M&Aにおけるロックアップ(キーマン条項)とは、旧経営陣が一定期間企業に残ることを義務付ける契約です。ロックアップを通じて事業の安定性を確保し、スムーズな引き継ぎを実現できます。しかし、買い手と売り手の間で条件の調整が難しく、争点となることも少なくありません。本記事では、ロックアップの意義やメリット・デメリット、具体的な注意点などについて詳しく解説します。
この記事の監修者目次
ロックアップとは、M&Aにおいて売り手企業のキーマン、特に代表取締役などの実権者を一定期間企業に留める契約のことです。ロックアップの目的は、後ほど詳しく解説しますが、主に買収後のスムーズな事業継続です。新経営者が企業を引き継ぐ際に、前経営者からの引き継ぎが円滑に行われるようにするために使われます。
また、ロックアップは売り手がより有利な条件を提示する他の買い手に乗り換えるのを防ぐための契約としても機能します。この場合、売り手が契約を破棄すると、買い手に対して損害賠償義務が生じます。
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ロックアップの目的は、M&A後の経営安定とノウハウを継承することです。
M&A直後に経営を安定させるため、ロックアップにより主要人物が退職しないようにします。M&A発表後、社員の約42%が転職を考えると言われてますが、キーマンを会社に残すことで社員の離職を防ぐことができるでしょう。
また、M&A後の経営統合(PMI)プロセスにおいて、売り手企業の経営状況や業務内容を正確に引き継ぐこともロックアップの目的の一つです。ロックアップにより、買い手企業は売り手企業のキーマンから必要な知識や情報を正確に引き継ぐことができます。
ロックアップ期間は、M&Aを成功させるための重要な引き継ぎ期間です。経営者が突然交代することで事業運営に支障が出るのを防ぎ、新しい体制を安定させるための時間を確保するために必要なものであるため、期間を定める際には慎重に検討を進めるようにしましょう。
実際に、ロックアップの期間を検討していくにあたり、買い手側と売り手側にとって重視されるポイントを以下の通りまとめましたので、それぞれ解説していきます。
買い手企業にとっては、ロックアップ期間が短すぎると十分な引き継ぎができず、事業運営に支障をきたす可能性があります。一方で、期間が長すぎると前経営者のモチベーションが低下したり、それ以前に交渉の合意ができない可能性があります。
実際には、事業規模や引継ぎ作業の煩雑さを加味したうえで、具体的なロックアップの期間を検討していく必要があります。なお、目安としては1年から3年程度とされておりますが、実際は1年程度が一般的と考えられます。
売り手企業にとっては、ロックアップ期間はできる限り短く設定するのが理想的です。特に、新しい事業に取り組みたいと考えている場合、長期間のロックアップは次のステップへの足かせになります。また、M&A交渉時に引き継ぎの意欲があっても、時間が経つにつれてモチベーションが低下し、早く離れたいと感じることもあります。
そのため、売り手としては、ロックアップ期間をできるだけ短く、例えば3年以内に限定するのが望ましいです。必要に応じてロックアップを設定しないことも検討すべきです。
続いて、ロックアップによるメリットを解説していきます。買い手側と売り手側、それぞれの視点に立って、メリットを解説していきます。
買い手側にとって、ロックアップの主なメリットはキーマンを一定期間確保することで、事業の円滑な引き継ぎができる点です。キーマンを確保することで、事業運営がスムーズに移行し、運営に支障をきたすリスクが大幅に軽減されます。ロックアップがない場合、重要な知識やノウハウの引き継ぎが不完全になる可能性があり、結果的に事業が混乱するリスクが高まります。
また、M&A後の企業内での雰囲気が悪化することや、優秀な社員の流出を防ぐためにも、売り手企業のキーマンの存在は重要です。キーマンが社内に残ることで、社内の課題に迅速に対処でき、再編後の事業に関する疑問や不明点も解消しやすくなります。ロックアップの実施により、買い手企業は安定した事業運営を速やかにスタートすることが可能です。
売り手企業にとってロックアップのメリットは、アーンアウト条項などを併用することで、当初の予想以上の業績を上げた際に追加の報酬を得られる可能性がある点です。そのため、ロックアップを設定する際には、買い手企業と交渉し、業績向上に応じた追加報酬の条件を明確に定めることが重要になります。
また、キーマンが売却後も経営をサポートすることで、M&A直後の経営不振を防ぎ、企業価値を高めることができます。このため、ロックアップを実施することで、売却価格が相場よりも高くなることも考えられます。特に、ロックアップ期間が長いほど、さらに高い売却額が期待できることもあります。
メリットだけでなく、ロックアップによるデメリットも併せて解説していきますので、それぞれの視点におけるデメリットを確認しておくようにしましょう。
買い手側のデメリットとしては、売却後に売り手側のモチベーションが低下する可能性があります。売り手企業が売却益を得てしまうと、引き続き事業に積極的に関与する意欲が薄れることがあります。
さらに、ロックアップ対象のキーマンが実際には期待通りの役割を果たせないことも考えられます。そのため、ロックアップ期間中にキーマンのモチベーションを維持し、実際のパフォーマンスを確認する工夫が重要です。
売り手側にとってのデメリットは、契約期間中に新しい事業を開始できない点です。拘束期間が長いほど、新規プロジェクトへの参入が遅れ、市場での競争が激化し、シェアを獲得するチャンスを逃す可能性があります。
また、交渉時に考えていた役割以上の負担がかかることがあり、思うような成果が出せない場合もあります。そのため、ロックアップ期間を短くすることを重視する売り手も少なくありません。
実際にロックアップを設定する際には、いくつか注意すべき点があります。それぞれ買い手側と売り手側の視点に立った注意点を解説していきますので、どちらも確認しておきましょう。
買い手がロックアップを設定する際の注意事項として、売り手のモチベーションを維持しつつ、適切な引き継ぎ期間を設けることが重要です。買い手からすればできるだけ長い期間が良いですが、売り手にとって長すぎる期間はモチベーション低下につながる可能性があります。そのため、引き継ぎが円滑に進む最適な期間を見極めることが必要です。
また、アーンアウト条項を併用することで、売り手のモチベーションを維持しつつ、業績に応じた追加報酬を設定することも有効です。アーンアウト条項を活用することで、双方にとってメリットのあるロックアップ契約を実現できます。
ロックアップの有無や期間は売却金額に影響します。ロックアップがある方が売却金額は高くなり、期間が長いほどその傾向は強まります。しかし、長期間のロックアップは売却後の自由を制限し、新たなビジネスチャンスを逃しかねません。
次に、ロックアップ期間中の待遇を事前に精査することが重要です。待遇条件、役職、裁量権などを確認し、ロックアップ期間に納得できる条件が整っているかを確認しましょう。
さらに、競業禁止義務や他社への出資を禁止する条項の有無にも注意が必要です。これらの条項があると、競合他社への転職や新たな事業の開始、他社への出資が制限されます。交渉の際には、禁止される業務内容や範囲、期間を慎重に検討し、今後の計画に支障がないよう設定してもらうことが重要です。
ロックアップが、M&A後に売り手のキーマンを一定期間会社に留めておく契約であるのに対し、アーンアウト条項は、売却価格の一部を業績に応じて支払う仕組みです。また、アーンアウトの達成条件に「在籍期間」や「○年後の業績による」といった要素が入る場合、ロックアップが設定されていなくても、アーンアウトの達成条件を満たすためには数年在籍していないといけないため、実質ロックアップと同じ形となるケースもあります。この2つを組み合わせることで、M&A後のスムーズな引き継ぎと企業価値の維持が期待できます。
アーンアウト条項の主な目的は、売り手のモチベーションを維持し、インセンティブを提供することです。モチベーションを保つことで、スムーズな引き継ぎと業績向上が期待でき、結果的に企業価値を下げずにM&A後の経営を安定させることができます。
アーンアウト条項のメリット・デメリットを買い手・売り手側の視点に分けて以下で解説します。
買い手側のメリットは、当初の業績が期待通りでない場合に買収金額を抑えることができる点です。一定期間の業績に基づいて追加対価を支払うため、業績の下振れリスクをヘッジできます。また、アーンアウト条項を設けることで、売り手の引き継ぎに対するモチベーションも維持しやすくなります。
一方で、デメリットはM&A取引で必要となった初期費用分の損失リスクがあるという点です。将来的な見込みが立ちにくい事業を買収する際に、アーンアウト条項が設定されるケースが多く見られます。そのため、当初想定していない事態が生じたことでM&Aが上手くいかなかった場合、既に支払った費用分は損失となってしまうリスクがあります。
売り手側のメリットは、アーンアウト条項を設定することで、当初の業績が良ければ追加の対価を受け取ることができる点です。アーンアウト条項を設けることで、ロックアップ期間中でもモチベーションを維持しやすくなり、業績達成に向けたインセンティブも働きます。
一方で、状況によっては当初想定していた資金が獲得できない結果にもなり得るというデメリットもあります。アーンアウト条項が設定されたことで、M&A取引後すぐに資金を得られるのではなく、一定の期間が経過した後のタイミングで資金を得るため、実際に獲得できる金額が変動するリスクがあります。
ここまでロックアップについて解説してきましたが、あえてロックアップを設けないケースもあります。「契約のロックアップではなく、心のロックアップが大事」という言葉が示すように、契約によるロックアップを設けることで、売り手側のキーマンにおける親会社へのロイヤルティやモチベーションが低下し、逆効果を招くことがあります。そのため事前に双方で十分なコミュニケーションを行ったうえで、あえて契約においてロックアップをつけない場合もあります。
具体的な事例としては、クックパッド株式会社を挙げることができます。クックパッド株式会社は積極的にM&Aを進めていますが、ロックアップを設けないことを明確にしています。これは、ロックアップによって売り手側が拘束されることによる精神的負担への配慮によるものです。
このように、あえてロックアップを設けないケースも存在します。
続いて、ロックアップを設けた場合の事例をご紹介します。
経営者が非常に大きな力を持っており、キーマンとして考えられる場合は、万が一その経営者が退任してしまうと、事業運営全体に大きな影響が生じてしまうため、ロックアップが設定されるケースがあります。ロックアップを活用し、経営者を一定期間会社に留めることで、収益力の維持が図られます。
また、経営者だけでなく営業力の強いキーマンがいた場合にもロックアップするケースがあります。万が一、このキーマンが退任してしまうと、これまで獲得することができていた顧客も離れてしまう可能性があり、将来の収益に悪影響を及ぼすことが懸念されます。そのため、営業力の強いキーマンに対してロックアップをするケースもあります。
加えて、管理部門の責任者が会社全体の状況を把握しており、その人が退任すると経営に支障をきたすパターンが多いため、ロックアップを設定することもあります。
企業だけでなく、士業のM&Aにおいても、ロックアップが設けられるケースは多く見られます。理由として、士業事務所では、特定の弁護士や税理士の顧客と関係があるため、M&A後も旧経営者に一定期間留まってもらうメリットが大きいことから、ロックアップが設けられます。
会社売却や事業承継など、M&Aに関するお悩みは、ぜひM&A Leadへご相談ください。
M&A Leadが選ばれる3つの特徴をご紹介します。
M&A Leadが選ばれる3つの特徴
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本記事では、M&Aにおけるロックアップの概要やメリット・デメリット、具体的な事例等を解説してきました。
ロックアップは、M&A交渉において非常に重要なポイントです。また、M&Aを検討する際には、ロックアップだけでなくアーンアウト条項も上手く活用し、双方にとって最適な条件を見つけることも重要となります。本記事を通して、ロックアップの意義と効果を理解し、適切に設定するようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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