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公開日:2025年6月3日
更新日:2025年6月3日

美容室のM&Aとは?M&A動向やメリット・成功ポイント・事例を徹底解説!

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美容室業界は店舗数の増加が続く一方で、市場規模は横ばい、離職率や後継者不在といった課題も深刻化しています。こうした状況下で注目されているのがM&Aです。
本記事では、美容室業界の現状からM&Aの活用方法、成功事例までを網羅的に解説しています。今後の戦略を考える経営者や事業承継に悩むオーナーにとって、参考となるポイントを記載していますので、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。

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目次

美容室業界の現状について

美容室業界は、近年も店舗数の増加傾向が続いており、競争が非常に激しい市場といえます。厚生労働省が発表した「令和5年度衛生行政報告例」によると、美容所の数は2023年時点で27万4,070施設となり、前年から1.5%の増加を記録しました。こうした増加傾向は過去10年間一貫しており、2013年の23万4,089施設から、約4万軒も増えています。美容室は私たちの身近なサービスですが、コンビニエンスストアの店舗数(約5.5万店)を大きく上回る規模となっており、地域内での競合が避けられない状況です。

美容師の数も右肩上がりに推移

店舗数の増加に比例するように、美容師の数も増加しています。令和2年の時点で全国における美容師数は54万9,935人となり、令和3年度末には56万1,475人に達しました。これにより、個人の美容室オーナーがスタッフを確保しにくくなっているほか、採用競争の激化や人件費の高騰も業界の課題となっています。とくに少人数運営の美容室にとっては、技術者の確保が経営を左右する重要な要素です。

市場規模は横ばい、実質的な過当競争に突入

一方で、店舗数や美容師の数が増えているにもかかわらず、市場規模はほぼ横ばいが続いています。矢野経済研究所の調査によれば、2024年の理美容市場は約1兆4,984億円と予測されており、2015年の1兆5,220億円と比較すると減少傾向にあることがわかります。とくに2020年には新型コロナウイルスの影響を受けて市場が1兆3,810億円にまで縮小しました。その後は回復基調にあるものの、人口減少や来店頻度の低下といった要因により、今後の成長は鈍化する可能性が高いと予想されます。

経営主体の約9割が個人事業、少人数体制が主流

厚生労働省の「美容業の実態と経営改善の方策」によると、美容室の88.7%が個人経営であり、法人経営は全体のわずか10.6%にとどまります。さらに、従業員数は「1人」が最も多く32.4%、「2人」が28.2%と続き、5人未満の美容室が全体の8割を超えています。このように、美容室業界は小規模な事業者が大半を占めており、大手チェーンとの価格競争や集客の面で厳しい立場に置かれている店舗も少なくありません。

業界内では二極化が進行、差別化が急務

近年では、低価格サロンチェーンの台頭により、高付加価値型サロンと低価格型サロンとの二極化が顕著になっています。とくに中価格帯の美容室は、サービス面や価格面で明確な優位性を打ち出すことが難しく、差別化に苦しんでいるのが現状です。顧客の来店サイクルが長期化する傾向もあり、経営効率の向上や新たな収益モデルの構築が求められています。

海外展開も進む中、国内市場には限界が見える

市場の縮小が懸念される中で、海外市場に目を向ける美容室も増えています。たとえば、キュービーネットホールディングスは理容チェーン「QBハウス」を米国やアジアを含む約130店舗に展開しており、2025年にはベトナムにも進出しました。また、宇都宮市の総美もベトナムに店舗を構え、日本人美容師の技術育成にも取り組んでいます。日本の高品質なサービスや丁寧な技術は海外でも高く評価されており、今後は国外での売上拡大が業界活性化の鍵となる可能性があります。

美容室業界が抱える課題

美容室業界は、店舗数や美容師数が年々増加している一方で、市場全体の成長は鈍化しており、複数の深刻な課題を抱えています。ここでは、具体的な2つの課題を詳細に解説していきます。

美容室業界が抱える課題は、離職率の高さと人材確保の困難さ、後継者不在が深刻化する個人経営の構造問題が挙げられます。

離職率の高さと人材確保の困難さ

美容室業界の深刻な課題は、慢性的な人材不足です。美容師の人数そのものは年々増加していますが、実際に業界にとどまる人は限られており、離職率の高さが問題視されています。ホットペッパービューティーアカデミーが行った「美容サロンの就業実態調査」によると、2023年度の離職率は46.5%と極めて高い水準となっており、業界の労働環境の厳しさが浮き彫りになっています。

美容師は長時間の立ち仕事を強いられるうえに、平均年収も250万円〜270万円程度と決して高くはありません。こうした待遇の悪さにより、美容師免許を取得しても異業種へ転職するケースが増えています。また、近年はフリーランスとして独立する美容師も増えており、従来型の雇用モデルを維持する美容室にとっては、優秀な人材の確保が一層困難になっている状況です。

後継者不在が深刻化する個人経営の構造問題

美容室の経営形態としては、約9割が個人経営であるという特徴があり、家族経営や小規模経営が主流となっています。しかし、こうした個人経営の美容室では後継者不在が深刻な課題として顕在化しています。厚生労働省の調査によると、美容室経営者のうち、50歳以上の割合が7割を超えており、高齢化が進むなかで、今後の事業継続が不透明になりつつあります。

美容室を承継するためには、美容師免許や管理美容師免許といった資格が必要なため、他業界に比べて親族内承継のハードルが高くなっているのも特徴です。身内に有資格者がいない場合には、事業をたたむか、第三者への事業承継を検討せざるを得ないケースが増加しています。特に地方においては、地域密着型の店舗であるにもかかわらず、後継者不在により閉業を選ぶ事業者が後を絶ちません。

美容室業界のM&A動向

美容室業界では、構造的な課題が深刻化しており、M&Aを活用する動きが活発になっています。特に事業承継や経営再編を目的としたM&Aが増加しており、業界再編の一手として機能しています。店舗の規模や経営形態によりM&Aの形態は異なり、大手グループでは投資ファンドとの取引が、小規模店舗では居抜きや運営委託といった柔軟な手法が主流となっています。

ファンドによる大型M&Aが進む中規模以上の店舗

中規模から大規模な美容室チェーンでは、投資ファンドによる買収事例が増加しています。代表的な例としては、2018年にCLSAキャピタルパートナーズが約100億円でAguグループを買収した案件が挙げられます。Aguグループは「Agu Hair Salon」のブランド名でフランチャイズ展開を行っており、若年層女性を主要ターゲットとする急成長中の美容室チェーンでした。主に賃料の安い雑居ビルの2階・3階に出店する戦略を取り、コストを抑えながら全国展開を進めていました。

買収後、CLSAはAguグループに複数の取締役を派遣し、組織のガバナンス強化や業務効率化に取り組んでいます。このようなファンド主導のM&Aは、資金力を背景に急成長を支援する意図が強く、上場を視野に入れたスケールアップが図られる傾向にあります。

また同年には、レイフィールドという中部地方を中心に55店舗を展開するグループが、日本産業推進機構に買収された事例もあります。こうしたM&Aは、経営資源の再編や人材確保、運営体制の強化といった目的で行われており、業界全体の再構築につながっています。

小規模店舗では居抜きや運営委託が主流

個人経営や小規模な美容室においては、ファンドによる大規模買収よりも、居抜き売却や運営委託といった形態が一般的です。居抜き売却とは、内装や設備をそのまま残した状態で店舗の使用権を譲渡する方法で、買い手にとっては初期投資を抑えながら開業できるメリットがあります。一方で、M&Aによる譲渡は、経営権や従業員、営業権など事業全体を引き継ぐ点に大きな違いがあります。

また、近年増えているのが「運営委託」の手法です。運営委託は、店舗の所有者が経営権を第三者に委託する形で、収益からロイヤリティを受け取る契約です。運営委託は、経営に行き詰まった店舗や独立志向の高い美容師を抱える事業者にとって有効な選択肢となっています。事業者側は経営リスクを抑えつつ、一定の収益を得られる点が利点です。

スケルトン物件としての売却も選択肢に

自己所有の土地や建物を保有する美容室では、スケルトン化して不動産として売却するケースも見られます。スケルトンとは、内装をすべて撤去し、建物の構造部分だけを残した状態を指します。スケルトン化して売却することにより、業種を問わず幅広い買い手層にアプローチできるため、立地条件がよければ高値での売却が期待されます。

特に都市部や駅近の物件であれば、飲食やサービス業など異業種からの引き合いも強く、柔軟な不動産戦略として注目されています。

美容室業界のM&Aのメリット

美容室業界においてM&Aを実施することで、売却側・買収側の双方が大きなメリットを享受できます。経営課題の解決手段としても有効であり、事業の成長や新たな展開を可能にする選択肢として注目されています。ここでは、売却側と買収側、それぞれの視点からM&Aの具体的な利点を解説します。

売却側(譲渡側)のメリットとしては、後継者問題の解消、スタッフの雇用継続が可能、大手グループ傘下による成長支援、借入金や個人保証の解消、売却益の獲得と次のステージへの移行、をあげることができます。
一方で、買収側(譲受側)のメリットとしては、即戦力となる人材の確保、設備・ノウハウの獲得による投資負担の軽減、顧客基盤の活用とリピート客の引継ぎ、経営の多角化・新規参入の迅速化、ブランド強化と店舗拡大による広告効果をあげることができます。

売却側(譲渡側)のメリット

まずは、売却側(譲渡側)のメリットを解説していきます。

後継者問題の解消

美容室の多くは個人経営であり、経営者の高齢化に伴って後継者の不在が深刻な課題となっています。美容業界では、美容師免許や管理美容師免許が必要であるため、親族内承継が難しい傾向にあります。M&Aを活用すれば、外部の有資格者に経営を引き継ぐことが可能となり、事業の存続と円滑な承継が実現できます。

スタッフの雇用継続が可能

廃業を選んだ場合、従業員は職を失ってしまいます。しかし、M&Aであれば事業ごと譲渡されるため、スタッフの雇用関係を維持できる可能性が高まります。これまで事業を支えてきた従業員への責任を果たすとともに、店舗のスムーズな引き継ぎにも貢献します。

大手グループ傘下による成長支援

経営に行き詰まりを感じている経営者にとっては、有力な美容室チェーンやファンドの傘下に入ることで、ブランド力や経営基盤を活かした再成長が期待できます。特に、マーケティング支援や人材育成の体制が整った企業との提携は、新たな集客や売上向上のきっかけとなります。

借入金や個人保証の解消

中小の美容室では、オーナー自身が事業資金の借入に対し個人保証を行っているケースが多く見受けられます。M&Aでの譲渡が成立すれば、借入や保証の引き継ぎが可能となり、経営者の精神的・金銭的負担を大きく軽減できます。

売却益の獲得と次のステージへの移行

M&Aは単なる撤退手段ではなく、「創業者利潤」の獲得という大きな意味を持ちます。売却によって得たまとまった資金は、第二の人生や新たなビジネスへの投資資金として活用でき、経営者自身の人生設計に柔軟性を与えます。

買収側(譲受側)のメリット

続いて、買収側(譲受側)のメリットを解説していきます。

即戦力となる人材の確保

美容室の収益は美容師の技術力や指名顧客の有無によって左右されます。M&Aを通じて人気スタイリストを引き継ぐことができれば、売上の安定と成長が見込めます。特に、顧客との関係性が強い美容師の存在は、店舗にとって最大の資産のひとつです。

設備・ノウハウの獲得による投資負担の軽減

新店舗の立ち上げには、設備投資・集客施策・人材採用など多大な労力とコストが必要です。M&Aであれば、既存の店舗設備・ブランド・業務ノウハウをそのまま引き継ぐことができ、短期間で事業をスタートできます。特に美容室は内装・設備にこだわりがあるため、その価値は大きいといえます。

顧客基盤の活用とリピート客の引継ぎ

美容室はリピーター比率の高い業種であるため、既存顧客の引継ぎは売上の安定に直結します。新規出店と比較して、初期集客コストを大幅に抑えられるのは大きな魅力です。とくに地域密着型店舗では、地元に根ざした顧客基盤をそのまま活かせる点が強みとなります。

経営の多角化・新規参入の迅速化

異業種から美容業界への新規参入を目指す企業にとって、ゼロからの立ち上げはハードルが高く、時間とリスクを伴います。M&Aであれば、すでに稼働実績のある店舗と人材を引き継いだうえで、スピーディーな事業展開が可能となり、経営の多角化戦略を加速させることができます。

ブランド強化と店舗拡大による広告効果

チェーン展開を進めている企業にとっては、M&Aによって店舗数を増やすことで、ブランドの認知度向上や広告効果の向上が期待できます。実店舗自体が広告メディアとして機能するため、戦略的なエリア展開や市場支配力の向上にも寄与します。

美容室業界のM&Aの方法

美容室業界におけるM&Aの手法として、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つが採用されています。いずれの手法も譲渡対象や契約形態が異なるため、店舗の規模や目的に応じて適切な選択が求められます。ここでは、それぞれの特徴や活用される場面について詳しく解説します。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、譲渡企業の株主が所有する株式を譲受企業に売却することで、経営権や支配権を移転するM&Aの方法です。株式譲渡では、会社そのものは存続し、法人格や契約関係、人材、資産などのすべてが包括的に引き継がれる点が特徴です。譲渡後、買い手企業は譲受けた美容室を子会社化し、役員の派遣や経営戦略の共有によってグループとしての統合を進めていきます。

美容室・美容院のM&Aにおいて株式譲渡が選ばれる場面は、法人格を維持したまま包括的な事業引継ぎを希望する場合や、従業員・顧客・取引先との関係を継続したい場合が多いです。また、株式譲渡ではスタッフの技術力やブランド価値、将来の収益性といった無形資産も評価対象となるため、譲渡価格が高く設定されやすいという利点があります。そのため、中規模以上の美容室にとっては有利な手法といえるでしょう。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の一部またはすべての事業を第三者に売却するM&A手法です。ここでの「事業」には、店舗の設備や什器、ノウハウ、従業員、取引先との関係といった事業運営に必要な要素が含まれます。株式譲渡と異なり、法人格そのものは移転せず、譲渡対象を契約で明確に定義して取引を行う点が特徴です。

美容室業界では、個人経営や小規模店舗のM&Aで特に多く活用されています。事業譲渡は柔軟な資産の選別が可能なため、たとえば1店舗だけを売却して資金を得たい場合や、不要な債務を切り離したい場合に適しています。また、M&Aによる譲渡資金を活用して新規事業の立ち上げや既存店舗の改善に取り組む経営者も少なくありません。

一方で、事業譲渡の場合は雇用契約や取引契約が自動的に引き継がれないため、スタッフや取引先との再契約が必要となります。引継ぎにおける手間や関係維持の調整が求められるため、譲渡前に十分な準備と調整が不可欠です。

美容室業界のM&Aの相場

美容室業界におけるM&Aは、事業承継や経営再建、事業拡大の手段として注目を集めています。実際にM&Aを検討する際、多くの関係者が最も気にするのが「譲渡価格の相場」です。しかし、M&Aの価格は一律ではなく、さまざまな要因によって変動します。以下では、美容室M&Aの一般的な相場観について詳しく解説します。

美容室M&Aの価格帯の目安

結論からいえば、美容室のM&Aにおける譲渡価格は、1店舗あたり数百万円から1,000万円前後が中心帯とされていますが、単一店舗や小規模経営の美容室のケースでもっとも多く見られます。M&A成約事例を多数扱う仲介業者や専門家の報告に基づく現場感に近いデータでもあります。

ただし、複数店舗を運営しているような中堅以上の美容室グループでは、M&Aの規模が一気に大きくなり、億単位の取引となるケースもあります。売上や利益、立地条件、人材構成、ブランド力などが評価されれば、高額での売却が実現する可能性もあるのです。

美容室M&Aと居抜き売却との比較

M&Aとよく比較されるのが「居抜き売却」です。居抜きの場合は、美容室の内装・設備・什器など物理的な資産だけが譲渡対象となり、価格帯も数百万円以下に収まるケースが一般的です。一方、M&Aではブランド、従業員、顧客基盤、営業権など無形資産を含めて引き継ぐため、譲渡価格は相対的に高額になる傾向があります。

つまり、美容室M&Aは、店舗という“箱”だけでなく、運営ノウハウや人材、長年の信頼といった「目に見えない価値」も売買の対象になるという点が、価格に差を生む大きなポイントです。

美容室業界のM&Aを成功させるために押さえておくべきポイント

美容室業界におけるM&Aは、事業承継や経営の再構築、人材確保などに有効な手段とされています。しかし、成功させるためには譲渡側・譲受側の双方が押さえておくべきポイントが複数存在します。以下では、それぞれの立場からM&A成功の鍵となる要素を詳しく解説します。

譲渡企業側が押さえるべきポイントは、自社の強みを明確にすること、譲渡のタイミングを見極めること、売却相場の把握と柔軟な価格設定、売却相場の把握と柔軟な価格設定です。
また、譲受企業側が押さえるべきポイントは、従業員・顧客の流出を防ぐこと、簿外債務を徹底的に確認すること、シナジー効果を見極めることです。

譲渡企業側が押さえるべきポイント

まず、譲渡側がM&Aを成功させるためのポイントを解説していきます。

自社の強みを明確にする

競争の激しい美容業界では、譲渡に際して他店舗との差別化が価格交渉を左右します。たとえば、「好立地」「高度な技術を持つ美容師の在籍」「ユニークなサービスメニュー」などは、高く評価される要素です。こうした強みは主観的な説明だけでなく、売上実績やリピート率、顧客層などのデータによって裏付けを行うことで、譲受側との交渉が円滑に進みます。

譲渡のタイミングを見極める

市場環境や業界の動向に目を配ることも、M&Aの成否に直結します。景気が安定しており、美容市場が拡大しているタイミングであれば、譲渡価格の上振れも期待できます。特に美容業界は感染症や景気後退といった外部要因の影響を受けやすいため、譲渡準備を早めに開始し、環境の良い時期を逃さないよう計画的に動くことが大切です。

売却相場の把握と柔軟な価格設定

美容室のM&A価格は、標準的には1店舗あたり1,000万円前後とされます。もちろん、店舗の実情に応じて増減はありますが、自社の希望価格が市場価格とかけ離れていないかを冷静に見極めることが必要です。そのうえで、希望額と妥協点の範囲をあらかじめ設定しておくと、交渉もスムーズに進みます。

専門家のサポートを受ける

M&Aは複雑な手続きと交渉を伴うため、専門知識を持つアドバイザーの支援は不可欠です。自社の強みや課題を客観的に分析し、適正な評価額を算出してくれる専門家と連携することで、成功の確率が大きく高まります。特に初めてのM&Aでは、事前相談の段階から専門家に依頼することをおすすめします。

譲受企業側が押さえるべきポイント

続いて、譲受企業側が押さえるべきポイントを解説していきます。

従業員・顧客の流出を防ぐ

美容室においては、美容師個人の技術や接客スキルが顧客のロイヤルティに直結するため、スタッフの退職は顧客離れにもつながります。M&A後に主要なスタイリストが離職すれば、店舗の価値は大きく損なわれます。そのため、事前に雇用条件の見直しや現場との丁寧なコミュニケーションを図り、不安を取り除く姿勢が求められます。

簿外債務を徹底的に確認する

譲渡対象企業に潜む簿外債務や偶発債務の存在は、買収後の経営に深刻なダメージを与える可能性があります。たとえば、未払いの残業代や訴訟リスク、将来の損害賠償責任などは帳簿に現れないことが多く、注意が必要です。買収前のデューデリジェンスでは、財務資料だけでなく、人事や契約関係も精査し、リスクの洗い出しと対策を万全にしておくことが不可欠です。

シナジー効果を見極める

M&Aの最大の目的は、既存事業との相乗効果です。たとえば、既存ブランドと買収先のブランドが補完関係にある、営業地域が拡大する、得意分野の違いを活かせるといったシナジーが見込める場合、買収の意義は大きくなります。ただし、統合コストやブランドイメージの差異による混乱にも注意が必要です。

美容室業界のM&Aの事例

最後に、代表的なM&A事例を取り上げ、その背景や成果を詳しく解説します。

CLSAキャピタルパートナーズによるAguグループの買収

2018年、香港系投資ファンド「CLSAキャピタルパートナーズ」が、全国展開する美容室チェーン「Aguグループ」の運営会社である株式会社ロイネスとB-first株式会社の株式を取得しました。買収総額は約100億円と推定され、美容室業界における大型M&Aの代表例となっています。買収の目的は、CLSAグループが持つフランチャイズ運営ノウハウや経営資源を活用し、Aguグループのさらなる店舗展開を加速させることにありました。この事例は、美容室ブランドの成長を資金力と経営支援によって強化する好例といえるでしょう。

ヤマノホールディングスによるL.B.Gの子会社化

2019年、ヤマノホールディングスは、美容室「La Bonheur」を展開する株式会社L.B.Gの株式を取得し、子会社化しました。L.B.GはWebマーケティングや自社アプリを活用した集客戦略に加え、正社員雇用モデルを重視する安定運営が特長の企業です。ヤマノHDは上記の特長を評価し、グループの美容事業強化と相乗効果を狙って買収を決断しました。既存の事業モデルに新たな価値観を融合させることで、企業全体としての成長を実現しようとする取り組みです。

ジャフコグループとAZ-Starによるヘッドライトの買収

2021年には、日本最大手のベンチャーキャピタル「ジャフコグループ」と、投資ファンド「AZ-Star」が、美容室・アイラッシュサロンを全国展開するヘッドライトの株式を100%取得し、子会社化しました。ヘッドライトは業務委託型の運営モデルにより、美容師の働き方改革と多様な雇用形態の実現を進めていました。両ファンドは、柔軟性のある経営モデルに将来性を見出し、M&Aを通じてアジア展開も含めた成長戦略を支援しています。

剣豪集団と潤首有限公司によるエム・エイチ・グループの株式取得

2015年、日中合弁の投資組合「剣豪1号投資事業有限責任組合」が、フランス発の高級美容室「モッズ・ヘア」を展開するエム・エイチ・グループの株式50.81%を公開買付け(TOB)により取得しました。買収額は約19億円に達し、中国での高品質な美容サービス事業の立ち上げを目的とした戦略的M&Aでした。日本の美容技術や教育システムを導入することで、中国国内での競争力を高める狙いがありました。

都内高級美容室チェーンの事業承継M&A

リタイアを希望する経営者が、都内の高級住宅街で展開していた美容室2店舗を、複数事業を手がける上場企業にM&Aで譲渡した事例もあります。買収側企業は、美容室・エステ・飲食などのサービス業を幅広く展開しており、当該美容室の高いブランド力や立地を評価して買収を希望し、譲渡側は従業員の雇用継続も重視しており、3ヶ月という短期間でのスピード成約が実現しました。こうした事例は、事業承継型M&Aの成功例として注目されています。

まとめ

美容室業界は競争の激化や人材不足、後継者不在といった複合的な課題に直面しています。本記事では、そうした課題の打開策として注目されるM&Aについて、動向・手法・相場・成功のポイントなどについて解説してきました。
事業承継を検討中の美容室オーナーや、業界への参入を狙う事業者、M&Aを活用して成長を加速させたい経営者の方に参考となれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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