M&Aは、企業の成長や事業拡大を図るための重要な手段として注目されています。近年は大企業に限らず中小企業も盛んにM&Aを行っています。
しかし、M&Aを狙った詐欺も存在し、中には詐欺に巻き込まれてしまう企業もあります。
今回の記事では、M&Aに関する詐欺の手口や詐欺にあわないためのポイントを解説していきます。
近年ではM&Aの成立数が増えており、数多くの企業が企業の成長や経営者の引退や売却益を得ることを目的にM&Aを行っています。
しかし、M&Aを悪用した詐欺が発生していることも事実です。こうした詐欺被害を未然に防ぐためにも、まずは下記で解説するM&A詐欺の手口を把握することが重要です。
M&A詐欺の手口として、仲介業者が売り手や買い手を騙す手口が存在します。仲介者が買い手がついたと売り手に嘘を付いて手数料を騙し取ったり、後戻りできない段階まで交渉が進むまで情報を隠蔽し成約報酬を騙し取る手口があります。
仲介者以外にも、売り手や買い手が詐欺を働く手口も存在します。例えば、売り手側が意図的に情報を隠したり、資金を不正利用する手口などです。一方買い手側のケースでは、買収するつもりが最初からないにもかかわらず、交渉の段階で必要な情報やノウハウを抜き取った後に契約を破棄するケースなどがあります。様々な視点での詐欺の手口があるのでM&Aの交渉の際は十分な注意が必要です。
M&Aを悪用した詐欺は、近年増加傾向にあります。海外企業との交渉やM&A仲介サイトの利用が詐欺リスクを高める要因とされています。特に成長が見込まれる海外企業との取引において、企業評価価値や財務状況が虚偽のもので、大きな損失を受けるケースがあります。
また、M&A仲介サイトを通じて行われる取引では、当事者同士だけで取引が進む場合が多く、サイト上の情報を頼りに交渉が行われるため、正確な情報を確認しにくいです。その結果、実際の財務状況が虚偽の場合や取引価格が市場価格と大きく乖離していることが判明し、不利な条件で取引を進めざるを得ないケースが見られます。
現在、M&A取引の透明性を確保し、詐欺行為を防ぐための取り組みが進んでいます。M&A仲介業の自主規制団体である一般社団法人M&A仲介協会が、不当なM&A取引を防止することを目的に、悪質な譲受け事業者に関する情報を共有する仕組みである、「特定事業者リスト」の運用を2024年10月1日から開始します。
また、適切なM&A取引の実行を期することを目的に「特定事業者の情報共有の仕組みに関する規約」が策定され、悪質な事業者が関与する取引を未然に防ぐ取り組みも始まっています。この取り組みにより、M&Aの市場における公正性が向上し、詐欺被害を大幅に減少させることが期待されています。
M&Aの詐欺にあいやすい企業には共通点があります。契約書の適切な作成や第三者の専門家への相談・デューデリジェンスを怠っていることなどが詐欺被害にあいやすい企業の特徴です。
また、仲介会社に依存してしまうと、仲介会社と紹介業者が連携して行う詐欺や、取引成立を急がせることで冷静な判断力を失わせる詐欺のリスクが高まる危険性があります。
M&A詐欺の手口について、売り手側と買い手側の被害に分けて以下で解説します。
M&Aにおいて、売り手が巻き込まれる詐欺の主な手口は下記のようなものです。
・仲介者からの連絡が途中で途絶えてしまう
・買い手に関する情報が十分に提供されない
・取引が成立したにもかかわらず、買い手が対価の支払いを拒否してくる
・取引中に自社の機密情報が盗まれる
こうした手口を避けるためには、専門家のサポートを受けることで、取引のリスクを最小限に抑えることができます。また、仲介者を選定する際には、情報を正確に提供してくれるかどうか、短期間で成約を進めてくれるか、士業の専門家が在籍しているか、秘密保持契約に機密情報の返還条項を盛り込むことがポイントとなります。
M&Aにおいて、買い手が巻き込まれる詐欺の主な手口は下記のようなものです。
・売り手が抱えるリスクや財務上の問題が意図的に隠される
・売り手が真剣に事業の引き継ぎ業務を行わない
・仲介者が売り手の資料開示に不当な高額手数料を要求すること
こうした手口を避けるためには、中立的な立場で仲介を行うアドバイザーを選ぶこと、業務委託契約の内容を細部まで確認すること、成功報酬のみを報酬体系とする仲介業者を選ぶことが、ポイントとなります。
M&A詐欺にあわないためには、
①信頼できる仲介会社・専門家の選定をすること
②取引中の会話の録音を行うこと
③契約書の内容を正確に把握すること
④他の専門家に意見を求めること
以上の4点を抑えるようにしましょう。
M&Aを進める際は信頼できる仲介会社や専門家を選定することが重要です。依頼先の選定を誤ると、自社の機密情報が漏えいするリスクが高まります。
また、特に規模の小さい仲介会社に依頼すると、自社で紹介できる企業が不足しているため、外部業者を通じて交渉相手を探すことになります。この過程で、売却や買収を進めている事実が外部に漏れてしまうリスクがあるため、詐欺を企てる相手から交渉を持ち掛けられる危険性が高まります。
仲介会社や専門家を選定する際には、情報の取り扱い方や交渉先をどのように探すのかを事前に確認し、自社の情報が特定されない仕組みを持つか、他社のネットワークに依存しない方法で交渉先を見つけられる相談先を選ぶことで、詐欺被害のリスクを軽減できるでしょう。
M&A取引において、仲介者や交渉相手に不信感を抱くことがあれば、会話を録音することが重要です。例えば、提示した条件に対して相手が明確な返答を避けたり、仲介実績のデータを求めても資料が提出されない場合、詐欺の可能性が疑われます。
このような不審な点がある場合、警察などに詐欺被害を訴える際に録音データがあれば証拠になるケースもあるので、録音を忘れないようにしましょう。
M&A取引において、秘密保持契約、基本合意書、本契約書をはじめ、売り手との業務委託契約や不動産賃貸借契約など、複数の契約書を交わすことが一般的です。
契約書の内容を正確に確認せずに署名をしてしまうと、詐欺被害を引き起こすリスクが高まるので、契約の内容を事前にしっかりと理解し、各条項を細かく確認することが必要です。
特に、基本合意書から本契約に至るまでの間に実施される買収監査(デューデリジェンス)により、契約内容が変更されることがあります。契約内容の変更を見過してしまうと、思いがけない不利な条件で契約を結んでしまう可能性があります。契約を結ぶ際は、詳細に確認し、疑問点があれば弁護士や専門家に相談するようにしましょう。
M&A取引において、詐欺のリスクを減らすためには、他の専門家に意見を求めることが重要です。
詐欺を企てる相手には、仲介会社、専門家を紹介する人物、そして交渉先などが含まれることがあります。もし相手の言動や行動に不審な点が見られた場合、冷静に状況を判断し、客観的に取引内容を評価してくれる他の専門家に意見を求めることで、リスクを最小限に抑えることができます。
M&A詐欺の手口について、具体的な事例を以下で紹介します。
東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」が関与したM&A詐欺被害が全国的に相次いでいます。被害者の会によると、2021年から2023年にかけて、全国で37社がルシアンによる被害に遭いました。被害を受けた業種は飲食業や建設業、電気工事業など多岐にわたり、複数のM&A仲介業者を通じて買収を持ちかけられていました。
具体的な事例として、自社株式を売却した企業では、ルシアン側の役員が新たに代表取締役に就任し、会社の連帯保証人を引き継ぐはずでしたが、多忙などの理由で引き継ぎませんでした。加えて、役員報酬として月100万円を受け取りながら、従業員から借りた1000万円を返済せず、2カ月分の給与未払いをおこすなど、様々な名目で企業から資金を吸い取り、最終的に音信不通になりました。
支払いを逃れる手口の具体的な事例として、売り手が買い手とM&A契約を締結したものの、買い手は初回の支払いのみを行い、その後の分割での支払いを拒否したケースがあります。買い手は、承継した会社の経営状態が表明保証に違反していると主張し、以降の支払い義務を放棄しました。
仲介会社による引き延ばしが原因で取引条件が悪化するケースもあります。
売り手企業は、M&A仲介会社に成約までの全過程を依頼しましたが、仲介会社は売り手の意向を無視し、買い手との交渉を行いませんでした。何カ月もの間、仲介会社は沈黙を続けている内に売り手企業の価値が下がっており、提示された取引条件は当初の期待を大きく下回るものでした。
結果的に、売り手企業はこの取引を断念せざるを得なくなり、仲介会社に支払った着手金分の損害を受けました。
買収に必要な情報が不足しているにもかかわらず、契約を進めてしまうケースがあります。
M&A仲介会社を通じて売り手企業が紹介されたものの、買収に不可欠な財務情報やリスクについての詳細が得られないまま、成約に至ってしまい予想していた売上には到達しない状況に陥りました。しかし、すでに契約は完了していたため、買い手は対価と仲介手数料の支払いを履行することになりました。
専門家を介さずに進められた取引で詐欺被害に遭うケースです。
買い手は、M&Aの専門家に相談せず、自社だけで売り手企業の買収を行いました。契約には、売り手の経営者が承継後も会社に残り、経営を続けることが盛り込まれていましたが、売り手の経営者は契約に違反して業務に本腰を入れず、経営に十分な責任を果たしませんでした。
買い手側は承継した企業の運営ノウハウを持ち合わせていなかったため、業績は急激に悪化し、短期間で赤字を計上する事態に陥りました。買い手は、売り手の元経営者に会社の買い戻しを提案せざるを得なくなり、結果的にただ同然の価格で買い取られ、買収金額のみ支払う形となってしまいました。
M&A取引後に、売り手経営者による会社資金の不正使用が発覚するケースがあります。
買い手が売り手企業をM&Aで買収した後、売り手の経営者が無断で会社のクレジットカードを使用し続けていたことが判明しました。売り手経営者はM&A契約後にもかかわらず、莫大な額の使い込みを行い、その支出は買収後の企業に大きな損害を与えました。
M&A取引において、仲介業者による情報隠しが原因で買収後に倒産するケースも存在します。
買い手は、仲介会社を通じて売り手とのM&A契約を締結しましたが、実は仲介会社はM&Aを成立させ成約報酬を得るために売り手企業が資金難に陥っていることを隠していました。そのため、買い手が承継した会社は、M&A成立後すぐに倒産してしまいました。
売り手が重要な情報を隠蔽するケースは以下の通りです。
取引後に承継した会社が法律に違反して事業を続けていたことが発覚しました。売り手の経営者は、契約時にこの違法行為について一切説明しておらず、買い手は想定していなかったリスクに直面することとなりました。
買い手は売り手に対して損害賠償を求める裁判を起こすことになり、多大な労力とコストを負担することを余儀なくされています。M&A取引において、こうしたトラブルを避けるためには、デューデリジェンスに十分な時間とリソースを割き、売り手が抱えるリスクを徹底的に洗い出すことが重要です。
監査を悪用した機密情報の漏洩が発生するケースもあります。
売り手側は、海外企業との交渉を行い、M&Aの最終契約まで進みましたが、買い手は最終契約の段階で態度を急変させ、契約は締結されませんでした。
買い手が契約を拒否した理由は、デューデリジェンスの過程で、売り手の機密情報を徹底的に調査し、必要な情報を得ることができたからです。買い手側の目的は日本企業が持つ高度な技術やノウハウを不正に持ち出すためで、初めから契約を締結する意図はなく、売り手側は企業の存続に関わる重要な機密情報が外部に漏洩してしまうこととなりました。
M&A詐欺では、他店舗の名前を利用したケースも存在します。
この事例では、詐欺師が実際に営業している飲食店を買収するとして、資金提供を求めました。貸し手は詐欺師が提示した買収対象が実際の店舗であったため、信じてしまい数千万を騙し取られてしまいます。
このように、M&Aに直接関わっていない人でも詐欺の被害に遭うリスクはあります。M&A関連の資金提供を求められる場合は、慎重な判断が必要です。
実在しない企業を利用したケースは以下の通りです。
コンサルタントが、存在しない会社をあたかも実在する企業のように装い、投資家に対して嘘の情報を流し、株式購入を勧めました。結果として、多くの投資家が詐欺の被害に遭い、多額の資金を騙し取られる事態となりました。
今回の記事ではM&Aにおける詐欺被害について、概要や典型的な手口、さらに巻き込まれないための対策を紹介しました。M&A詐欺には、交渉相手だけでなく、仲介会社やコンサルタント会社が関わるケースも多くあるため、M&Aに関与する相手を慎重に選定することが重要です。
詐欺を防ぐためには、信頼できる専門家や第三者の意見を仰ぎ、契約内容や相手の背景をしっかりと調査することが不可欠です。デューデリジェンスを怠らず、リスクを最小限に抑えるための準備がM&A成功の鍵となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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