存在します。
この税制上の優遇は、全体的な税負担の軽減に寄与し、企業の財務状況にとって大きな利点となります。
会社分割の場合、分割会社に対して承継会社の株式の交付を対価にできます。
対価を現金にすることも可能ですが(吸収分割の場合)、対価を株式にすることで、新たに資金を用意する必要がないのも特徴です。
会社分割のデメリットは、以下の5つです。
・デメリット1:税務の手続きが煩雑
・デメリット2:簿外債務などの引き継ぎリスクがある
・デメリット3:許認可が引継ぎできない場合がある
・デメリット4:買収先の株主が自社の株主になる
・デメリット5:買い手側が非上場会社の場合株式の売却が難しい
会社分割における税務処理は、特に資産の移転や株式交換が関わる場合、複雑で専門的な知識が必要になります。
また、会社分割には「適格要件」という条件があり、これを満たしていると対価として得た現金(譲渡益)は非課税になります。
適格要件を満たすためには、一定の条件を揃える必要があり、これは支配関係等によって異なります。
具体的には、以下の表で◯印の項目をすべて満たしていれば、適格要件を満たしているとみなされます。
要件 | 100%支配の場合 | 50~100%未満の支配の場合 | 共同事業の場合 |
対価として金銭の支払いなし | ◯ | ◯ | ◯ |
株式を継続して保有する | ◯ | ||
移転事業の資産・負債を引き継ぐ | ◯ | ◯ | |
80%以上の従業員を引き継ぐ | ◯ | ◯ | |
事業を継続する見込みあり | ◯ | ◯ | |
分割する事業と承継会社の事業に関連あり | ◯ | ||
両社の事業規模が同等である | ◯ | ||
双方役員が経営参画する | ◯ |
この煩雑なプロセスは、企業にとって追加の時間とコストを要する可能性があり、専門家のアドバイスが必要になります。一方で、専門家とうまく相談のうえ、要件を満たすことができれば税制メリットを享受することもできるでしょう。
会社分割は包括承継のため、簿外債務を含むすべての負債が承継会社に引き継がれます。
特に簿外債務は大きな財務リスクになり得るため、会社分割を選ぶ場合、綿密なデューデリジェンスが必要です。
会社分割では、事業に関連する許認可も包括的に引き継がれるケースが多いですが、一部の業種や業務においては許認可の引き継ぎができない場合があります。例えば、宅地建物取引業の免許や貸金業の登録などは、新たに許認可を取得し直す必要があるため、スムーズな事業運営が一時的に困難になる可能性があります。事業に必要な許認可が引き継がれるかどうかは、事前に十分確認しておくことが重要です。
会社分割では、買収の対価として株式が交付されることが一般的です。この場合、買収先の株主が自社の株主になる可能性があり、結果として新しい株主が経営に影響を与える立場となることがあります。特に、株式保有比率が高い場合には、経営権に影響を与える可能性があるため、分割の対価として交付する株式の数量には注意が必要です。
会社分割で交付される株式が、非上場会社のものである場合、その株式の市場流動性が非常に低いという問題があります。非上場会社の株式は、売却したくても買い手が見つからないことが多く、現金化が困難な場合があるため、将来的な資金調達や株式の処分を考慮すると、注意が必要です。特に、買収後に株式の現金化を予定している場合は、このリスクを十分に理解しておくことが求められます。
事業譲渡と会社分割は、企業が事業を移転する際に利用される代表的な手法です。これらの手法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、選択する際には慎重な検討が必要です。以下では、どのようなケースで事業譲渡や会社分割を選ぶべきかについて、具体的なポイントを解説します。
事業譲渡を選ぶべきケースは、
・資産や負債を選択的に引き継ぎたい場合
・即座に現金を調達したい場合
・譲渡する事業の規模が小さい場合
の3つです。
事業譲渡は、譲受会社が特定の資産や負債のみを選択して引き継ぐことが可能です。買収企業の資産の一部のみを選択して引き継ぎたい場合は事業譲渡を選ぶと良いでしょう。また、事業譲渡は簿外債務や不要な負債を避けたい場合にも適しています。
事業譲渡では、対価として現金が支払われることが一般的です。そのため、売り手が速やかに資金調達を行いたい場合に適した手法です。
事業規模が小さく、取引関係や従業員の数が限定されている場合には、個別承継が可能な事業譲渡が適しています。
会社分割を選ぶべきケースは、
・包括的に権利義務を引き継ぎたい場合
・税務面での優遇を受けたい場合
・資金調達が難しい場合
の3つです。
会社分割は、契約関係や従業員の雇用契約を包括的に引き継ぐことができます。これにより、各契約の巻き直しの手間を省くことが可能です。そのため、多数の取引先や従業員が関与する大規模な事業を移転する際に適しています。
一定の条件を満たした場合、会社分割では税務上の優遇措置を受けることができます。例えば、適格会社分割では、売り手側で譲渡損益が計上されず、税負担を軽減することが可能です。
会社分割では、自社株式を対価として事業を移転することが可能です。このため、現金による支払いが難しい場合でも、株式を利用して事業を引き継ぐことができます。
続いて、事業譲渡と会社分割の手続き、ステップなどをご紹介します。
事業譲渡と会社分割のプロセスは異なります。
事業譲渡では、個別の資産や契約の詳細な評価と交渉が必要で、しばしば複雑な法的手続きが伴います。
事業譲渡の経営及び会社法関連の具体的な手続きについては、下記の流れとなります。
①トップによる事業譲渡について大筋の合意を得る
②基本合意書を作成し、取締役会にて承認・基本合意の締結を行う
③事業場と契約書を作成した後、取締役会にて決議・契約の締結を行う
④株主総会での承認、反対株主の買取請求手続きや債権者保護手続きを経て、事業譲渡を行う
⑤最後に財産移転手続きを行う
一方、会社分割は、事業の一部を分離して新しい法人を設立するか、既存の他社と統合することに焦点を当てています。
会社分割の場合、組織的な変更と資産の移転に重点を置き、これに伴う法的および財務的な手続きが行われます。
なお、会社分割の経営及び会社法関連の具体的な手続きについては、下記の流れとなります。
①トップによる事業譲渡について大筋の合意を得る
②基本合意書を作成し、取締役会にて承認・基本合意の締結を行う
③事業場と契約書を作成した後、取締役会にて決議・契約の締結を行う
④事前開示事項の備置きを行う
⑤株主総会での承認、債権者保護手続き、反対株主の買取請求手続きを経て、会社分割の効力発生日をむかえる。
⑥最後に6ヵ月以内に、事後開示事項の備置き、分割向こうの訴えを行い、2週間以内に登記手続きを行う。
事業譲渡に必要な書類 ※以下一例
・事業譲渡契約書:譲渡の条件、価格、タイミング等を記載
・株主総会議事録:分割の承認に関する株主の決議
・財務諸表:譲渡前のバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書
・資産/負債の明細書:譲渡される資産と負債の詳細
・従業員名簿と労働条件の詳細:譲渡される従業員の情報
・既存契約書のコピー:取引先や顧客との契約
・不動産登記簿謄本(不動産を含む場合)一覧
・知的財産権関連書類(該当する場合)
・適用許認可、ライセンス関連書類
・税務関連書類:納税証明書、税務申告書
会社分割(吸収分割)に必要な書類 ※以下一例
・分割計画書:分割の方法、条件、効力発生日などを記載
・会社分割契約書
・株主総会議事録:分割の承認に関する株主の決議
・財務諸表:分割前のバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書
・資産/負債の明細書:承継会社に移る資産と負債の一覧
・不動産登記簿謄本(不動産を含む場合)
・従業員名簿と労働条件の詳細:譲渡される従業員の情報
・労働契約の移行に関する書類
・契約移行に関する書類
・知的財産権関連書類(該当する場合)
・新設法人の定款(新設分割の場合)
・新設法人の役員就任承諾書(新設分割の場合)
・新設法人の役員の印鑑証明書(新設分割の場合)
・適用許認可、ライセンス関連書類
・税務関連書類:納税証明書、税務申告書
事業譲渡や会社分割には、従業員、株主、取引先、債権者など多くのステークホルダーが関与します。
これらの関係者とのコミュニケーションと調整は、スムーズなプロセスを保証する上で重要です。
・情報の透明性とコミュニケーション
変更の詳細、理由、影響を従業員に明確に伝えます。
・雇用条件の確認
雇用の安定性、変更される可能性のある条件(給与、職務、勤務地など)について説明します。
・キャリアパスと研修機会
新しい環境でのキャリアの進展や研修プログラムに関する情報を提供します。
・フィードバックと対話の機会
従業員からの質問や懸念を受け入れ、対応します。
・経済的な影響の分析
分割や譲渡による財務への影響、期待されるメリットを提示します。
・戦略的なビジョンの共有
長期的な企業戦略と、それによってどのように株主価値が向上するかを説明します。
・リスク管理の概要
関連するリスクとその軽減策について明確に伝えます。
・定期的なアップデート
進捗状況や重要なマイルストーンについて定期的に報告します。
・事業の連続性の保証
取引が途絶えないこと、品質の維持について安心してもらいます。
・新しい契約条件の確認
必要に応じて新しい契約条件や取引の枠組みを再確認します。
・相互の利益の強調
今回の変化がもたらす相互の利益について強調します。
・コミュニケーションチャネルの維持
継続的なコミュニケーションとサポートの提供を約束します。
・債務の承継に関する明確な情報提供
事業譲渡や分割により債務がどのように扱われるかを詳細に説明します。
・財務状況の透明性
新しい事業体や分割後の会社の財務状況を債権者に開示し、返済能力について安心感を提供します。
・契約条件の再確認
既存の契約条件、特に利息率や返済スケジュールに変更がないことを確認し、必要に応じて再交渉します。
・法的義務の遵守
債権者の権利を保護するため、法的義務を遵守することを保証します。
・継続的なコミュニケーション
プロセス全体を通じて債権者との定期的なコミュニケーションを維持し、不明点や懸念に迅速に対応します。
総じて言えば、各ステークホルダーに対しての、「透明性」「信頼性」及び「継続的なコミュニケーション」が非常に重要になり、個別の懸念やニーズに対応するための丁寧なアプローチが必要になります。
会社分割においては、
・債権者保護手続き
・雇用関係
・取引先との契約
などの観点で、いくつかの注意点があります。
会社分割は包括的な事業承継のため、原則として債権者から個別に同意を得る必要はありません。
しかし、会社分割により会社の財務・資産などの状況変化が起きる場合、債権者が不利益を被る可能性があることから、「債権者保護手続き」を設ける必要があります。
債権者保護手続きには、債権者への通知や、必要に応じて債務の保証が含まれます。
分割によって新たに設立される会社や、事業を承継する会社が既存の債務に対して責任を負う形になるため、この点の明確な規定と合意が必要です。
債権者保護手続きは、分割契約を締結し、分割計画の事前開示を行うタイミングで行い、債権者に対し最低1ヶ月間の異議申し立て期間を設けなければなりません。
債権者への公告や催告は、会社分割の効力発生日から1ヶ月以上前に行う必要があります。(会社分割が成立するのは、債権者保護手続き完了後になります。)
債権者保護手続きを行わなければ、会社分割の必要手続きを満たしていないということで、会社分割が無効になる場合もあります。
会社分割により、分割前の債務履行請求ができなくなった債権者が対象になります。
・分社型分割:承継会社に移転する債権の債権者が該当
・分割型分割:すべての債権者が該当
一方、会社分割の影響がない債権者は、債務履行を請求できるので対象外です。
会社分割では、従業員一人ひとりの労働契約も承継対象に含まれます。
多種多様な考えを持つ従業員全員からそれぞれ同意を得る場合、膨大な時間・手間がかかりますが、個別の同意を必要としないのが会社分割です。
一方、従業員を保護する観点から、従業員や労働組合に対して事前に通知する義務等が生じます。
また会社分割を行う場合は「労働契約承継法」の規定に沿って手続きを進める必要があります。
従業員・労働組合への通知タイミングや期限については、「労働契約承継法(会社の合併や分割の際に、労働契約がどのように扱われるかを規定する法律)第2条」によって以下のように定められています。
「通知期限日までに、当該分割に関し、当該会社が当該労働者との間で締結している労働契約を当該分割に係る承継会社等が承継する旨の分割契約等(新設分割にあっては新設分割計画)における定めの有無、異議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項を書面により通知しなければならない。」
具体的な期日は以下です。
パターン | 期日 |
株主総会で分割の承認が必要な場合 | 株主総会の開催予定日の「2週間前の前日まで」 |
株主総会の承認が不要/ または合同会社が分割を行う場合 | 分割契約の締結日、あるいは分割計画の作成日から「2週間が経過する日まで」 |
・主に承継される事業に従事する労働者
分割契約の締結日において、承継される事業に主として従事している労働者(主従事労働者)は、その事業の承継と共に承継会社に移行します。
ただし、この日までに承継される事業に従事しないことが明らかである場合、または一時的にその事業に従事している場合は、この限りではありません。
・その他の労働者
承継される事業以外に従事しているか、休業中の労働者で、分割契約締結日以前に承継される事業に主として従事していた場合、これらの労働者も承継会社に移行することがあります。
しかし、この移行は、分割契約締結日後に再び承継される事業に主として従事することが明らかな場合に限られます。
要するに、会社分割時には、承継される事業に関連する労働者が、主に承継会社に移行することとなりますが、その判断はそれぞれの労働者がどの事業に主として従事しているかに基づいて行われます。また、一時的な配置や休業状態など、特定の状況にある労働者の取り扱いには例外があります。
会社分割の際、労働者が不利益を受けることがあれば、異議を申し立てる権利があります。
この権利は、特定の条件に該当する労働者に限られます。具体的には、以下の2つの状況が該当します。
1.主従事労働者を分割会社に残留させる場合
2.非主従事労働者を承継会社等に転籍させる場合
異議申し立てをするには、分割会社に対して書面で行う必要があり、その申立書には法的な効力が発生します。
もし主従事労働者が分割会社に残る契約に対して異議が申し出られると、労働条件は同じまま承継会社に労働契約が移ります。
また、非主従事労働者が承継会社に転籍する契約の場合、それに対して異議が申し出られると、労働条件を維持しながら、元の会社(分割会社)に残留できます。
会社分割後も従業員が継続して雇用されることを確認する必要があり、企業は会社分割のみを理由とする解雇を行うことはできません。
会社分割では、取引先との契約もそのまま承継されるため、個別同意は基本的に不要です。
※取引先との契約で会社分割に関する条項が定められている場合、会社分割に対して何らかの制限を受ける可能性あり。
個別同意は基本的に不要と言いつつも、分割後に良好な取引関係を維持するためには、取引先に対しては、変更の理由と期待される効果を説明した方が良いでしょう。
安定した取引関係の継続を確保するための努力は必要です。
会社分割、事業譲渡のスキームを用いたM&Aの有名事例を2つほどご紹介します。
2022年9月、LINE株式会社のllivedoor事業を新たに設立する株式会社ライブドアに対して吸収分割により承継、その全株式を株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド(以下、ミンカブ)が取得し完全子会社化しました。
・LINEの事業概要
コミュニケーションアプリ「LINE」を中心として、コミュニケーション・コンテンツ・エンターテイメントなどモバイルに特化した各種サービスの開発・運営・広告事業に加え、Fintech事業、AI事業
・ミンカブの事業概要
資産形成情報メディア「MINKABU」や株式専門情報メディア「Kabutan(株探)」の運営など、株式、暗号資産、FX、商品先物、投資信託、保険、不動産といった金融商品を対象とした投資情報の提供
・M&Aの目的・背景
ミンカブはこれまで投資・資産形成等の金融領域を中心にメディア事業を展開しており、既存事業の成長が鈍化していたため、新たにライフスタイル等別領域への事業拡大を期待してM&Aに至りました。また、ミンカブはこれまで検索からのメディアアクセスを主としていましたが、ライブドアはSNS集客がメインのため、集客手段の多角化・リスク分散への期待もありました。
ミンカブの当初(2023年3月期)の年間売上見込みは75億円で、同期間のライブドアの推計売上は40億円。よって、この買収でミンカブの連結売上は75億+40億=115億円に到達し、当初の予定よりも前倒しで100億円到達できることも、M&Aに至った理由の1つと考えられます。
・M&Aのプロセス・スキーム
LINE株式会社が保有していたlivedoor事業(「ライブドアブログ」「livedoorニュース」「Kstyle」)を、同社が新たに設立する完全子会社の株式会社ライブドアに対して吸収分割により承継、その全株式をミンカブが取得し完全子会社化しました。
また、livedoor事業の責任者を含む、事業に携わる人員の約50名がミンカブに移籍しました。
取得価格は約71億円です。
2016年10月、ソニーが村田製作所へ電池事業を譲渡しました。
・ソニーグループの事業概要
ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(モバイル・コミュニケーション/イメージング・プロダクツ&ソリューション/ホームエンタテインメント&サウンド)、イメージング&センシング・ソリューション、金融及びその他の事業
・村田製作所の事業概要
チップ積層セラミックコンデンサの製造・販売、圧電製品の製造・販売、通信モジュールの製造・販売、電源モジュールの製造・販売
・M&Aの目的・背景
1975年から電池部門を展開し、1991年に世界初のリチウムイオン充電池を市場に投入したソニーですが、近年は価格競争により電池事業の業績は振るわずでした。
このような背景のもと、ソニーは電池事業を村田製作所に売却することを決定しました。
・M&Aのプロセス・スキーム
ソニー100%子会社の「ソニーエナジー・デバイス」が展開する電池事業、中国/シンガポールの電池事業に関する製造施設、国内外の販売・研究開発拠点のうち電池部門に関連する資産と人材を村田製作所に譲渡しました。
譲渡金額は約175億円です。
会社売却や事業承継など、M&Aに関するお悩みは、ぜひM&A Leadへご相談ください。
M&A Leadが選ばれる3つの特徴をご紹介します。
M&A Leadが選ばれる3つの特徴
①譲渡が実現するまでは完全無料の「完全成功報酬制」
②圧倒的な買い手様ネットワーク
③経験豊富なアドバイザーによる本質的なご支援
M&A Leadは、譲渡が成立するまで完全無料の「完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
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さらに、当社のアドバイザーだけでなく、当社が運営するM&Aアドバイザー紹介プラットフォームにご登録いただいているM&Aアドバイザー様のネットワークも活用可能なので、どのような業界・業種の案件にもご対応可能です。
ご相談は完全無料となりますので、M&Aに関するどのようなお悩みもお気軽にご相談ください。
今回の記事では、事業譲渡と会社分割の違いについてご紹介しました。
事業譲渡と会社分割はそれぞれメリット・デメリットがあります。
今回の記事にまとめられた要点をしっかりと押さえた上で、税制など法律面でも複雑になってきますので、各分野の専門家やM&A仲介会社に相談しながら、自社に合うM&A方法を選んでみてください。
この記事の監修者
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