近年、事業承継の選択肢としてM&Aが注目を集める中で、中小企業が安心してM&Aを実施できる環境を作るために「M&A支援機関に係る登録制度」が中小企業庁によって、開始されました。
本制度は、中小企業がM&Aを進める際に協力を依頼する先として、信頼できる事業者を容易に見つけられるようにしています。
本記事では、M&A支援機関登録制度の概要や目的、そして登録要件について詳しく解説します。事業売却やM&A仲介業者の利用を検討されている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
近年、事業承継の選択肢としてM&Aが注目されていますが、同時に支援機関の質にばらつきが生じていました。このような状況を踏まえ、中小企業のM&A取引を安全かつ円滑に促進するために、2021年8月に中小企業庁によってM&A支援機関登録制度が開始されました。
本制度により、M&A支援を行う事業者が、中小企業庁の審査を経てデータベースに登録されるようになりました。対象となる事業者は、M&A仲介会社だけでなく、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)、プラットフォーマー、会計事務所なども登録されています。
専門家活用事業で事業承継・引継ぎ補助金を活用する場合は、仲介会社等が、本制度のM&A支援機関に登録されている必要があります。
M&A支援機関登録制度の根幹には「中小M&Aガイドライン」があります。ガイドラインの理解と普及を通じて、M&A支援の品質向上が図られています。結果として、中小企業がより安心してM&Aに取り組める環境が整備されつつあります。
M&A支援機関登録制度の状況(登録機関数など)について、記事作成時点での最新状況をご紹介します。
中小企業庁によると、2024年8月20日時点で支援機関として登録されているFA及び仲介業者は2,766件です(内訳は、法人が2,083件、個人事業主が683件)。
登録支援機関の内訳としては最多がM&A仲介会社(645件)であり、税理士(466件)、経営コンサル(433件)と続きます。
また、「M&A支援業務専従者数別の登録件数」と「設立年代別登録件数」も公表されており、特徴としては、支援機関の大半は小規模な事業者であり、2020年代以降に新規参入した事業者が多いことが分かります。
出所:M&A支援機関登録制度に係る登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者の公表(令和6年度公募(7月分))について
M&A支援機関として登録されるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
まず、「中小M&Aガイドライン」の行動指針に沿って業務を行うことを宣言する必要があります。ガイドラインにはM&Aの標準的な流れや、M&A手法の選択に関する指針、法的・倫理的な留意点などが含まれています。
中小M&Aガイドライン遵守については、宣言するだけでなく、ホームページに明記して誰でも閲覧できる状態にする必要があります。ホームページには、遵守事項一覧にチェックを入れて掲載することが必要です。
ホームページがない場合、同等の内容を会社概要や事業概要、パンフレット等に記載し登録事務局へ送付する形でも代替できます。
M&A支援機関の登録申請時には、料金表の提出も必要です。
社内規程など報酬体系や算出方法の記載がある資料を提出します。報酬体系に関する資料がない場合、直近の見積や契約に関する資料で代替することも可能です。
しかし、料金の算出根拠が明確でない場合、資料として認められないこともあるため、注意しましょう。
M&A支援機関登録制度には、登録するために求められる要件に加えて、登録後に遵守すべき事項が定められており、履行の誓約が必要です。
登録後の事業活動において遵守すべき事項が履行できていなかったり、事務局より改善を求められたにもかかわらず改善が見られない場合、登録の取消などがなされる場合もあります。
中小企業の権利を保護し、適切な支援を受ける機会を確保するため、M&A支援機関登録制度に参加する企業は、顧客である中小企業が、中小企業庁の窓口へ相談することを妨害してはなりません。
M&A支援機関と顧客中小企業の間では、通常、秘密保持契約が結ばれます。しかし、契約の存在が、中小企業庁の窓口への相談を制限する理由にはなりません。顧客中小企業は、秘密保持義務の有無にかかわらず、自由に相談が可能です。
反社会的勢力との関わりがないことは、登録の必須条件となっています。具体的には、暴力団や暴力団関連企業と一切の接点がなく、今後も持つ意思がないことが要求されます。
M&A支援機関登録制度は、信頼性の高い支援機関を選別するシステムです。そのため、補助金交付の停止や契約に関する指名停止などの処分を受けた機関は、本制度を利用することができません。
中小企業庁は、登録申請や継続申請を行った支援機関の情報を自身のウェブサイトで公開することがあります。
支援機関は情報開示に同意し、異議を唱えないことが登録の条件となっています。したがって、支援機関は、自身の情報が公開されることを前提に、高品質なサービスの提供に努める必要があります。
過去に支援機関として登録していても、取消措置を受けてから措置期間が経過していない場合、登録要件を満たしていないことになります。
過去に支援機関として登録していても、違反があり、事務局の是正指示に沿った対応を行っていない場合、登録要件を満たしていないことになります。
その他、登録申請の手続きの際、各項目の確認と宣誓を行うことも登録要件として必要となっています。
M&A支援機関の登録制度を活用するメリットについて、登録する支援機関側と登録した支援機関へ支援を依頼する中小企業側に分けて、ご説明します。
M&A支援機関として登録されている機関は、一般公開されている中小企業庁の登録機関データベースに公開されるため、信用力が向上します。
また、公的な機関に登録されている点を訴求することで、ブランド力向上やマーケティング力の強化も期待できます。
登録支援機関に対して、支援を依頼する側(中小企業経営者)のメリットは、登録支援機関データベースから検索することで、一定の基準を満たした機関を選べるため、安心して依頼できます。
また、登録された支援機関へ依頼すると「事業承継・引継ぎ補助金」の対象にもなるため、M&Aにおける費用の一部が補助の対象となることもメリットの一つです。
M&A支援機関に登録する際の流れをご説明します。
まず、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」を確認し、申請受付の開始や公募要領について確認しましょう。必要書類の準備を進めつつ、中小M&Aガイドラインの登録要件の確認も忘れずに行います。
中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」のページから、申請フォームに進み各項目の入力と必要書類の提出を行いましょう。
申請を出した後、事務局によって審査が行われます。要件を満たした場合、登録が承認されます。
登録が承認されると、中小企業庁のホームページ(M&A支援機関のリスト)に公開されます。登録の通知は、ホームページでの公開後に行われます。
M&A支援機関へ登録するにあたり、注意が必要な点をご説明します。
M&A支援機関の登録を進める際は、誤った情報を入力・提出することのないよう、正確な情報での申請を心がけましょう。理由としては、登録した後に虚偽が判明すると登録の抹消や法的な責任が生じることがあるためです。
登録内容に変更が生じた場合は、M&A支援機関登録事務局に速やかに報告し、指示に従う必要があります。
M&A支援機関の登録にあたり、情報公開へも同意することになります。したがって、提出した情報が中小企業庁のホームページ上で公開される可能性があることを理解しておきましょう。
今回の記事では、M&A支援機関登録制度の概要や活用した際のメリットをご説明しました。
M&A仲介業者や税理士など、登録する側としては信用力の向上に繋がります。
一方、中小企業の経営者など、M&A仲介業者を利用する側としては、登録機関の中からサポートを受ける機関を選択することで、補助金の対象にもなり、安心してM&Aを進められます。
今回の記事が、M&A支援機関登録制度がどのようなものなのか、利用するとどのようなメリットがあるのか理解する参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
M&A・事業承継のご相談はお任せください。 経験豊富なM&Aアドバイザーが、無料でお話をお伺いし、M&Aに捉われず、ご相談いただきました会社・事業オーナー様に最適なご提案させていただきます。 まずはお気軽にお問い合わせください。
RELATED
POPULAR