後継者不在で譲渡を決意、薬局オーナーの想いを託すM&A
― 案件の概要について教えていただけますでしょうか。
後継者がいらっしゃらない老夫婦が営まれている薬局様からご依頼をいただいたケースです。個人経営されている薬局を第三者に承継したいというご要望でした。
― 売り手オーナー様がM&Aを検討された背景について教えていただけますでしょうか。
売り手オーナー様には娘様がお一人いらっしゃいましたが、娘様、娘様のご主人様とも薬剤師ではありませんでした。さらに、娘様は子育てや別のお仕事をされており、現実的に薬局事業を引き継ぐことが困難な状況でした。そのため、オーナー様はご自身で事業を継続されることが難しいと判断され、第三者への承継を検討されるに至りました。
薬剤師会に根ざしたオーナーの信念を継ぐ相手選び
― M&Aに対する不安や課題をオーナー様は抱えていたと思いますが、オーナー様が抱えていた不安、課題はどのようなものだったのでしょうか?
前提条件として、売り手であるオーナー様は薬剤師会でも有名な方でした。そのため、譲渡にあたっては、まずオーナー様の名誉や立場を損なうことなく、円満に勇退していただくことが第一の条件でした。もう一つの条件としては、オーナー様の理想に近い買い手様に薬局を譲渡できるかどうか、という点でした。この2点が非常に重要なポイントでした。
― オーナー様の名誉を保ちつつ、理想の買い手様を見つけるという点において、具体的にどのような買い手様をご紹介されたのか、教えていただけますでしょうか。
私どもの会社では、薬剤師会とのつながりが非常に強い点が特徴です。具体的には、日本薬剤師会をはじめ、県や市、区といった各階層の薬剤師会との関わりを通じて、多くの譲渡案件をお手伝いしてまいりました。薬剤師会に所属されている方々には共通点がございます。単に薬局経営に携わるだけでなく、薬剤師として地域社会への啓蒙活動をされている方が多いです。そのため、譲渡にあたっても薬局の買い手様には、単に経済的条件を満たすだけではなく、オーナー様が掲げる理念に合致することが求められます。例えば、「近隣のクリニックや病院と良い関係を築いているから譲渡してほしい」といった申し出があったとしても、それだけでは不十分です。買い手様が薬剤師会の一員としてオーナー様の意向や薬局の価値観を十分に理解し、引き継ぐ方でなければ、譲渡を進めることはできません。そのため、私どもとしてもオーナー様の名誉を保ちつつ、理念を共有できる買い手様を探索しご推薦する必要があります。
― 印象に残っているエピソードや困難だったポイントについて教えていただけますか?
薬剤師会様としても、薬剤師会に所属されるオーナー様方に共通する理念がございます。それは、次世代の薬剤師様を育成し、若い薬剤師様が活躍できる場を提供すること、さらには薬局経営を担える方を育てていくことです。この理念を実現するため、私どももただ「資金力がある方」や「近隣の病院やクリニックとの連携が取れている方」を譲渡先に選ぶのではなく、売り手様のご期待に応えられるような、いわば売り手様の「家族の一員」や「後継ぎ」としてふさわしい方を探す必要がございました。具体的には、売り手様のお人柄やご希望を深く理解し、それに適した買い手様を見つけることが不可欠です。我々は数千件の買い手様のリストを保有しておりますが、その中から売り手様のパーソナルな部分を十分に理解した上で、候補者を絞り込みました。最終的には、これから独立を目指し、ゼロから薬剤師業務や薬局経営を学びたいと強くご希望される個人の方を数名ピックアップし、売り手様にご推薦させていただきました。このような候補者選定の過程があったことが非常に印象に残っております。
信頼が生んだスピードM&A
― この案件が成功した要因について教えていただけますでしょうか。
今回の売り手様と買い手様のマッチングにおいて、スピード感が重要な案件でした。売り手様自身も「これ以上時間をかけて候補者を探すのは避けたい」とお考えになられており、買い手様側も迅速な決定を望まれていました。例えば、集団面接のように複数の候補者と1日に面会する形ではなく、「我々が選定した最適な一人を連れてきてほしい」という売り手様からのご要望がございました。そのため、事前に綿密な準備を行い、売り手様のご期待に沿える候補者を一人に絞ってご提案させていただきました。結果として、この案件はトップ面談から契約締結まで、わずか1週間という驚異的なスピードで進みました。当日の流れとしては、午前中にトップ面談が実施され、候補者の方が売り手様に大変気に入られました。その場で「午後には契約を交わしたい」という売り手様のご意向をいただき、その日の午後に契約書の準備を進めることになりました。幸いなことに、製本テープなどの備品を持参していたため、近くの店舗で必要な手続きを行い、その場で契約書を製本・捺印することができました。私どもとしても、このようなスピード感での案件成立は非常に稀で、驚きを感じておりましたが、売り手様と買い手様双方のご希望が完璧に一致したことが成功の要因であると考えております。買い手様が売り手様にとって理想的な後継者であり、双方が納得してご契約を結ばれたことは、まさに「ベストマッチ」と言える結果でした。
第2の家族として支え合うM&Aのアフターストーリー
― オーナー様とのアフターストーリーを教えてください。
その後も、売り手様と買い手様が良好な関係を築かれている姿を拝見する機会が多く、本当に印象深い案件でした。売り手様はご自身に息子さんがいらっしゃらなかったこともあり、「自分の息子だ」と自分のお子様のように、買い手様を温かく迎え入れていらっしゃいました。買い手様は元々製薬会社でMRとして長年活躍されていましたが、早期退職を機に薬局経営の独立を考え始めた方でした。薬剤師の資格をお持ちでしたが、一度も実務経験がなかったため、売り手様が「師匠」のような存在になり、さらに「第2の両親」として親身に指導されていたのが印象的でした。 また、売り手様の心遣いが非常に大きく表れていたエピソードとして、売り手様が買い手様に「営業権の対価はいらない」と発言される場面がありました。さらに、薬局運営に必要な医薬品在庫についても、「これも私どもが負担します」とおっしゃるほどでした。しかし、法律的な観点からそれは難しいため、私どもや買い手様から丁寧にご説明させていただき、最終的に適切な形で進めさせていただきました。驚くほどスムーズだったこともあり、自分自身にとっても勉強になった案件でした。
― M&Aをご検討されている方々へアドバイスをお願いします。
M&A業界で本質的に薬局のM&Aを熟知した業者や個人は非常に少ないと感じております。私自身は、元々薬歴メーカーの代表を務めていた経験がありますが、薬局の実情を深く理解しながらM&A仲介を行える専門家がいないのが現状です。弊社では、薬局業界に精通した視点から本質的なマッチングを提供し、売り手様のニーズに最適なご提案を行っております。また、売り手様から手数料をいただかないという報酬体系をとっております。売却をお考えの際には、まずは弊社にご相談ください。皆様のご希望に沿った最善の提案をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。