M&Aは企業評価に大きな影響を与えます。M&Aが株価に与える影響は上場企業と非上場企業によって異なります。上場企業が買収・売却対象の企業となる場合、株価にも大きな影響があります。以下にM&A と株価の関係について説明します。
この記事の監修者まず、買い手側の視点で考えた場合、M&Aは会社や一部事業の取得、株式を取得することで全部もしくは一部株主になることが前提です。一方、売り手側の視点では自社(全社または子会社)の売却や、一部資本参加を求めることになります。
上場会社と非上場の会社によってもM&Aと株価の関係も異なります。例えば上場企業の場合、ノンコア事業を売却することにより経営が健全化する場合や買収した会社とシナジーが見込めるようなケースでは株価が上昇する場合があります。一方、非上場の会社には株式市場における株価という概念はありません。そのためM&Aによる株価への影響は起きにくいと言えるでしょう。
M&Aで企業価値を評価する場合のポイントは対象企業の株価の上下ではなく、会社がもつ価値を考えると良いでしょう。
M&Aにおける株価の計算方法には複数の方法があります。以下に説明します。
純資産価額方式とはバランスシートの純資産をベースに考える方式です。非上場株式の評価方法の1つであり、課税時期に会社を清算した場合の1株当たりの純資産価額を相続税評価額で算定する方式です。純資産価額方式は時価純資産で会社を清算するのと同じ価額評価となるため、売却益が出ないケースがあります。そのため、売り手側としてはそもそもこの方式を利用してM&Aを行う意味がない場合があります。
収益方式は、純資産価額方式の欠点を補い、企業における将来の収益を予測して計算する方式です。企業の現在価値と将来価値の両方を評価できるため、評価方法として優れています。
配当還元方式とは株主に還元される配当金のみを評価対象とする評価方法です。特に非上場企業の株価を評価する場合に利用されます。オーナー企業や同族会社など少数の株主が保有する株価を評価する際などに利用されますが、非上場の会社ではそもそも配当を行っていないケースがあります。
類似業種比準方式とは類似の会社の売り上げや、簡易キャッシュフローとして利用されるEBITDA、税引き後の純利益等が類似の会社では何倍の水準で評価されているのか、マルチプル(倍数)を利用して確認します。類似の会社をベンチマークして税引後の純利益のマルチプルが何倍なのかを確認することでM&Aのターゲットとなる会社の評価を行います。
評価対象の会社が非上場の場合では、上場企業と比較時した非上場ディスカウントが適用されます。この場合、上場企業の約70%程度のマルチプルを適用するケースが一般的ですが、さらにディスカウントされることもあります。
M&Aの対象企業が上場か非上場かによって異なります。非上場の中小企業が売り手の場合、そもそも上場していないため、当然ながら株式市場における株価変動は発生しません。一方、買い手が上場企業でM&Aによるシナジーが期待される場合や不採算事業の売却で収益改善が期待される場合は株価が変動するケースがあります。
M&Aの株価上昇の要因について以下に説明します。
買い手企業に不足する事業領域を買収することで、新たな売り上げを確実に期待できます。また、バックオフィス部門など共通する機能の統合によってコスト削減が見込めます。特に同業種のM&Aの場合はこうしたシナジーが期待できます。
M&Aによって新たな会社や事業部門を獲得できた場合、買い手の企業は事業拡大の可能性が高まります。こうしたケースでは株式市場が好感し、株価上昇の要因となりえます。例えば物流事業者の場合、カバーできてない地域の配送ネットワークをM&Aで取り込むことによって新規受注による収益増を期待できるのではないでしょうか。
経営の安定化
上場企業の場合、業績が低迷する事業部門や損失を出している事業部門を売却することで経営の安定化が期待されます。
M&Aによる株価下落の要因について以下に説明します。
上場企業が買い手となり、利回りが高い会社を買収できた場合に株価の上昇が想定されます。一方、株価の高騰は買収した会社の規模に依存します。一般論ですが、時価総額が極めて高い大企業が、利回りが高くとも非常に小規模な会社を買収した場合は買い手企業の収益には大きなインパクトは想定しにくいのではないでしょうか。例えば時価総額が数兆円の企業が中小企業を買収するようなケースです。
買収した事業の現在または将来における不透明性、あるいは既存事業との関連性が見られない事業の買収は、買収後の経営の不安定性を惹起する場合には株価下落の要因になりえます。
中小企業にはオーナー企業が多く、オーナー経営者が会社の価値に占める割合が高い状態が多く存在します。こうした中小企業が買収された場合、経営者の交代が企業価値の低下を招くケースがあります。経営者そのものが企業価値の根幹になっているためです。
M&Aを行うことによって上場企業の株価に変動が起こります。この章では株価が上昇した事例と下落した事例について説明します。
ダイキン工業によって行われたグッドマングローバルグループインク(以下グッドマン)のM&Aではダイキンの企業価値が向上し、上昇率は日経平均株価の上昇率を大きく上回りました。
2009年にパナソニックは三洋電機を買収し連結子会社化しました。しかし三洋電機との重複ビジネス統廃合などで追加コストの発生や三洋電機ソーラー事業および民生用リチウムイオン電池事業などに関連するのれんの影響で、パナソニックの株価が下落しました。
先述のダイキン工業によるグッドマンのM&Aの事例では2010年の買収後、9年後の2019年までに1株あたりの株価は約5倍まで上昇しました。
M&Aにおいて株価の変動を予測するポイントについて投資を行う視点から以下に説明します。
M&Aはそもそも秘密保持契約のもと水面下で進められます。一般投資家はインサイダー情報との接点がないため、M&Aの情報の真偽を確かめる方法はありません。
M&Aにおけるシナジー効果は、複数の方法で評価することができます。具体的な評価方法として自社購買力分析、HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス)
PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)があります。
一般の人がインサイダー情報を入手することは困難ですが、公開情報から業界トレンドや経済状況を読み解くことはできます。業界トレンドの文脈を把握し対象企業のリサーチを続ける中でM&Aが行われることを予見できる可能性もありえます。
大企業や成長企業の場合、M&Aをきっかけとした株価変動が起こるケースがあります。以下に対策を記載します。
株価変動に備える対策として、事前の情報収集は必要ですが、M&A実行中はインサイダー取引に抵触するリスクがあります。そのため、公開情報から情報収集することになります。
上場企業の場合、企業価値の向上を目指したM&Aでも株価が下落するケースは多くあります。こうしたリスク回避のためには株価下落の要素に関して事前のリサーチが必要です。
M&A情報を活用した株取引のタイミングの考え方
M&Aは厳しい機密保持の水面下で実行されます。そのため一般投資家はM&Aの実行後、情報公開後に該当企業の株式を購入することとなります。
M&Aに関わる情報は、日本M&AセンターのM&A速報ニュースやM&AOnlineのM&A速報一覧から入手できます。
M&Aのプロセスでは機密漏洩の対策が必要です。意図せぬ漏洩がネガティブな噂として伝わってしまった場合、株価が下落し企業価値の毀損につながります。
M&Aとの株価の関係については該当の会社が上場企業か非上場企業かによって異なります。
M&Aを行う上場企業の株価には相関関係があります。シナジーが生まれ、新たな価値創出が期待される時、市場の株価は上昇します。一方で、企業価値を毀損させる可能性がある場合、株価が下落する可能性があります。
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