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公開日:2023年12月27日
更新日:2024年3月25日

中小企業のM&Aにおけるポイントを、各当事者の立場から徹底解説

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中小企業のM&Aのポイントについて、売主側(譲渡側)と買主側(譲受側)の各々の立場から解説します。

中小企業のM&Aの特徴

中小企業がM&Aを行う際の特徴について、売主側(譲渡側)の視点から以下に説明します。

1.事業承継・後継者不在の課題解決
2.経営者の早期引退や 一度EXITし、新たな人生に向かう場合

1つ目は、事業承継や後継者不在の課題解決のためにM&Aが実施されるケースです。例えば、ご子息が就職して実家に戻らず家業を継がないケースなどです。

2つ目は、早期に引退するケースや、新たに起業する場合です。例えば、会社の組織が大きくなり、「やはり自分は0→1をやりたい」というお考えがあり、一定程度事業規模が大きくなったタイミングでEXITを選択されるオーナー経営者も多い印象です。(ちなみに、「バイアウト」は買収の意ですので、売却をあえて横文字で表すとすると「EXIT」となります)

譲渡側から見た中小企業M&Aの注意すべきポイント


譲渡側から見た中小企業M&Aの注意すべきポイントについて以下の5つのポイントについて説明します。

1.中小企業がM&Aを行うメリット
2.中小企業がM&Aを行うデメリット
3.自社の企業価値を想定する
4.交渉中のリスクを把握し、手当する
5.譲渡後のリスクを把握し、備える

中小企業がM&Aを行うメリット

中小企業がM&Aを行うメリットは沢山ありますが、ここでは以下3点を例示します。

1点目は資金力が拡大したりコスト削減の効果を得やすくなったりする点です。(規模の経済)中小企業がより大きな企業に参画することにより、グループ全体として資金面の体力がつきます。成長のための投資やスケールメリットの恩恵の機会が高まります。例えば、原材料の大量仕入れやバックオフィスの統合によるコストの削減が期待できます。

2点目は雇用面や人材面です。例えば買い手側企業の看板やブランド力によって、より優秀な人材の獲得や交流の機会が高まります。

3点目は福利厚生面の充実です。大企業とM&Aが実現した場合、充実した大企業の福利厚生制度の恩恵を享受できます。また大企業の信用力によって、従業員が住宅購入する際に住宅ローンの審査に通りやすくなることも期待できます。

中小企業がM&Aを行うデメリット

中小企業がM&Aを行うデメリットには、大きく以下の2点があります。

1点目は買い手側企業のカラーに染まり、売り手側(対象会社)の独自の企業文化が失われてしまう可能性です。大きな環境変化によって、売り手側(対象会社)の従業員が働きにくくなり、人材が流出してしまうリスクも起こり得ます。

2点目は適切な説明がなくM&Aを行うことが漏洩した場合です。企業売却がネガティブな噂となって広まり、企業価値が低下してしまうケースです。意図しない情報漏洩がデメリットになる可能性があります。(情報の管理については、適切なタイミング、適切な伝達方法、適切な開示範囲がありますので、M&Aの専門家とご相談ください。)

自社の企業価値を想定する

自社の企業価値を適切に想定することは極めて重要です。特に、希望売却価格と自社の企業価値を切り分けて考えることがポイントです。 企業価値の想定を行う場合はバイアスがかかることがあるため、M&A仲介会社やFAと相談することが重要です。(ここで、M&A仲介会社は確定的なバリュエーションを提示しない点も注意が必要です。より精緻なバリュエーションを求める場合はFAとご相談ください。)

企業価値の評価は、時価純資産法、類似企業比較法、DCF法などによって、数値的・客観的に評価されます。自社の企業価値とあまりにもかけ離れた売却金額を設定し、売却価格と自社の企業価値に大きな乖離がある場合はそもそもM&Aの交渉のテーブルにのらないということが起こり得ます。具体的に言うと、例えば、客観的に10億円程の企業価値の会社のケースで、根拠乏しく20億円を提示した場合は、深い議論に至らぬまま、その時点でお見送りとなってしまいます。本来の会社の強みを伝える“場”すら与えられない、ということです。20億円という金額にどうしてもこだわりたいのであれば、20億円を提示すべきですが、できるだけ自社の価値を高く評価して頂ける相手先を見つけたいという意向であれば、根拠のあるロジックを提示すべきです。売り手と買い手との間で折り合いをつけられる様に、売り手側は等身大の企業価値を想定することが大切です。

交渉中のリスクを把握し、手当する

中小企業のM&Aでありがちなのは、デューデリジェンスでリスクが指摘されることです。仮に適切な情報開示がなされず、リスクの洗い出しに抜け漏れがあった場合、クロージング後に損害賠償請求となる可能性があります。例えば、未払いの残業代がある場合は適切に支払いを完了させて解決をしておくか、リスクの存在(さらにリスクが顕在化した場合どのように手当をするか)をあらかじめ買い手側と合意しておくことが必要です。中小企業では、大企業の様にガバナンス体制が整えられているところも少なく、こうした点が指摘されるとデューデリジェンス上のリスクになり、買い手側に不安を抱かせたり、減額交渉や交渉決裂になったりすることもありえます。こうしたリスクをあらかじめ手当することで円滑なM&Aを遂行することができます。

譲渡後のリスクを把握し、備える

売り手側はデューデリジェンスのプロセスで、買い手側に対して誠実にリスクを開示する必要があります。加えて、万が一の抜け漏れがあった場合に備え、損害賠償請求の上限や対象期限をあらかじめ設定し合意することが必要です。

M&Aの最終契約書(株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など)では、必ず表明保証条項と補償条項が設定されます。表明保証条項では、M&A交渉プロセスにおいて開示した情報が真実かつ正確であることを、売主が買主に対し、表明して保証します。補償条項では、表明保証条項に違反があった場合に、売主が一定の取り決めに従って損害を補償することが謳われます。

中小企業のM&Aではリスクを把握し、極小化することがポイントです。リスクを予め開示し対策を、買い手側と共に相談しておくことが大切です。リスクに備え、買い手側の「聞いていなかった」を防ぐことで、損害賠償請求に発展するリスクを極小化できます。この点はM&Aのプロセスでクリティカルなポイントになるので、M&Aのリーガルアドバイザーなどに相談すべきでしょう。

譲り受け側から見た中小企業M&Aの注意すべきポイント


譲り受け側の視点から中小企業M&Aの注意すべきポイントについて説明します。

1.中小企業がM&Aを行うメリット
2.中小企業がM&Aを行うデメリット
3.自社の戦略と強みを分析・明確化する
4.案件のリスクを把握し、手当てする、備える
5.売主と良好な関係を構築する

中小企業がM&Aを行うメリット

買い手側のメリットは、M&Aによるシナジーが生まれる可能性です。M&Aによって自社の領域にはなかった新規事業への参入が可能になったり、企業規模が拡大したりすることで取引先や売り上げを増やせるメリットがあります。この際、意識することは買い手側が自社を主語にしてM&Aを進めることです。ともすると買収先企業の価値や売却価格だけに目が向きがちですが、自社の強みと買収先企業の価値を掛け算することでどういったシナジーが生まれるのか判断することが大切です。

中小企業がM&Aを行うデメリット

中小企業がM&Aを行うデメリットとして企業文化の急激な変化があります。例えば買い手側の企業文化やルールを強引に持ち込むと、買収された側の人材が流出し事業運営に影響をきたしかねません。しばらくの間は売り手側の企業文化やルールを尊重することが大切です。短期間で買い手側の企業の色に染めてしまうことはデメリットになります。

自社の戦略と強みを分析・明確化する

買い手側はM&Aに際して自社の戦略と強みを分析し、明確にしておくことが必要です。買収した企業の強みと掛け合わせることで、どのようなシナジーや新たな価値提供を行うことができるのか。「自社だからこそ」できる戦略を考えるべきです。例えば、自社の強みが営業力であれば、その強みと対象会社の補強ポイントがマッチするか、自社が販売網に強みを持っているのであれば、その販売網に対象会社の商品を販売することが可能なのかなど、自社の強みと、対象会社の成長戦略が一致するか?という観点で考えるのが基本だと感じています。

案件のリスクを把握し、手当てする、備える

買い手側は売り手のリスクを予め把握し、リスクが顕在化した際の対処法を想定しておく必要があります。リスクを見逃してM&Aが成立した場合、買い手側は直接的な不利益を被ることになります。先述の最終契約書で売主の表明保証を強くし、補償条項で手当しようにも、実際に賠償請求の訴訟では多大な時間やコストが発生します。また売り手側の補償に対する不確定要素も存在します。

大企業と比較すると、中小企業はガバナンスが十分機能していない場合もあり、潜在的なリスクが存在します。具体例として、売掛金はきちんと回収できるのか、現預金が帳簿通りにあるのか、不動産は担保に設定されていないかなどです。財務面や人事面、労務面など様々な切り口で、事前にリスクを把握し、しっかりと手当を行うことが必要です。

売主と良好な関係を構築する

売主と良好な関係を構築することはM&Aにおいて最も重要なポイントです。極端に激しい減額交渉をした場合、売主との信頼関係が崩れ、譲渡後のPMIに非協力になってしまうということも起こり得ます。

売主はそれまでの経営で得た膨大な暗黙知や言語化できないノウハウを保有しています。こうしたアセットは買い手側にとっても必要です。売主との関係が悪化するとトラブルが発生した際にサポートを得られなくなるリスクもあります。売り手とは良好な関係を継続すると良いでしょう。

中小企業のM&Aの動向


中小企業のM&Aでは売り手側の経営者の思いを叶えることができたり、ニッチな技術を絶やさずに伝承できたりするケースがあります。また、地域に根付いた中小企業は地域の雇用を確保するといった社会貢献的な側面もあります。様々な側面から経営を維持したいといったニーズによって、中小企業のM&Aは今後も増加していく流れにあります。

中小企業におけるM&Aの成功事例

M&Aによって資本を投入されたことで美容業界の企業価値が向上したケースがあります。
そのケースでは、優秀な美容師が経営する企業にファンドから資本が投入されましたが、売り手側の企業の体制は変更されずに、カリスマ美容師であった経営者は会長職になりました。それに伴い優秀な社員が代表になり、大きく組織体制を変更せずサービスや価値提供を向上させることができました。これは企業価値を損なわず企業運営を継続できたケースです。

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