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公開日:2025年1月10日
更新日:2025年1月10日

事業譲渡による従業員への影響とは?待遇や退職金、注意すべき点を解説

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M&Aの一つの手法である事業譲渡では、企業間での事業売買に伴い、従業員の立場や処遇に大きな変化が生じます。従業員にとって最も気がかりなのは、給与体系の変更や退職金の扱いといった待遇面への影響でしょう。

これまで築き上げてきた職場環境や人間関係が一変する可能性もあり、多くの従業員が不安を感じるため、経営者は従業員の将来に深く配慮しながら、円滑な事業譲渡を進める必要があります。

従業員の理解と協力なしには、事業譲渡の成功は望めません。本記事では、事業譲渡が従業員に及ぼす具体的な影響から、待遇面での変更点、さらには転籍時における重要な注意事項まで、実例を交えながら詳しく解説していきます。

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目次

事業譲渡と従業員の関連について

まずは、事業譲渡において従業員がどのように関連するか、解説します。

事業譲渡の基本と特徴

事業譲渡とはM&Aの一種です。譲渡においては、譲受企業の必要な事業のみを選択でき、設備や特許など譲渡対象を細かく設定可能です。

事業譲渡はM&Aの一種に位置づけられます。譲受企業の必要な事業部分のみを選択できることが、事業譲渡のポイントです。企業の一部門や機能を売却する際には、設備や特許権など、譲渡対象を細かく設定できます。事業を買収する側にとっては、自社にとって有益な資産や権利だけを選び、取得できることがメリットです。

事業譲渡においては、譲渡される事業に関わる従業員の処遇も重要な検討事項です。譲受企業は、人材の引き継ぎについても選択の自由があり、全従業員を受け入れることも、一部の従業員のみを採用することもできます。また、譲渡企業は従業員を別部署へ異動させることも可能です。

ただし、従業員の雇用については、合理的な理由なく解雇することはできません。従業員の扱いについては、譲渡企業と譲受企業での慎重な協議が求められます。

また、譲受企業が事業を円滑に運営していくためには、従業員への丁寧な対応が不可欠です。どの企業にも独自の企業文化や給与体系が存在するため、一方的な制度変更は避けるべきです。

従業員とのコミュニケーションを重視し、適切な情報共有を行うことで、新しい体制へスムーズに移行できます。事業価値の維持のためには、従業員の理解と協力を得ることが非常に重要です。

事業譲渡の従業員へのメリット

事業譲渡における従業員へのメリットとしては「新たな雇用機会が得られる」、「組織変革の恩恵を受けられる」、「キャリアパスが多様化する」の3つがあります。

事業譲渡した際に、従業員が得られるメリットを解説します。

新たな雇用機会が得られる

異業種企業への事業譲渡の場合、従業員にとって新たなキャリアに繋がる可能性があります。今までとは異なる業界で働くことで、職務経験の幅を広げられます。高いスキルを持つ従業員や、変化を前向きに捉えて新しい環境でも挑戦し続けられる従業員には昇格のチャンスにもなり得るでしょう。

また、組織体制の刷新に伴い、上司やメンバーが変わることで、今までよりも自分に合った環境が整うケースもあります。

組織変革の恩恵を受けられる

財務基盤が強固な企業へ事業が譲渡される場合、従業員にとって雇用環境は改善します。

例えば、今まではなかったトレーニングを新しい会社で受けることができる場合もあるでしょう。新しい会社の文化に触れることは従業員にとってポジティブな刺激となり、事業運営にポジティブな変化が発生する可能性があります。

キャリアパスが多様化する

事業譲渡による組織変更は、従業員のキャリアパスの選択肢を増やすことに繋がる場合があります。特に大規模企業への事業譲渡においては、職務経験の幅が広がり、より多様なキャリアパスを描くことが可能となります。組織再編を通じて新しい職務機会に恵まれる可能性が高まります。

事業譲渡の従業員へのデメリット

事業譲渡における従業員へのデメリットとしては「雇用安定性が損なわれる可能性がある」と「士気低下のリスクがある」の2つがあります。

事業譲渡した際、従業員にとってデメリットとなる点を解説します。

雇用安定性が損なわれる可能性がある

事業譲渡において、従業員の雇用継続は必ずしも保証されていません。譲受企業に同様の職務を担当する人材が十分に存在する場合、人員過多となるケースもあります。

特に、同業種への譲渡の場合、職務の重複により雇用調整が検討される場合もあります。組織再編の過程で、従業員の待遇や職位に変更が加えられ、結果的に降格する場合もあります。

士気低下のリスクがある

事業譲渡に伴い、従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。例えば、買収先の企業において福利厚生制度が縮小された場合、従業員の仕事への情熱が失われる要因となるでしょう。待遇面が縮小されるような変更は、職場への失望感を生み出す可能性が高いと言えます。

また、雇用環境の変化による不安から、従業員が意欲を失い、退職を選択するケースもあります。組織変革の完了を待たずに離職する従業員を防ぐため、事業譲渡においては経営陣は従業員に対して、慎重な対応が求められます。

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事業譲渡に伴う従業員の雇用契約はどうなる?

従業員と厚い信頼関係が構築されている中小企業の経営者にとって、事業譲渡後の従業員の待遇は非常に気になるポイントでしょう。事業譲渡において従業員の雇用契約がどのように扱われるか解説します。

原則として雇用継続が可能

多くの事例では、事業譲渡に伴って従業員は譲渡企業から譲受企業へと移り、雇用関係が継続します。譲受企業へ移った後は、給与水準の向上や待遇が改善される場合が多いです。

従業員の待遇が改善する場合が多い理由としては、他社を買収できる企業は豊富な経営資源を有しているからこそ、買収できるという背景があります。したがって、譲渡後は買収企業の給与体系に準じて給与が改訂されたり、福利厚生が以前より充実したりと待遇改善が期待できる場合が多いのです。

また、専門知識や技術を保有する従業員は優遇される可能性が高くなります。事業譲渡の目的として、譲受企業は譲渡側が保有する専門的なノウハウの獲得を重視しているため、実務経験が豊富で高度なスキルを持つ従業員は、買収企業から高い評価を受けやすいです。

リストラされる場合

日本では一般的に、急な人員削減を実施することは困難です。しかし、雇用継続を義務付ける契約が存在しない場合、組織再編に伴う人員整理のリストラが発生する可能性があります。

買収企業が必要としている経験やスキルを有する人材の場合、雇用が打ち切られることはほとんどありません。一方で、汎用的なスキルしか持たない一般事務職などは、新会社体制において余剰人員として判断される場合が専門性を有する人材と比較すると高い傾向にあります。

また、買収企業が想定以上の人員を引き継いだ際には、組織のスリム化を目的とした人員調整が行われることもあります。そのため、専門性の高い従業員と比較して、定型業務を担当する社員の方が、雇用継続の観点で不安定な立場に置かれやすい傾向にあると言えます。

再雇用される場合

事業譲渡において、従業員が現在の会社を退職して買収企業で新たに働き始めるパターンが再雇用です。給与などの待遇は通常、そのまま維持されることが一般的ですが、再雇用の場合は、買収企業が労働条件を独自に設定できます。

旧会社と新会社の間で福利厚生や給与体系に大きな差異が存在する際に、再雇用方式が選択されることが多いです。買収企業にとっては既存の人事制度との整合性を取りやすいメリットがあります。しかし、再雇用の成立には旧会社・新会社・従業員3者全ての合意が必要です。1者でも反対があれば契約は不成立となります。

労働契約の引き継ぎはされない

従業員の労働契約については自動的に引き継がれることはなく、買収される企業と買収する企業が合意した上で、対象となる従業員一人一人から同意書を取得する必要があります。

基本的に、事業譲渡においては、個々の権利や義務が自動的に承継されない仕組みとなっています。労働契約以外には、不動産や設備などの資産、債権債務関係についても、個別の承継手続きが必要です。

移籍に反対する従業員への対応方法

買収企業が従業員と新規の労働契約を締結するためには、各従業員から同意を得ることが必須となります。移籍への不満を持つ従業員は転籍を拒否し、退職する可能性があるため、慎重な対応が必要です。

雇用契約を新たに締結できない状況においては、売却企業の現行契約を維持したまま、労働条件に不利益変更のない範囲で人事異動として出向させるケースもあります。具体的には、移籍や転籍に消極的な従業員に対して、売却企業から買収企業への出向をさせます。

しかし、移籍反対者への強制的な対応は、組織全体の士気低下につながりかねません。仮に会社に残留する選択をした場合でも、従業員のモチベーションが低下することで、期待される業務成果が得られない事態も想定されるでしょう。

配置転換を要望するケース

事業譲渡先への転籍を望まない従業員から、現在の会社内での配置転換の要望が寄せられるケースが見られます。転籍を希望しない社員が、事業譲渡対象外の部門への異動を申し出ることは珍しくありません。

配置転換において人事部門は、配置転換を希望する従業員の能力や経験と、各部署における人員配置の状況を総合的に検討します。現状の人員体制で余裕がある部門が存在していれば、従業員の意向に沿った異動は実現可能となるでしょう。

ただし、長年勤務してきたベテラン従業員ほど、新しい部署での処遇に関して慎重な調整が求められます。給与水準や職位について、これまでと同等レベルでの継続を望む声が強いのです。

配置転換の実施に際しては、異動先の部門責任者と転籍拒否した従業員の双方と入念な協議を重ねる必要があります。待遇面での調整が難航した場合、従業員が退職を選択するリスクも考慮しなければなりません。

本人の要望と会社側の体制を擦り合わせながら、慎重に対応を進めることが重要となります。

自主退職を要望するケース

事業譲渡の際、移籍を望まない従業員が自ら退職を申し出るケースもあります。

退職願を自主的に提出する従業員は、一見すると自己都合での退職のように見えますが、事業譲渡対象部門の従業員にとって、譲渡先企業への移籍を拒否すれば退職せざるを得ない状況に追い込まれたと判断される可能性が高いです。

慎重な対応を怠り会社と従業員の間で問題が発生すると、売却企業側が実質的な解雇を行ったとみなされるリスクがあります。解雇という形態を取らざるを得ない状況では、解雇予告手当の支払いが必要となり、自己都合退職と比べて会社側の負担が増大してしまいます。

事業譲渡の対象業務に従事している従業員を解雇する際は、予想以上の費用負担が生じる可能性があるため、慎重な判断と適切な対応が求められます。

社員移籍時の注意事項

事業譲渡に伴う従業員の雇用契約について、最も重要なのは個別の契約手続きです。雇用主が変更されることから、全従業員との間で新たな雇用契約を締結する必要があります。

買収後のシナジー効果を最大限に引き出すためには、移籍する従業員のモチベーション維持が欠かせません。労働条件は新旧の企業間で異なる場合が一般的なため、慎重な調整が求められます。

特に重要なのは、移籍前の段階での十分なコミュニケーションです。新会社での待遇や労働条件について事前に明確な説明を行わないと、会社と従業員との間でトラブルが発生するリスクが高まってしまいます。

このように、事業譲渡における従業員の移籍では、個別契約の締結から労働条件の調整まで、きめ細やかな対応が必要です。

退職者への対応策

事業譲渡においては、従業員の雇用契約が自動的に引き継がれることはありません。買収企業への移籍時には、一度雇用契約が終了となり、従業員は形式上退職の扱いとなります。

給与や退職金の精算は売却企業が行う必要がありますが、多くのケースでは買収企業側で勤続年数を引き継ぐことが一般的になっています。移籍する従業員は、買収企業と新たに個別の雇用契約を締結することとなります。

事業譲渡後も事業自体は通常継続されるため、従業員の業務内容に大きな変更が生じることは少ないのが実情です。賃金、労働時間、勤務地などの労働条件についても、移籍前と同様の条件で雇用契約が結ばれるのが標準的な対応となっています。

事業譲渡に伴う従業員の退職に関する注意点

事業譲渡に伴う従業員の退職に関する注意点について、解説します。

事業譲渡に伴う従業員の退職について、注意すべき点がいくつかあります。転籍同意書の準備や退職期日の取り決め、退職金の取り扱い、退職時の手続き(引継ぎ)です。

転籍同意書の概要

民法第625条第1項には、労働者の承諾なしに使用者が権利を第三者へ譲渡できないことが規定されています。そのため、事業譲渡における従業員の転籍手続きは、対象となる従業員から同意を得ることが必要不可欠となります。

転籍の実施にあたっては、売却側企業が対象従業員から転籍同意書を取得する必要があります。なお、転籍同意書については、一般的なひな形を活用することが可能です。

退職期日の取り決め

従業員の退職日は、原則として売却側企業での雇用期間が終了する日となります。転籍同意書の締結がなされている従業員については、個別協議により退職期日の調整が認められます。

会社都合による解雇が避けられない状況においては、法令に基づき30日前までに解雇予告を実施する必要があります。また、従業員から自主的な退職の申し出があった際は、本人との話し合いを通じて最適な退職時期を設定していくことが望ましいです。

退職金の取り扱い

事業譲渡において、転籍に同意した従業員への退職金対応には、大きく2つの方式が存在します。

ひとつは譲渡時点で退職金を精算する方法です。もうひとつは譲受会社が退職金を引き継ぐ方法です。

なお、譲渡先企業への転籍を拒否して自主的に退職する社員については、一般的な退職時と同様の退職金支給プロセスが適用されるため、詳しい説明を省略します。

買収側による退職金の引き継ぎ対応

事業譲渡において、従業員の退職金に関する権利の処理は重要な課題となります。買収企業は、移籍する従業員が売却側企業で積み立ててきた退職金の権利を引き継ぐことが一般的です。

売却側企業は、転籍に同意した従業員に対して直接退職金を支給する必要はありません。ただし、退職金相当額については、買収企業への支払いや譲渡価格からの控除といった形で精算する必要があります。

退職金支払い時の注意点

事業譲渡における退職金の精算については、原則として売却企業の規定が基準となります。買収企業が退職金を引き継ぐ場合でも、売却企業の規定に基づいて計算が行われることになります。

退職金に関する所得税の控除額は、従業員の勤続期間によって算定方法が異なります。具体的には、20年以内の勤続期間であれば「40万円×勤続年数」が控除額となります。ただし、計算結果が80万円を下回る場合は、80万円が控除額として適用されます。

勤続20年を超えるケースでは、控除額の計算方法が変更になります。20年までの基本控除額800万円に加えて、「70万円×(勤続年数-20)」という追加控除が認められます。

事業譲渡に伴う転籍の場合、勤続期間の取り扱いが重要なポイントとなります。例えば、転籍前の会社で19年、転籍後の会社で15年勤務した場合、合計34年の勤続期間となります。勤続期間がリセットされてしまうと、控除額が減少し、結果として手取り額が少なくなる可能性があります。

なお、前企業と新企業の勤務期間を合算して退職金を計算する場合は、新企業の退職給与規程に明確な記載が必要となります。そのため、企業側は退職金の支給に関する規定を適切に整備することが求められます。

退職時の必要な手続き

転籍同意書で買収側への移籍に合意した従業員は、売却企業から一旦退職することになります。業務の引継ぎについては、特殊な状況がない限り事業譲渡後に計画を立てることが可能です。

事業譲渡に伴い引き継ぎが発生しない場合

事業譲渡に伴う転籍拒否者が退職する際、買収企業との引き継ぎ業務が発生しない状況においては、移籍予定の社員との通常の引き継ぎ作業を完了させてから退職することが一般的です。退職に関する手続きは、一般的な退職のケースと同じ流れで進められます。

ただし、重要な点として、事業譲渡日という明確な期限が前もって設定されているため、引き継ぎ作業のスケジュール設計が重要です。事業譲渡日を過ぎてしまうと、退職予定者は従業員としての身分を失うため、引き継ぎを継続できなくなってしまいます。

事業譲渡に伴い引き継ぎが発生する場合

売却側の従業員が退職し、買収側の社員との間で引き継ぎ業務が生じる状況では、手続きが複雑化する傾向にあります。

スムーズな引き継ぎを実現するためには、事業譲渡日より前から買収側の社員に売却側の業務に関与してもらうことが効果的です。買収側の社員は事業承継後も雇用関係が継続されるため、業務の一環として引き継ぎ作業を依頼しやすいという利点があります。

事業譲渡日以降も引き継ぎが必要となる場合は、売却側で退職する従業員の退職日を事業譲渡日より後に設定することについて、事前に合意を得ておく必要があります。譲渡される事業所内での引き継ぎにおいては、事業譲渡日以降は別会社となることから、短期の出向に類似した扱いとなります。

別の方法として、事業譲渡日に一度退職手続きを行い、その後に売却側か買収側で短期雇用契約を結ぶアプローチも考えられます。ただし、転籍を拒否した従業員からは同意を得られにくい可能性が高いため、慎重な対応が必要です。

事業譲渡に伴う従業員の労働契約の引き継ぎ

従業員が事業譲渡により買収企業へ異動すると、元の会社との雇用関係は一旦終了となります。新会社との間で転籍同意書に基づく新たな雇用契約を締結する際、形式上は元の会社での有給休暇などの権利がリセットされる可能性があります。

ただし、実務上では転籍する従業員への配慮から、元の会社で保有していた権利を継続させるケースが一般的となっています。有給休暇に関しても同様で、買収企業は前職での取得状況を引き継ぐ形で対応することが多数です。

給与や待遇

事業譲渡における従業員の給与・待遇について、重要なポイントを解説します。

企業の事業譲渡では、従業員は買収企業との間で転籍同意書を取り交わし、新たな雇用契約を締結することが基本となります。新たな雇用契約では、従来の給与体系や退職金制度が完全には維持されない可能性があります。実際に、待遇面で大幅な変更が生じるケースも見受けられます。

M&Aを成功させるためには、優秀な人材の流出を防ぎ、従業員のモチベーション維持が不可欠です。そのため、多くの買収企業は既存の従業員に対して、これまでと同等の給与水準や退職金制度を保証する傾向にあります。

また、従業員間で不公平な待遇が生まれると、職場の雰囲気が悪化し、業務効率の低下を招く恐れがあります。買収企業は従業員一人一人の処遇について、慎重に検討を重ねることが必要です。

有給休暇

買い手企業は、事業の継承と同時に従業員の権利である有給休暇を引き継ぐ義務があります。

譲渡先の新会社への移行に際して、有給休暇については労働条件の一部として扱われます。そのため、新会社と従業員との間で具体的な条件を協議し、合意形成を図るのが一般的な進め方です。

未払い賃金

企業が社員やパートタイムスタッフに対して未精算の賃金を抱えているケースでは、事業譲渡前に譲渡企業による支払いが必要となります。残業代などの賃金債務は、元々の会社に支払い責任があるためです。

譲受企業は事業承継に伴い、原則として譲渡企業の債務も引き受けることとなります。賃金の未払い分についても、新会社が引き継がなければいけない義務の一つです。

さらに注意が必要な点は、未払い賃金の存在が帳簿に記載されていないケースです。簿外債務として従業員から支払い請求を受ける可能性があり、譲受企業が予期せぬリスクを負うことになります。そのため、DD(デューデリジェンス)など事前の精査が重要です。

特定の従業員のみ引き継ぐ場合のリスク

事業譲渡が行われる際、買収側企業が全従業員の雇用を継続する保証はありません。十分な人員体制が既に整っている企業においては、全従業員を受け入れる必要性を感じない場合が多数です。時には、買収側企業の要望により、一部の従業員のみが選別されて引き継がれることもあります。

なお、既存の業務遂行体制が確立している企業では、新たな人員を大量に受け入れることへの負担を懸念する傾向にあります。結果として、買収側企業が従業員の選別を行い、必要最小限の人数に絞って雇用を継続するというケースも少なくありません。

リストラ目的の形式的な事業譲渡の場合

事業譲渡が形式的なリストラ目的で行われる場合、法的な規制に直面します。労働基準法では、整理解雇を実施できる状況について厳格な条件が定められているのです。

従業員の雇用を守る観点から、企業は安易に整理解雇ができません。リストラの実施においては、希望退職者の募集など、他の選択肢を優先的に検討しなければなりません。

整理解雇が認められるためには、複数の厳密な要件を満たす必要があります。人員削減に至るまでの過程で、企業は段階的なアプローチを取ることが求められています。

特定の従業員の排除を意図した事業譲渡の場合

労働基準法の規定により、企業が従業員を解雇することは容易ではありません。そこで、リストラ対象となる従業員をある事業部門に集約し、その部門ごと譲渡するという手法を選択する会社が存在します。

従業員排除を目的とした事業譲渡は、法的に大きな問題をはらんでいると言えます。実際に従業員から不当な取引として訴訟を起こされ、事業譲渡自体が無効となるリスクが高いです。

事業譲渡という形式を悪用して実質的な解雇を図ろうとする行為は、裁判にて厳しく判断され敗訴となる傾向にあります。そのため、従業員の雇用に関する重要な決定を行う際は、慎重な検討と適切な手続きが求められます。

事業譲渡で従業員移籍が失敗する事例

事業譲渡において、従業員の移籍が失敗する際の事例を紹介します。

優秀な人材の流出

実力重視の企業文化を持つ組織では、事業譲渡による人材流出が深刻な問題となることがあります。特に営業部門が会社の中核を担っているケースでは、個々の社員の能力が経営を支える重要な要素となっているため、人材の影響力が強いです。

会社への帰属意識が比較的薄い従業員は、移籍後のキャリアパスに不安を感じることがあるでしょう。譲渡先企業で自身の専門性や実績を十分に活かせないと判断した場合、退職という選択肢を取る傾向が強まります。

そのため、核となる人材が次々と離職してしまうと、事業譲渡自体が立ち行かなくなるケースも発生します。

経営理念の不一致

企業における経営理念は、時代やニーズに合わせて柔軟に変化します。創業時の価値観を示す企業理念とは異なり、現経営陣の判断で見直しが行われることが多数です。

売却側の従業員たちは、長年にわたって特定の経営理念のもとで働いてきたはずです。買収側の会社と経営理念が大きく異なる場合、日々の業務に支障が出る可能性が高くなります。

また、経営理念の違いは、職場での心理的な居心地の悪さを引き起こすことがあります。従業員の行動や判断の基準が異なることで、スムーズな意思疎通が困難になってしまうのです。

そのため、組織内でのコミュニケーションの問題が発生し、重大なトラブルに発展するケースも見られます。経営理念の不一致は、有能な人材が早期に退職してしまうことにも繋がりかねません。

人材の流出を防ぐためには、両社の経営理念の違いについて事前に十分な検討が必要となります。

企業文化のギャップ

企業文化や企業理念は、その会社の根幹となる価値観や信念を示すものです。売却側企業から移籍した従業員が、買収企業の企業理念や方針に馴染めず、業務遂行に支障をきたすことがあります。

経験豊富な管理職クラスの社員ほど、新しい環境への適応に苦労する傾向が見られます。地元の有力企業、特に歴史ある老舗企業からの事業譲渡では、より慎重な対応が求められるでしょう。地域密着型の企業で長年働いてきた従業員は、その企業の地域貢献や伝統的な価値観に共感して入社を決めたケースが多いものです。

M&Aにおいて、新たな企業文化を受け容れる柔軟性も重要な要素となります。

給与待遇の不満

従業員の給与待遇は事業譲渡における重要なポイントと言えます。譲渡後に待遇が改善される場合は問題ありませんが、待遇が低下する場合は大きな問題になりかねません。賃金や手当が下がることは、従業員のモチベーション低下に繋がります。

事業を買収する側は、たとえ業績が芳しくない事業であっても、現状の給与水準を維持すべきでしょう。従業員の基本給与はもちろん、残業代や諸手当、退職金制度まで含めた総合的な待遇を検討すべきです。

完全に同一の待遇を維持することは現実的ではありませんが、少なくとも手取り収入が減少しない水準を確保することが重要となります。譲渡後の従業員維持のためにも、慎重な制度設計が欠かせません。

企業統合(PMI)の失敗

事業譲渡後の企業統合(PMI)プロセスには、ハード面とソフト面の2つの要素が存在します。買収企業は段階的に両面の統合を進めていく必要があります。

ハード面における統合では、経理システムや人事評価制度など、業務に直結する仕組みの一本化が求められます。人事システムや勤怠管理の方法は、急激な変更を避け、計画的に進めることが重要です。

統合にあたっては、買収側の制度を一方的に導入するのではなく、譲渡される事業が持つ優れた仕組みを全社的に取り入れることも検討すべきです。柔軟な姿勢で臨むことで、より良い統合が実現可能です。

一方、ソフト面の統合では、企業文化や経営理念の融合が不可欠となります。社風や価値観の違いを乗り越え、一つの組織として機能させる必要があります。

ソフト面の統合がうまくいかない場合、期待していたシナジー効果が得られないばかりか、事業価値の低下を招くリスクも存在します。慎重かつ丁寧な統合作業が求められます。

事業譲渡に伴って従業員をリストラできる?

企業が経営の効率化を目指して事業譲渡を実施する際、人員削減を検討せざるを得ないケースが存在します。経営者の中には、事業譲渡のタイミングを活用して人員整理を進めようと考える方もいるでしょう。

ただし、事業譲渡を理由とした社員の解雇については、法律による厳格な規制が設けられています。事業譲渡という理由だけでは、原則として従業員を解雇することは認められていません。

雇用調整の方法

従業員との雇用契約を終了させるには、会社と従業員が十分な協議を行い、従業員からの合意を必ず取得しなければなりません。会社が実施できる雇用調整には、主に希望退職制度の導入や退職勧奨、早期退職優遇制度、整理解雇などの選択肢があります。

なお、雇用調整を実施する際は適切な手順と正当な理由が求められます。会社が一方的に退職を強要したり、法定の手順を無視して進めたりすると違法行為となってしまいます。従業員とのトラブルを防ぎ、将来的な損害賠償リスクを回避するためにも、各種雇用調整の特徴を正しく理解して慎重に進めることが大切です。

以下で雇用調整の具体的な方法について解説します。

事業譲渡に伴い従業員を即座に解雇することはできませんが、雇用調整の方法がいくつかあります。退職勧奨や、早期退職制度、希望退職、整理解雇、雇止めなどの方法があります。

退職勧奨の実施

退職勧奨は、企業が従業員に対して退職を提案する施策です。従業員が退職勧奨に応じて退職する場合、法律上は自己都合退職という扱いになります。

自己都合による退職については、法的な規制が存在しないため、企業側の裁量で進めることが可能です。しかしながら、退職勧奨を受けた従業員が応じない意思を示した際は、企業が一方的に雇用契約を終了させることはできません。もし企業が従業員に無理な退職を迫った場合、従業員から損害賠償請求や不当な処遇の是正を求められるリスクが生じてしまいます。

早期退職制度の利用

早期退職制度とは、定年前に従業員が任意で退職できる仕組みのことです。該当する社員が主体的に退職を選択する制度であり、企業側から強要することは禁止されています。

事業譲渡において早期退職が導入される背景には、人員削減という目的があります。会社は通常の退職金に加算金を付与するなど優遇的な条件を提示することが多く、企業にとって財務面での負担が大きい制度です。

希望退職募集

事業譲渡において、人員削減の手段として活用されるのが希望退職制度です。

希望退職募集は従業員から自主的に退職の意思を表明してもらう仕組み形式になっています。そのため、会社は従業員に対して無理な退職強要を行うことはできません。募集にあたっては、会社と従業員の双方の合意が不可欠となります。

会社都合による退職という扱いになるのが、希望退職による退職の基本的な考え方です。ただし、有能な人材が希望退職を申し出た際は、会社側が慰留することも可能となっています。なお、会社による慰留を断って強行的に退職を選択した場合、自己都合退職として処理されることになります。

整理解雇の適用

事業譲渡に際して整理解雇を実施する場合、厳格な要件を満たす必要があります。整理解雇の有効性を認められるためには、いくつかの要件を満たしているか確認が必要です。

第一に、企業における人員削減の合理的な必要性が求められます。また、配置転換や希望退職者の募集など、可能な限りの解雇回避措置を講じたことを示す必要があります。

解雇対象者の選定においては、公平性と合理性のある基準を設定することが重要です。更に、労働者との誠実な協議や説明を尽くすなど、手続きの相当性も確保する必要があります。

整理解雇の要件は非常に厳しく、企業側に大きな負担を課すものとなっています。万が一、社員との話し合いを重ねても配置転換による雇用継続や労働契約の承継について合意に至らない状況では、最終的な選択肢として整理解雇を選択する場合があります。

雇止めによる契約更新拒絶

事業譲渡における従業員の雇用調整については、労働契約法第16条の規定が重要な意味を持ちます。労働契約の承継を拒否したことのみを理由とする解雇は、基本的に認められないのです。

雇用契約が社会通念上適切でないケースや、合理的な理由が見当たらない場合には、従業員を解雇することは困難でしょう。そのため、企業側には慎重な対応が求められます。

一方で、有期雇用契約においては、最長3年という期間制限が設けられています。採用時点で契約期間を3年以内と明確に示していれば、企業側には更新義務が生じません。

有期雇用契約を適切に運用することで、企業は合法的な雇用調整を行うことが可能となります。

事業譲渡で従業員トラブルを回避するには?

事業譲渡における従業員とのトラブルを回避する方法として「従業員視点でのフォローアップを行う」「適切なタイミングで情報を公開する」「従業員視点でのメリットを明確化し伝達する」の3つがあります。

事業譲渡において、従業員とのトラブルを避ける方法を解説します。

従業員視点でのフォローアップを行う

事業譲渡の通知を受けた従業員の中には、会社から切り捨てられたような感情を抱く人が少なくないでしょう。異動や転籍の対象となった従業員と、現部署に残る従業員との間で待遇の違いに不満を感じるケースも発生します。

そのため、譲渡企業側には従業員の心情に寄り添った丁寧なサポートが必要です。従業員への説明が不十分だったり、配慮に欠ける対応をしたりすると、大規模な人材流出を招く恐れがあります。

買収企業においては、転籍してきた従業員が新しい職場環境で感じるストレスを軽減できるよう、万全の受け入れ態勢を構築することが重要です。

適切なタイミングで情報を公開する

従業員とのトラブルを未然に防ぐためには、事業譲渡の情報公開時期が重要なポイントとなります。経営層は慎重に情報開示のステップを踏んでいく必要があります。

M&A取引において、基本合意書の締結前は情報を経営層内部にとどめておくことが賢明です。その後、基本合意書を交わした段階で、デューデリジェンスの実施に向けて財務経理部門や各部署の管理職への説明を進めていく流れとなります。

全従業員への事業譲渡の告知は、最終契約書の締結後からクロージングまでの期間、もしくはクロージング後が最適なタイミングとされています。早期の情報開示は社内の混乱を招き、円滑な業務遂行の妨げになる可能性が高いためです。

従業員視点でのメリットを明確化し伝達する

事業譲渡における従業員トラブルを防ぐためには、転籍によってもたらされる具体的なメリットを明確に説明することが重要になります。従業員の待遇改善が見込める点を具体的に伝達すれば、円滑な合意形成につながりやすいです。

転籍先の企業環境によっては、新たなキャリアパスの開拓やスキル向上の機会が広がることもあります。規模の大きな企業への転籍であれば、経営基盤の安定性が高く、雇用の継続性も期待できます。

また、大手企業では充実したコンプライアンス体制が整備されているため、適切な業務遂行を継続する限り、雇用環境の安定性が確保されるでしょう。メリットを丁寧に説明し、従業員の不安を取り除くアプローチを取ることで、事業譲渡への理解と協力を得られる可能性が高まります。

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事業譲渡に伴う従業員への影響のまとめ

事業譲渡が実施されても、原則として従業員は継続して雇用されることになります。ただし、譲受企業との間で新たな労働契約を締結する必要があります。従業員が新会社への移籍を望まない場合や、譲受企業側が雇用を希望しないケースでは雇用継続が困難となる場合もあります。

事業譲渡におけるトラブルを防ぐためには、譲渡企業は従業員の処遇について譲受企業と丁寧な協議を行う必要があります。また、従業員に対して事業譲渡の情報を適切なタイミングで開示していくことも重要です。

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