企業が長期的に存続・発展を続けるために重要なものの要素の1つに「ガバナンス」が挙げられます。企業が不正行為や不祥事を起こしてしまうと、投資家や取引先などのステークホルダーからの信頼を失ってしまい、大きな損失を被ってしまいます。
企業が、ガバナンスを強化することによって健全・透明な経営の実現に近づきます。また、経営の健全化は不正行為や不祥事などのリスクを下げることにつながります。
この記事では、ガバナンスという言葉の意味・目的、コンプライアンスとの違いやガバナンスの強化方法を解説します。
この記事の監修者目次
そもそもガバナンスという言葉は、「統治」「管理」「支配」を意味する英単語です。日本の企業でガバナンスの考え方が導入されるに至る背景に、2000年代頃に大企業による不祥事が相次いだことがあります。その結果、透明で公正な経営体制が求められるようになり、それを達成するためのガバナンスに注目が集まるようになったのです。
企業におけるガバナンスを特に「コーポレートガバナンス」といい、企業が健全な運営を行うために必要な管理体制のことをいいます。不正行為を未然に防ぎ、企業が長期的に存続・発展するためには、コーポレートガバナンスを強化することが必要です。
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ビジネスシーンにはガバナンスと意味が類似していて混同しやすい言葉があります。これらの言葉の意味とガバナンスとの違いを確認していきましょう。
コンプライアンスは「法令遵守」と訳されます。狭義では文字通り法律や条例を守ることを意味しますが、加えて社会常識・ルールなどの社会規範や、CSR(企業の社会的責任)などの企業倫理のような概念も含むことが多いです。
コンプライアンスは法令を遵守することそのものを意味し、ガバナンスはコンプライアンスを守るための管理体制を意味します。コンプライアンスという目的を達成するための手段がガバナンスという見方もできるでしょう。
マネジメントは企業運営をするなかで起こりうるさまざまなことを想定して事前に対応策などを用意しておくことを意味します。ビジネスシーンではリスクマネジメントという、リスクを事前に予測し、起こりうる損失を回避する手法を意味する言葉がよく使われます。
ガバナンスは管理体制や仕組みそのものを意味するのに対し、マネジメントはさまざまな問題に対する管理手法を意味するという点で違いがあります。ガバナンスを強化するためにはマネジメントを強化することも重要です。
内部統制とは、健全・透明な企業経営を実現するための、従業員が守る社内のルールや仕組みの事を指します。
ガバナンスと内部統制は健全・透明な企業経営をするための仕組みという点では同じです。しかし、ガバナンスは株主などのステークホルダーの視点を意識したものであるのに対して、内部統制はあくまで企業の内部での仕組みという点で異なります。
ガバメントは「政府」や「政治」を意味する英単語です。
ガバメントにも「統治」という意味合いはありますが、国や行政を指すため、主に企業を対象とするガバナンスとは意味が大きく違います。
ガバナンスという言葉は「ガバナンス効果」や「ガバナンス強化」といった用語にも使われています。このようなガバナンスを理解するうえで知っておきたい用語についても解説します。
・ガバナンス効果
・ガバナンス強化
・ガバナンスプロセス
・ガバナンスモデル
・コーポレートガバナンス・コード
ガバナンスを強化することで得られる効果をガバナンス効果といいます。
ガバナンスを強化することで企業の不正行為や不祥事を未然に回避することができれば、ステークホルダーの利益につながります。ほかにも、企業価値が上昇することで株主や経営者、従業員など企業にかかわる多くの人々に利益になるでしょう。
企業の組織体制や監督システムを向上させることを意味する用語のことをガバナンス強化といいます。
このプロセスには、例えば企業の倫理規範の確立や、外部の専門家による監視体制の設置などが含まれます。特に社外取締役や監査役の役割は、この強化プロセスの中心に位置付けられます。
組織や企業内の監督、管理や意思決定を行うための仕組みをガバナンスプロセスといいます。
ガバナンスプロセスは企業が実際に行う具体的なプロセスであり、ガバナンスの実施において重要な位置づけとなるものです。
ガバナンスプロセスを検討・改善していくことで、よりよいガバナンス体制の強化につながります。
企業がガバナンスを実施する際の具体的なアプローチのことをガバナンスモデルといいます。
企業の目標に応じて策定され、企業の意思決定や管理手法を決めるための戦略となります。企業の業種や個別具体の状況によって、最適なガバナンスモデルは異なるので、専門家に相談するのも選択肢の1つとなるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードとは、コーポレートガバナンスを実現するためのガイドラインで、金融庁と東京証券取引所が公表したものです。
コーポレートガバナンス・コードでは、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための基本原則として下記の5つが示されています。
コーポレートガバナンス・コードの基本原則 |
①株主の権利・平等性の確保 |
②株主以外のステークホルダーとの適切な協働 |
③適切な情報開示と透明性の確保 |
④取締役会などの責務 |
⑤株主との対話 |
健全・透明な企業経営を実現し、不正行為や不祥事が起きるのを防ぐことがコーポレートガバナンスの目的です。
特に、
・情報漏洩の防止
・企業の社会的価値を高めるため
以上の2つのためにコーポレートガバナンスが必要です。以下で詳しく解説します。
コーポレートガバナンスは、情報漏洩の防止において重要な役割を担っています。
情報化社会では、情報の価値が急速に高まり、社内の機密情報が外部に発覚しやすくなっています。そのため、情報漏洩が企業に与える影響はますます大きくなり、顧客や取引先からの信頼を失うだけでなく、法的責任や損害賠償など、深刻な経済的損失にもつながるリスクが存在します。
コーポレートガバナンスの強化により、情報管理のルールを徹底し、監視体制を整えることで、不正アクセスや内部からの漏洩を防ぐことが可能です。
適切なガバナンス体制の構築により、情報セキュリティポリシーや内部監査の制度が整備され、不正アクセスや情報流出のリスクを軽減することが可能です。他にも、定期的な監査や従業員教育を通じて、情報漏洩の可能性を最小限に抑えることで、企業の信頼性を高め、持続可能な成長を支えることができます。
コーポレートガバナンスは、企業の社会的価値を高めるためにも重要です。
特に、企業の活動が社会全体に与える影響が注目される中、ガバナンスの強化は企業の信頼性や持続可能性に直結します。ガバナンスを適切に実施することで、経営の透明性や説明責任が確保され、株主や従業員、取引先など多様な利害関係者からの信頼を得ることが可能です。
また、法令遵守や倫理的な経営を行うことで、社会的に優良企業として認められると、従業員の意欲が高まり生産性が向上し、結果として企業価値が一層向上します。
長期的に競争力を維持しながら、社会的責任を果たす企業として評価されることで、企業の社会的価値も高まります。
企業がコーポレートガバナンスを強化することで得られるメリットは主に以下の5つです。
・企業経営の透明性を確保して不正行為やリスクを防止する
・株主やステークホルダーからの信頼を高め、利益を還元する
・中長期的な企業の価値を向上させる
・経営陣による不正や不祥事を防止する
・利益重視ではない社会的地位を向上させる
この5つについて、以下で詳しく解説します。
コーポレートガバナンスを整備し強化することは、経営の透明性を確保し、企業の不正行為やリスクを防止することにつながります。
内部統制やその他の管理体制を強化することで、社内全体の風通しがよくなり、不正行為やリスクを未然に防ぐことができるでしょう。
監視体制が行き渡った健全で透明な企業経営により株主などのステークホルダーに利益をもたらすことが可能です。
コーポレートガバナンスを強化することは、株主などのステークホルダーからの信頼を獲得することにもつながります。ステークホルダーからの信頼を得ることで、株価の上昇など企業の価値向上にもつながります。
コーポレートガバナンスの強化は、企業が長期的に価値を増大させる上で重要な役割を果たします。健全かつ透明な経営を実現すれば、株主からの評価も上がり、株価の上昇につながります。また、投資家や金融機関から資金調達がしやすくなり、経営の幅を広げることもできるでしょう。
経営陣による不正や不祥事を防止することもコーポレートガバナンスの役割です。権力が集中する経営陣に監視の目が行き届かないと、背任行為など刑事事件につながる不正・腐敗につながってしまう可能性があります。
腐敗した経営陣による不正や不祥事を防止するために、社会取締役や監査役などの第三者視点からの監視体制を構築することが重要です。
企業は自身の利益を追求するだけではなく、社会に対して責任をもって事業をしなければなりません。コーポレートガバナンスを通してCSR(企業の社会的責任)を浸透させることで、社会に対する責任を果たし、企業の地位を向上させることができます。
具体的な例として、コーポレートガバナンス・コードが2021年に改訂され、「サステナビリティをめぐる課題への取り組み」という補充原則が含まれることになりました。企業によるサステナビリティへの取り組みの例としては、環境に与える負荷をなるべく減らすために、製品に再利用可能な原料を用いることなどが挙げられます。
コーポレートガバナンスは健全で透明な企業経営を実現し、企業の価値を向上させるために必要不可欠です。しかし、以下のようなデメリットもあります。
・社外監査により事業のスピードが遅くなる
・仕組み(社内体制)を作るコストがかかる
・株主やステークホルダーに依存する
・社外取締役や社外監査役の人材が不足している
・グループ会社へもガバナンスの整備が必要になる
社外取締役や監査役などの第三者による監査を導入することは、事業の進みを妨げになるおそれがあります。意思決定の際に経営陣だけではなく第三者による監査が入ると、どうしても迅速な意思決定は困難です。
また、監査によって事業に何か問題があるとして止められてしまう場合もあるので注意しましょう。
コーポレートガバナンスを強化する仕組みを作るのにコストがかかってしまうのもデメリットの1つです。専門家に依頼する費用がかかったり、仕組みや体制を運用する際にさらに本業以外の時間などのコストがかかる場合もあります。
また、社外取締役や監査役を雇い入れる場合にも報酬として費用がかかります。
コーポレートガバナンスを強化していく中で株主などのステークホルダーの視点に立つと、利益を還元することが求められます。
そのため、ステークホルダーから目先の利益を求められ、中長期な企業の成長の邪魔になってしまうおそれがあります。
コーポレートガバナンス強化の一環で社外取締役や監査役を設置しようとしても、人材が不足している可能性もあります。
第三者視点から企業を監視する社外取締役や監査役には経験や専門知識を持つ人材が必要不可欠です。そのような人材を見つけるのにもコストがかかります。
企業が子会社を持っているグループ企業の場合、グループ会社もコーポレートガバナンスを整備する必要があります。近年は日本でもM&Aによる企業合併が盛んになっており、グループ内の他会社から不正行為や不祥事が起こる可能性もあります。
こうしたリスクを未然に防ぐためには、1つの会社だけでなくグループ全体でコーポレートガバナンスを統一して整備することが重要です。
コーポレートガバナンスが整備されず、適切な監視・管理体制を構築できていないと、以下のようなリスクが起きるおそれがあります。
・不正や不祥事を防止できず、社会的信用を失う
・世界経済のグローバル化に対応できない
コーポレートガバナンスを整備できていないと、不正行為や不祥事を防止できず、株主などのステークホルダーから信用を失う可能性があります。
コーポレートガバナンスを通じて監査・管理体制を構築できていないと、健全で透明な経営を実現できずに組織が腐敗してしまい、不正が起きるリスクが高まります。
不祥事が起きれば社会的な信用を失う可能性が非常に高いです。社外からの信用を失ってしまうと、消費者からは自社の製品・サービスの使用を敬遠されたり、投資家や金融機関からの資金調達が困難になり経営が立ち行かなくなるおそれもあるでしょう。
ガバナンスが整備されていないことで起こる不祥事には、以下のようなものがあります。
ガバナンスが整備されていない企業では、従業員による不祥事を防止できず、社会的信用を失うリスクが大きくなります。不祥事の例としては、パワハラやセクハラ、情報漏洩などが挙げられます。
管理が行き届いていない環境では、一部の社員によるこうした不正行為が発生し、それが原因で企業に大きな経営的損失をもたらすケースも少なくありません。
特に、ガバナンスが不十分な場合、内部監査やコンプライアンス体制が整備されていないため、不正行為が見逃されやすく、企業の評判に深刻なダメージを与える可能性があります。
経営陣が起こす不祥事には、利益相反行為や粉飾決算に加え、労働基準法違反や経営者による企業資産の不正使用なども含まれます。これらの行為は、企業の透明性や説明責任を損ない、取引先や株主からの信頼を一気に失う要因となります。
また、経営陣による不正が発覚すると、企業の評判に大きな打撃を与え、場合によっては法的責任を問われることにもなり、巨額の損害賠償や罰金が課される可能性があります。
企業の体裁を守るために起きる不祥事には、業績や株価を維持するための虚偽報告やデータ改ざん、情報の隠蔽などがあります。
これらの行為は、一時的に企業の外見上の評価を保つことができても、最終的には不正が発覚し、企業の社会的信用が大きく損なわれます。
例えば、製品に重大な欠陥が発生したにもかかわらず、企業がその情報を社内で隠し通し、外部に報告せずに市場に製品を出荷し続けるケースなどが考えられます。
このような不祥事が明るみに出ると、法的な問題に発展し、企業は罰金や損害賠償を負う可能性が高くなります。
コーポレートガバナンスを軽視することで、世界経済のグローバル化に対応できない可能性があります。健全で透明な経営ができていないと、業務効率が落ちたり、グローバル経済の変化に対して柔軟な対応を取れなくなってしまいます。
また、海外に事業を進出させることを考えている場合は、経済や商習慣だけでなく外国との価値観や文化の違いにも注意しましょう。外国の価値観や文化を調査し、リスペクトする担当者・社内の雰囲気を構築できていないと、事業が上手くいかないおそれがあります。
コーポレートガバナンスを強化する方法として、以下の4つが主な手法として挙げられます。
・積極的に情報開示を行う
・第三者による監査体制を構築する
・内部統制を構築・強化する
・コーポレートガバナンスを社内に浸透させる
企業の情報を積極的に開示することで、企業経営の透明性を確保することができます。情報がオープンになっている企業は、株主にとって信頼できる企業になります。
開示する情報の例としては、スキル・マトリックスなどがあります。
スキル・マトリックスとは、取締役や経営陣が持つスキルや経験、専門性を一覧化し、それを公開することで企業の経営体制の透明性を高める手法です。スキル・マトリックスを公開することで、株主やステークホルダーは、経営陣が企業の戦略や目標に対して適切なスキルを持っているかどうかを確認できます。また、スキルの不足やバランスの偏りがあれば、それを改善するための指針となります。
社外取締役や監査役を設置して、第三者による監視体制を構築することもガバナンス強化の主な手法の1つです。
社内のみの監査システムだと視座が偏ってしまう可能性があります。客観的・中立的な立場の第三者からの監視は企業内部からは見つかりにくい問題点を見つけやすくします。
内部統制の構築や強化はコーポレートガバナンスの強化につながります。企業の組織構造を見直したり、社内のルールを整備することで適切な企業統治を実現します。
コーポレートガバナンスを強化するうえで大事なのは、まず企業内部の統制です。内部統制を強化することがコーポレートガバナンス強化の基礎的な土台になります。
社内全体の従業員にコーポレートガバナンスを浸透させるのもコーポレートガバナンス強化のうえで重要です。
企業の理念や社会に対する責任、業務における意思決定の判断基準などを社内で明文化し、従業員に共有することで社内全体の意識改革を行い、コーポレートガバナンスへの理解を深めます。
実際にコーポレートガバナンスを強化して評価された具体例として、味の素株式会社を紹介します。味の素株式会社は一般社団法人日本取締役協会の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023」にて、「Winner Company」を受賞しました。
味の素は縦割り化した組織構造を打破するために、取締役会や経営会議に外部識者を招へいしています。また、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の法定3委員会を設置し、その各委員長や取締役会議長は全て多様化された独立社外取締役によって運営されています。
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いかがでしたでしょうか。
この記事ではガバナンスの意味や目的、コンプライアンスとの違い、強化方法について解説しました。
不正行為や不祥事を未然に防ぎ、企業が長期的に存続・発展を続けるためには、ガバナンスを強化することが重要です。
コーポレートガバナンスを強化することは、自社だけでなく株主などのステークホルダーにも利益をもたらし、企業としての社会的責任を果たし社会に貢献することにつながります。
ガバナンスについて知りたい方、ガバナンスを強化したほうがいいのか悩んでいる方にとって参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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